今年で見られなくなってしまう「レジェンド」を振り返る
各自動車メーカーには象徴的なクルマ、いわゆるフラッグシップモデルが存在します。最新の技術がてんこ盛りだったり、ブランド力だったり。しかし、現在のHondaのフラグシップが550万円の「アコード」って、ちょっと寂しいと思いませんか? そこで2022年1月までHondaのフラグシップだった「レジェンド」を例に、レジェンド伝説に触れていきます。

同社初の3ナンバー仕様フラグシップとしてレジェンドが誕生したのは1985年のこと。海外メーカーの協力などを得て、車内の高級感を高めただけでなく、同社初のV型6気筒エンジンを搭載しました。その後、レジェンドはFF車では世界初となるトラクションコントロールシステム(TCS)を標準搭載したほか、ウイングターボ(可変ノズルターボ)、日本車初の助手席エアバッグ、前後輪と後輪左右の駆動力を自在に制御するSH-AWD、世界初の自動運転レベル3など、独自の技術を搭載し、人々を驚かせてきました。
その一方で、バブル期以降と時を重ねる「セダン冬の時代」にあらがうことはできず、5代目が2021年12月に生産完了。翌年1月末に販売終了となり、37年の歴史に幕を下ろしました。

レジェンド伝説の最後を飾ったのが、2021年3月に100台限定生産した「Hybrid EX・Honda SENSING Elite」。ちなみに、当時の価格は1100万円。通常のレジェンドが約725万円だったので、約300万円以上の開きがありました。しかもリース専用車で、3年のリース期間終了後はすべて回収されるというから驚き。
つまり、2025年(今年)には街で見かけることがなくなるという超レア車! この記事を読んで欲しいと思っても、中古で買うことができない、というわけです。普通のレジェンドは買えますが。



ボディーサイズは全長5030×全幅1890×全高1480mm。

車体後方、ナンバープレート付近には「AUTOMATED DRIVE」というシールがペタリ。「どうしてHondaはこんなデザインにしたんだ?」と思ったのですが、これは国土交通省自動車局技術政策課が考えたものなのだとか。ちなみに付けないことによる罰則はないとのことで、剥がすのも自由です。
レジェンドが自動運転レベル3時代を切り開いた



車体を見回すと、あちらこちらにセンサーがいっぱい。もちろんこれらは自動運転レベル3に必要なものになります。では、自動運転レベル3とは一体何なのでしょう?


現在普及している自動運転はレベル2と呼ばれるもので、ドライバーによる監視を必要としています。車種によってはハンズオフ機能がありますが、基本的にドライバーは前を向いている必要があります。ですが、レベル3になるとシステムが監視するので、適切に対応できればドライバーは監視する必要はない、と受け取れます。言い換えるならレベル2は「部分的な運転自動化」で、レベル3は「条件付き自動運転」となります。

そんな自動運転レベル3ですが、2018年に登場したアウディ A8が世界初になると思われていました。
Honda謹製のVTECエンジンで走りも楽しめる



エンジンは最高出力309馬力、最大トルク37.7㎏f・mを発生する3.7L V型6気筒自然吸気とモーターの組合せ。注目すべきは吸気側だけでなく排気側にも可変バルブ機構「VTEC」を採用していること。残念ながらSOHCですが、自然吸気VTECという響きだけでクルマ好きなら胸アツです。生み出されたパワーはHonda初の6速ATと、SH-AWDシステムを介して四輪に伝えられます。燃費はJC08モードで8.7km/Lで、燃料はハイオク専用です。





室内はもともと2014年のクルマということもあって、今のEクラスや5シリーズに見慣れた目からすると古さを感じます。ですが、レザーの質感はかなり高く、ドイツのプレミアムブランドに引け目を感じるところはありません。インフォテインメントディスプレイの画面サイズが小さいのは時代ですね。





センターコンソール周りを見て最初に気づくのは、USBがないこと。このクルマが登場した2014年は「iPhone 6」が登場したほか、Apple CarPlayがローンチした年。
上のディスプレイはナビ画面、下のディスプレイはナビの文字入力や選曲などに使用。オーディオはアメリカのハイエンドブランド「KRELL」が手掛けているものだとか。レジェンドは過去、「ラックスマン」のカーオーディオを搭載しており、そのラックスマンはKRELLの輸入代理店だったので、何か縁があったのかなと思ったり。


ステアリングホイールには、見慣れないボタンがいくつか。これが自動運転レベル3なのでしょう。
後部座席は「偉い人専用」感が漂っている










後席はさすがに高級感がとんでもなく、USBがないという点以外、現在でもまったく見劣りしないもの。アームレストにエアコン操作やリアガラス側プライバシーシェードの操作、オーディオ調整ができる液晶パネルがあり、ショーファーカー(運転手付き車)と見まごうほど。シートに座り操作をしているうちに「本田技研工業の八郷社長や三部社長は、このシートに座っているのかな」と想像しました。



ラゲッジ容量は414Lで、ゴルフバッグを3つ積載可能。リアシートは固定されているので、荷室拡張は不可能です。

インフォテインメントに古さを覚えたりしましたが、走りは現役です。普通に走るなら静かで、重厚感のある乗り心地に「Hondaって、こういうクルマも作れるんだ」と感心しきり。
フラッグシップだからこそ走行性能にこだわる
ワインディングでのハンドリングも気持ちよく、オンザレールでミズスマシのようにコーナーを駆け抜けていきます。

気持ちよくなり、うっかりスポーツモードを押してアクセルを踏み込んでみることに。すると4000回転を超えたあたりから「ンバァァアアアアアアア!」という、VTECのエンジン音が聞こえてくるではありませんか! シビック TYPE Rやインテグラ TYPE Rで走っていた人なら「Hondaといったらコレだよコレ!」と思うこと間違いナシ。20代の頃、そういったヤンチャなクルマで走りを楽しんでいた人が、年を重ねレジェンドのステアリングを握る。それはまるで「同窓会」に参加したような気分になること間違いナシです。


それでは、自動運転レベル3を体験してみます。起動すると、あとはハンズオフの世界。ハンズオフそのものは、日産のプロパイロット2.0と同じですが、ナビ画面を見るなど、多少わき見をしても(長時間は不可)警告音が鳴らないのは新鮮です。


大きく違うのは、自動的に車線変更をするところ。プロパイロット2.0の場合、前が詰まると「車線変更しますか?」というアナウンスがあり、ドライバーがステアリングのボタンを押す(またはウインカーを操作)することで車線変更しますが(ハンドルを握る必要あり)、レジェンドは「車線変更します」とアナウンスした数秒後には、ハンドルに触れることなく車線変更するのです。

さらに、追い越し車線を走っていると、自動的に走行車線に。「なんだコレは!」と驚くこと間違いナシですし、慣れないうちはこわいかもしれません。


自動運転に感心していたら、いつしか渋滞に……。渋滞時、こちらがゼロ発進から加速しているにも関わらず、かなり強引に車線変更をするクルマがあり、思わずブレーキを踏みそうになったのですが、レジェンドは冷静に対応し、道を譲りました。これが自動運転レベル3なのかとと、ただただ感心しきり。

レジェンドはHondaファン同窓会と言いたくなる走りの良さと楽しさをもちながら、自動運転レベル3という先進機能を搭載しています。そしてラグジュアリーな空間と、Hondaでしか作りえない「走りのHonda」らしさに溢れた1台。やっぱりフラグシップはこうでないと。
アコードは良いクルマなのですが、そういったフラグシップ的な要素が足りないように思います。それは価格的にも仕方ないでしょう。
トヨタのクラウンやセンチュリーがSUVタイプを出したように、セダンというパッケージに拘らずに、レジェンドの名を復活してほしいと願わずにはいられません。Hondaらしいフラグシップモデルが出ることを期待したいですね。
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