渋谷の北朝鮮。
インパクトのある帯の惹句に、下世話な好奇心がウズウズした。
身内や知人を宿泊させると転入出費用として10000円、平日17時以降と土日は介護事業者も出入り不可、浴室工事が事実上無理、救急車を呼んだのになかなか部屋に入れない、「Uber Eats」も入館できない、賃貸しようとすると理不尽な条件をつけられる、購入の際にも管理組合と面接しなければならない......。
秀和幡ヶ谷レジデンスには、このような信じ難い決まりがいろいろある。引越しの時には荷物をチェックされ、館内には多数の監視カメラがあり、まるで見張られているようだともいう。関係者からの情報を得て、著者は住民たちに取材を始めるのだが、状況は予想以上に読者を驚愕させるものだ。
謎ルールによる厳しい体制を敷いているのは、長年管理組合に君臨(?)し続けている理事長と理事たちである。委任状により過半数の承認を得ていることを理由に、総会で出される疑問や反対意見に全く耳を貸さない。過去には不透明な工事費用に対して異議を唱え活動していた住民たちがいたのだが、理事たちや管理人から数々の嫌がらせを受けたという。そんなことも知れ渡っており、声を上げない住民が増えてしまったようだ。
黙っている気持ちもわかる。公正でない運営を認めたいわけではないが、時間や労力を奪われたり、住みづらくなったりするのはまっぴらごめんだ。
管理費の大幅な値上がりをきっかけに空気が変わる。総会での説明の不明確さや、質問者を人格攻撃するような理事たちのやり方に納得できない数名の住民たちが、理事会打倒に必要な過半数の賛同を求めて活動を始めたのだ。さまざまな経歴と知識を持った人々が力を出し合っていい方向に......と簡単にはいかない。温度差や意見の食い違いにより、活動から距離を置く人もいれば、主要メンバー同志の諍いも起きる。管理組合側の妨害も強力だ。一方で、新たな戦力となる住民も現れる。まるでドラマのような手に汗握る展開と、キャラの立った人々から目が離せない。長い闘いの末に挑んだ総会がクライマックスだ。連ドラの最終回ばりの盛り上がりに、胸が熱くなった。
読みながらずっと気になっていたことがある。
「本当は仲間がほしかっただけじゃないかな。あいつをたきつけ、美味しい思いをしていた他の理事たちのほうが、よっぽど無責任で悪質」最終章に登場するある住民のこの言葉が、切なさと一緒に心に残った。JAの神様と呼ばれた男による不正の実態に迫ったノンフィクション『対馬の海に沈む』(窪田新之助・著 集英社)と読後感が似ている。こういう問題は、日本のあちこちで起きているのかも。恐ろしくなってしまうのは私だけだろうか。理事長を持ち上げ続けていた理事たちの本音や、管理室の受け渡しを最後まで拒否した管理人の事情もよくわからないままだ。いつか取材に答えてくれる日が来ればいいと思う。
正直なところ、変なマンションを舞台にした他人の不幸話として読むつもりだったのだ。読み終えた今は、自分が住む国の政治や、属してきた組織の問題を重ねずにはいられない。
(高頭佐和子)