私は団地育ちである。同じような建物が延々と並んでいて、つまらない場所だとずっと思っていた。
そんなしみじみとした思いを、さらに進化?熟成?させる団地小説が刊行された。著者はもちろん、藤野千夜氏だ。読んで以来、わざわざ何の縁もない団地に出かけてみたり、ちょっと遠出をすると、近くにいい感じの団地はないのかを調べてみたりしている。まさかこんな日が来るとはねえ。中学生の私が知ったらさぞ困惑するだろうなあ。
16歳の花は、もうすぐ高校3年生になるはずなのだけれど、学校になじめず登校していない。家にこもっているわけではなく、近所の図書館に行ったり、駅まで自転車で行ったりはしている。
ある日花に、近くのマンションでひとり暮らしをしているおばあちゃんから誘いがあった。花のお母さんやおじさんが、まだ子どもだった時に住んでいた団地に行ってみたくなり、同行してほしいのだという。少し前に行われたおじいちゃんの三回忌で、おばあちゃんは「わたしもどこかで働こうかしら」と言ったのだが、お母さんもおじさんも、年齢やずっと専業主婦だったことを理由に反対をした。というより、本気にすらしてないみたいだった。ひとりだけ「いいと思う」と賛成してくれた花の気持ちが嬉しくて、おばあちゃんは一緒に出かけたいと思ったのだ。
久々に電車に乗って訪れた団地で、花はおばあちゃんと散歩をして、カフェでランチをする。住んでいた頃とはちょっとかわって、おしゃれに可愛くなっているのが楽しいとおばあちゃんは言う。花から見ると古い建物は面白くて、「楽しい、エモい」とふたりで盛り上がる。毎月一緒に、花が調べた団地のお店に行ってみることになった。
訪れる店は、かわいい犬のいるおしゃれなカフェだったり、リーズナブルなランチのある有名寿司店だったり、お蕎麦屋さんだったり、タイ料理店だったりとさまざまである。
好きなことを見つけるのは、学校に行くより難しいことなのかもしれない、と思い始めた花。おじいちゃんが亡くなって3年経ち、新しいことを始めてみたいと思っているおばあちゃん。何かをやってみたいけれどまだ見つけられていない者同士の二人は、年齢は離れているけれど心が自然に通い合っている。
世間のスピードではなく、自分のペースでやりたいことを見つけたっていいのだということ。気の合う相手とただのんびり過ごす時間は、とても貴重でかけがえないものだということ。私もよく知っているはずなのに、時間に追われているとつい忘れてしまう。花とおばあちゃんの楽しい時間は、そういう大切なことを思い出させてくれた。
藤野千夜氏といえば、ヒット作『じい散歩』(双葉文庫) が宮崎本大賞を受賞しとたとのこと。
(高頭佐和子)