意欲的というか、いっそ酔狂なといったほうがいいかもしれない、なんともユニークな企画だ。大正末期から昭和十年代半ばまでの尖鋭・爛熟の都市文化を背景に、徒花のように開花した娯楽としての怪奇・猟奇のホラーを掘りおこしたアンソロジー。
収録作品中でもっともSF要素が多いのは、西田鷹止「火星の人間」。語り手の戦慄的な体験からはじまる物語に、老学者の発明した物質複製機(作中では「実質写真」と表現されている)、火星から来た男と、超科学的なアイデアが投入されていく。ただし、この作品、全体としてジャンルSFの規範からは外れるのだ(詳細はオチを明かすことになるのでここでは言えない)。もちろん、その外れ方も含めて、この時代らしいホラーのたたずまいである。
十菱愛彦「青銅の燭台」は、厳格な伯母に養育されて育った双生児の兄妹が、伯母の留守中、邸内の禁じられた部屋へ忍びこみ、不思議な魔書を発見する。オカルティスムの雰囲気と衒学的な文章が印象的な一篇。
高垣眸「バビロンの吸血鬼」は、二千年以上前に催眠術を施され、生きたまま眠っていたミイラが現代に復活する。戦前の児童雑誌に掲載された珍しい本格ホラー。
城田シュレーダー「食人植物サラセニア」は、その題名が示すとおり人喰い植物の怪異を描く。
宮里良保「墓地下の研究所」は、人造人間を完成した技術企業と、その人造人間のために幽界から魂を調達しようとするマッドサイエンティストの物語。超科学と超自然とがあっさりと混淆する小品だ。妹尾アキ夫「硝子箱の眼」も小品。脳だけを人体から取りだして生かしておく、のちにカート・シオドマク『ドノヴァンの脳髄』で有名になったアイデアが扱われている。
全二十一篇。各篇によくぞ調べたと思うほど情報豊富な解説が付されている。まさに会津信吾にしかなしえない一冊だ。
(牧眞司)