幼稚園が嫌いだった。ひ弱でトロくて、自分の思っていることをうまく言葉にできなかった私は、周囲のペースに全くついていけず、毎日濁流の中に飛び込めと言われているような気持ちがしていた。
はんなちゃんが通っている保育園の環境は、相当良くない。狭くて古くて何もかもぼろぼろの場所に、たくさんの子どもたちが詰め込まれている。園長と副園長は嫌な感じで、若い先生たちはいつも忙しくて、子どもたちに当たり散らしている。先生が立て続けに辞めてしまった後、ローズ先生がやってきた。
明るい灰色の髪は男の子みたいなベリーショートで、大きな緑色の目は宝石みたいにキラキラしている。そして、すごくおしゃれに見えた。
ローズ先生は、他の先生たちと全然違う。一人で絵本を読んでいても「お外で遊べ」と言ってきたりしない。先生ははんなちゃんの前で、手のひらからパッと黒いばらのヘアピンを出した。それを前髪につけてくれて「とても、上品に見えます」と言った。女の子たちはヘアピンをほめてくれるのに、パパとおばあちゃんには見えないらしい。
小さい頃に読んでいた物語や絵本を懐かしむような気持ちで読み始めたけれど、途中でちょっと違うことに気がつく。はんなちゃんは、大人の目線で見るとだいぶ孤独な状況にいるのだ。わがままを聞いてくれる大人が、周囲にひとりもいない。パパは愛情がないわけではないのだろうけれど、仕事が忙しい上に自分のことで頭がいっぱいだ。はんなちゃんのことをちゃんと見てくれていない。おばあちゃんは、はんなちゃんのことが嫌いだ。「気味の悪い子」とまで言って、面倒を見ること拒否する。先生たちも、ガンコで何を考えているのかわからない子だと思っているみたいだ。特に副園長は、子どもの近くにいてはいけない人だと思う。
どうしておばあちゃんに嫌われていたのか。すみっこで本を読んでいるだけだったのに、問題児扱いされてしまったのか。サミールのママはなぜ優しかったのか。理由が見えてくるのは、15歳のはんなちゃんが登場する物語の終章である。
はんなちゃんに生きる力をくれたローズ先生の言葉に、幼稚園に行くのが嫌でグズグズ泣いている私を勇気づけてくれた物語の記憶が重なる。私の子ども時代にも、たぶんローズ先生はいたのだと思う。忘れてしまっているけれど、はんなちゃんとはローズ先生のパーティで出会っていたのかもしれない。あのパーティに参加していたたくさん子どもたちが、きっと世界中にいるのだ。
心の中に小さな火が灯るような、幸福な想像をさせてくれる物語だった。
(高頭佐和子)