真っ白な函に包まれた美しい本。あしらわれたリボンをほどくだけで、緊張と喜びに手が震えてしまいました。
近年、書店はちょっとした愛蔵版ブームです。文庫に比べたら価格もだいぶお高いんだけれど、凝った装丁や通常本にはない特典に、所有欲を刺激された熱心な読者の方によく売れます。
パッケージだけ取り替えて太いファンに買わせようだなんて、アコギな商売だねえ。本なんて、読めればなんだっていいじゃん。
そんなふうに思う人もいるんでしょうけれど、まあ、勝手に思っててくださいな。本は読むものでもあるんだけど、愛でるものでもあるのですよ。背表紙に箔押しされた題名と著者名の尊さ。著者からのお手紙を読んでいるような高揚感をくれる罫線と、さりげない挿絵。
『それいぬ』は、1998年に発売されて以来「乙女のバイブル」として女性たちに読み継がれているエッセイです。嶽本野ばら氏といえば、ロリータファッションの女子たちのカリスマというイメージを持たれる方が多いと思いますが、実際にはもっと幅広い層の読者がいます。発売当時、20代後半の地味な書店員だった私も、この本に夢中になったひとりでした。好きなことばかり追いかける日々はそろそろ終わりと言われる年齢になったものの、どうやら世間のいうちゃんとした大人にはなれそうにない。そんなことに気づいてしまい方向性を決めかねていた私は、このエッセイに出会って「これからは乙女で生きる」と決意したのです。今読み返してみても、唯一無二の美意識と高い教養、絶妙なユーモアセンスがきらめいている名著です。
「心を開けば友達は出来る」なんていいますが、他人に心を開くなんて勿体なくて出来ません。
「いい張る」「思い込む」「反省しない」は生活の三原則。
常識からは大きく外れたそんな言葉が、どれだけ私を晴れやかで自由な気持ちにしてくれたことでしょう。
あの頃、勤めていた書店でよくサイン会を開催させていただいていました。とびきりのおしゃれをしたたくさんの乙女たちが来てくれたものです。楽しそうにはしゃぎまくる乙女も、泣き出して止まらなくなる乙女も、震える手で本を差し出してひとこともしゃべらない乙女もいて、私は彼女たちのことも好きでした。皆さん、元気でいるかな。野ばら様に出会わなければ、もうちょい真っ当な大人になれたのかもねと私は思ったこともあるのだけれど、皆さんはどうですか?
「作家とは読者の呪いを受け止めてこそ作家であると僕は思っています」
と序文に書いてありました。野ばら様には、責任をとっていただかなくてはなりませんね。これからも、私たちのために書き続けてくださいますように。もう書かないなんて、絶対言わせませんよ。そんな恨みと願いと愛を込めながら、書籍を函の中に丁寧に収め、リボンをできるだけきれいに結ぶ時間もとても幸福です。
読んでみたいけれど、いきなり愛蔵版はハードル高いなあと思った方には、「それいぬ」の精神を全力で体現して生きる高校教師・大石タネ先生が活躍する『天橋立物語 三年菊組ロリィタ先生』(小学館)をおすすめします!
(高頭佐和子)