本書は、表題作を含む6編を収録した短編集だ。週刊青年誌『モーニング』(講談社)のほか、マンガアプリ&WEBの『コミックDAYS』や、同人誌即売会「コミティア」で発表された作品が一冊にまとめられた。
どの物語も、私たちの日常にありそうな断片で成り立っている。しかし著者の手により、いざ物語として組み上げられた途端、それらは意外な形を見せてくる。たとえば表題作の『遠い日の陽』はこんな話だ。
どこの誰ともわからぬ子どもが写った、10枚1セットの写真。フリマアプリに出品されたそれは、「チヒロ」というユーザーが、3歳から6歳のころに撮影されたものだった。高校1年生の潤平は、それをたまたま目に留めて購入した。「1万円」という値付けに少し戸惑いはあったものの、貯金から出せない額ではなかったし、どこか惹かれる気持ちが潤平の背中を押した。
届いた写真からは、さまざまな情報が読み取れた。当時の習い事やお気に入りをはじめ、ユーザー名がそのまま本名であることや、チヒロの現在の年齢が37歳であること、そして何より、彼が両親に深く愛されていたことが伝わってきた。整った顔立ちでフレームに収まるチヒロは、潤平にとっていつしか特別な存在となっていく。
その後、チヒロが2度にわたって出品した写真も、潤平はためらわず購入する。チヒロの写真を見るたび、潤平は自身の幼少期を思い出す。
穏やかな不道徳、とでも言えばよいだろうか。潤平には、自身の行いに対する客観視が常にある。それは、他の短編に登場する人物たちにも共通していて、世間的には眉を顰められる行動や嗜好だとわかっていても、彼らは足を止めない。寄る辺なくたゆたうように、それでも感情が動いた対象に忠実であり続け、やがてある地点へとたどり着く。そこに迷いはあっても、開き直りはない。彼らはただ、自分たちを照らしたものを追い求め、少しずつくじけながらも、その歩を進める。
表紙に巻かれた帯の推薦コメントは、漫画家・押見修造氏と、作家・小川洋子氏によるもの。また、マンガ作品には珍しく解説も収録されており、『メタモルフォーゼの縁側』(KADOKAWA)で知られる漫画家・鶴谷香央理氏が執筆している。三氏の名前や、タイトル文字のフォント、カケアミの表現など、何か心に残るものがあったなら、それを入り口として本書の世界に入り込むのも良いだろう。
(田中香織)