2021年5月8日から東京渋谷イメージフォーラムにて《アニメーションの神様、その美しき世界Vol.2&3》として、川本喜八郎&岡本忠成監督の特集上映が開催されます。

これはWOWOWプラス(旧IMAGICA TV)による優れたアニメーション作家にスポットを当て、その作品を最新技術で修復&発掘することを目的としたシリーズの一環で、第1弾は『話の話』などで知られるロシアの名匠ユーリー・ノルシュテインでした。

そして第2&3弾は、川本監督没後10年、岡本監督没後30年ということも鑑みながら、日本のアニメーションの発展に大きく貢献した二大両雄の作品群が4Kデジタル修復版(2K上映)としてよみがえります。

アニメーション&映画ファンにはぜひ一度見ていただきたい彼らの偉業を今回は振り返ってみたいと思います。


人形アニメーションを駆使して
人間の業を描いた川本喜八郎

まずは川本喜八郎(1925~2010)から。

人形を用いたストップモーション撮影(俗にいうコマ撮り)によるアニメーションの名匠です。

小学校の頃から人形制作に楽しく勤しんでいたという彼は、1946年に東宝撮影所に美術スタッフとして入所し、いくつかの実写映画に参加。

その後の東宝争議に巻き込まれたことを機に、人形を使った社会風刺写真の制作に従事するようになり、1950年よりフリーの人形美術家として出版物やCM制作などに携わるようになりました。

この時期、彼はチェコスロバキアの人形アニメーションの権威イジー・トルンカ監督の『皇帝の鶯』を見て感銘を受け、人形アニメーションにのめりこむようになり、1953年、日本初の人形アニメーションとされる企業PR映画『ほろにが君の魔術師』を発表。

以後、次々と人形を用いたCMや絵本を作り続け、1963年には何とチェコスロバキアに渡ってイジー・トルンカに師事!

これを機にユーリー・ノルシュテインやロマン・カチャーノフら世界中のアイメーション作家とも交流するようにもなっていきます。

帰国後も人形アニメーションや人形劇の制作を果敢に続け、1976年『道成寺』はアヌシー国際アニメーション映画祭エミール・レイノー賞&観客賞を受賞。

1982年にはNHK人形劇「三国志」の人形美術を担当したことで、日本中でその仕事が認められていきました。

1990年には愛着のあるチェコと合作で『いばら姫またはねむり姫』を発表。

2005年の『死者の書』も第39回シッチェス・カタロニア国際映画祭アニメーション部門特別賞を受賞し、これを遺作に2010年8月23日に惜しくもこの世を去りました。

今回上映される作品群は主に1970年代のものばかりですが、彼がどんどん国際的に評価を集めていく時期と呼応するのと同時に、その作風に能や文楽、日本画など“和”のテイストを用いながら、人間の心の闇や業を鋭くも幽玄に描出していくタッチが完成していく過程を追体験できるのではないかと思われます。

(晩年の作品群は割かしソフト化もされているので、鑑賞のチャンスは今後もあるかと思われます)

Aプログラム:川本喜八郎作品(5作品80分)

『花折り』(1968年/14分)
『鬼』(1972年/8分)
『詩人の生涯』(1974年/19分)
『道成寺』(1976年/19分)
『火宅』(1979年・19分)

個人的には1981年の『蓮如とその母』を昔一度だけ見たきりなので、もう一度ちゃんと見てみたいなあと願ったりしております。
(なかなか彼の特集上映のラインナップに入ることのない幻の作品ですが、武満徹の音楽も絶品なのですよ)

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「同じことは二度行わない」を
モットーとした岡本忠成

続いて岡本忠成監督(1932~1990)です。

大阪生まれの彼は一般会社に就職した後で、川本喜八郎と同様にイジー・トルンカ監督の作品群に魅せられたのが昂じて、日本大学芸術学部映画学科に編入学し、映像作家の道を歩むようになります。

1961年に戦前戦後アニメーションの草分け的存在の持永只仁が主宰するMOMプロダクションに入社して人形アニメの技術を身に着け、1964年よりフリーのアニメーション作家として活動を開始。

1965年には『ふしぎなくすり』で「従来の教育映画の枠を超えた」と讃えられて毎日映画コンクール大藤賞を、翌1966年の『ようこそ宇宙人』はヴェネツィア国際児童映画祭で銀賞および二度目の大藤賞を受賞し、一気に注目を集めることになっていきました。
(ちなみにこの2作、共に星新一のSF短編小説が原作で、この後も彼は『キツツキ計画』『花とモグラ』と、星作品をアニメーション化しています)。

彼のモットーは「同じことは二度行わない」で、木や皮、布、毛糸、紙、粘土など実にさまざまな道具を用いてアニメートさせながら(油絵調のセルアニメなどにも挑戦しています)、主に子どもたちのためのユーモア溢れる作品群を構築。

題材にしても社会風刺であったり人間讃歌であったりと、実にさまざま。

川本喜八郎同様に「和」のテイストが濃厚なのが特徴ともいえますが、こちらはのどかな民話チックで、方言や歌なども多分に盛り込みながら、日本の民俗性を情緒豊かに表現していきました。

1970年代から80年代にかけてのNHK「みんなの歌」にも多数参加しています。

Bプログラム:岡本忠成作品(5作品78分)

『チコたんぼくのおよめさん』(1971年/11分)
『サクラより愛をのせて』(1976年/3分)
『虹に向って』(1977年/18分)
『注文の多い料理店』(1991年/19分)
『おこんじょうるり』(1982年/26分)

今回のプログラムの中に入っている宮澤賢治原作の『注文の多い料理店』は、その制作途中に彼が病に倒れ、1990年2月16日に惜しくも亡くなってしまった後、盟友の川本喜八郎が監修することによって、ようやく完成を果たせた作品です。

奇しくも両雄がタッグを組むことになった作品として、今回の特集上映の目玉の1本足り得ているようにも思えます。

実はこのふたり、ともに立体構築物を用いたアニメーションの分野で多大な功績を残した名匠であっただけでなく、実は歳の差こそ7つありましたが誕生日が同じ1月11日ということもあって大いに意気投合しつつ、良きライバルとして切磋琢磨し合う仲でもありました。

1972年からはお互いの作品上映と人形劇を組み合わせた公演「パペットアニメーショウ」を1980年まで開催し(全6回)、好評を博しています。

今回の特集上映は、まさにそんな両雄が久々に相並ぶ貴重なものであるようにも思えてなりません。

日頃アニメといえばジブリかマニア向け深夜TVか、はたまた海の向こうのディズニーか、といった方々は今も多いかもしれませんが、実はこういった優れたアニメーション作家による優れた作品が多数存在していることを、この上映で改めて知っていただけたら幸いです。

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(文:増當竜也)
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