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■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

2021年11月19日からテアトル新宿、EJアニメシアター、ところざわサクラタウン、シネ・リーブル梅田にて〈角川映画祭 KADOKAWA FILM FESTIVAL〉が開催中です(他地区も順次上映予定)。

1976年『犬神家の一族』でさっそうと登場して以来、斬新な企画、出版はもとより大規模なメディアミックスによる宣伝展開など日本映画界に革命を起こし続けた角川映画。

そして今回は、そんな角川映画45年の歴史の中から31本がラインナップされています。

(ラインナップの詳細などは以下をご参照ください)

角川映画祭:https://cinemakadokawa.jp/kadokawa-45/

そうした中でも特にお伝えしておきたい事項がいくつかありますので、今回はそれらについて記していきたいと思います。

『犬神家の一族』4K
劇場初公開当時の映像を再現!

今回の角川映画祭で最大の目玉と言えるのが、やはり角川映画第1作『犬神家の一族』の4Kデジタル修復版の上映でしょう。

〈映画祭紹介〉角川映画祭2021開催!『犬神家の一族』驚異の4K修復から、幻の名作アニメまで31作品!


ミステリ好きでもあった名匠・市川崑監督が、横溝正史・小説の世界を完全映画化。

大財閥の遺産相続をめぐるおぞましき連続殺人事件に名探偵・金田一耕助が臨み、日本中に横溝正史はもとより国産ミステリ小説ブーム、ひいてはそれらの映画化もその後続々登場していったことでも記憶される名作です。

そして今回の4Kデジタル修復版ですが、これがもう本作を愛してやまない面々が集結し、どうにか50年前の初公開当時の映像を4Kで再現できないものかと腐心しながら、様々な困難を乗り越えて作業された優れものなのです。

(その細かい作業形態に関しては下記の映像ルポをご参照下さい。撮影&編集されたフィルムから上映用プリントが作成される過程や、市川監督の映像へのこだわりなども非常にわかりやすく解説されています。ほんの一部ですが実際の4K映像も見られます)



『犬神家の一族』は画面サイズが常に問題になっていました。

それはスタンダード(1:1.37)なのか、東宝ビスタ(もしくは東宝ワイド/1:1.5)なのかということです。

本作を配給した東宝では、当時スタンダード画面の上下を微妙に切って横長にした上映を敢行することがままあり、これを東宝ビスタと称していたのでした。

これに関しても、市川監督は東宝ビスタでの上映を希望しながら本作を撮影しており(撮影そのものはスタンダードです)、全国6都市メイン館のみ東宝ビスタ、その他の劇場ではスタンダードで上映されていたことが明らかになったことから、今回は東宝ビスタでの上映となります。

もともと画角や画面構図にこだわりまくることでも知られた市川監督作品ゆえに、本来の東宝ビスタで鑑賞することで、その意向はより鮮明になることでしょう。

また、本作の冒頭、角川映画のロゴが入っていたかどうかもファンの間で長年論議されてきましたが、これに関しても入っていたヴァージョン、入ってなかったヴァージョンがあったことが判明し、今回はロゴ入りヴァージョンが制作されました。

さらには映像のみならず音響にも非常に気を配った作業が成され、初公開当時は聞こえづらかった音の数々(当時の映画館は音響がダメダメなところも多かったのです)も鮮明に聞こえてくるようになりました。

映像技術の発展は、ついに私たち観客を45年前にタイムスリップさせることにまで至ってくれたようです。

〈映画祭紹介〉角川映画祭2021開催!『犬神家の一族』驚異の4K修復から、幻の名作アニメまで31作品!


今回は他にも『人間の証明』(77)『復活の日』(80)『里見八犬伝』(83)が4Kリマスター化されたものが上映されます。

フィルムからデジタルの時代へ移行していく中、こうした先達の名作を後世まで残そうとする努力に、映画ファンとしては惜しみない拍手を送りたい所存です。

幻の角川中編アニメ映画
『ボビーに首ったけ』上映!

さて今回、アニメーション映画の上映でも特筆しておきたいものがあります。

それは平田敏夫監督作品『ボビーに首ったけ』(85)の上映!

〈映画祭紹介〉角川映画祭2021開催!『犬神家の一族』驚異の4K修復から、幻の名作アニメまで31作品!


角川映画は1983年の『幻魔大戦』(今回上映)よりアニメーション映画の製作を開始し、特に80年代は斬新な企画に基づく意欲作を連打していましたが、その中で『ボビーに首ったけ』はりんたろう監督作品『カムイの剣』(85/今回上映)の同時上映として作られた中編映画。

原作は片岡義男の同名小説で、メールもケータイもなかった時代、バイク好きの高校生・昭彦、通称ボビーと、文通で知り合った岡山の少女との交流、そして父親との諍いなどが描かれていきます。

『ユニコ』(81)『はだしのゲン2』(86)『火の鳥ヤマト編』(87)『カッパの三平』(93)などで知られる才人・平田敏夫監督は、これを淡く切ない青春スケッチとして瑞々しくも実験的描写を駆使しながら演出。

特にクライマックス、鉛筆画によるバイク疾走シーンは、その後のアニメーション演出の可能性を大いに引き上げてくれたといっても過言ではないほどです。

また本作のキャラクター・デザインは、何と吉田秋生!

『カリフォルニア物語』『吉祥天女』『BANANA FISH』などの名作漫画で知られる彼女ですが、この時期の角川アニメーション映画は『幻魔大戦』で大友克洋、『時空の旅人』(86/平田氏が絵コンテを担当・今回上映)で萩尾望都などカリスマ的実力派漫画家をキャラクターデザインに起用する傾向があり、それもまた当時の漫画ファン&映画ファン&アニメファンを唸らせていたものでした。

吉田秋生自身、当時『メイン・テーマ』(84)で角川映画の若手スターとしてデビューしたばかりだった野村宏伸のファンだったと伝え聞いており、彼を主演のヴォイス・キャストに据えた本作の依頼も快く受けてくれた結果、どこか野村宏伸本人を反映させたキャラクターデザインにも仕上がっています。

本作と、幕末を舞台に北海道からアメリカ西部まで渡る壮大なスケールかつスタイリッシュな演出の美学に満ちた時代劇アニメの傑作『カムイの剣』の2本立ては、実に至福ともいえる映画体験でもありましたが、『カムイの剣』が再評価されていくのに対し『ボビーに首ったけ』は中編仕様であるのも影響してか、なかなかその後陽の目を見る機会がなく、未だにDVD化もされていません(ビデオ&レーザーディスクは発売されましたが、今ではかなりの高値で取引されがちです)。

それがようやく、それこそおよそ四半世紀ぶりに銀幕で再会できるのですから、これはもう劇場に馳せ参じるほかありません!

また今回は今なおカリスマ的人気を誇るやまざきかずお監督の『ファイブスター物語(ストーリーズ)』(89)も上映されますので、こちらも久々に銀幕で見直す(あるいは初体験する)良き機会ではないかと思われます。

いずれにしましても、前回の角川映画祭2016から5年の月日を経ての今回の角川映画祭2021の開催、その間に『時をかける少女』(83//今回上映)などの大林宣彦、『Wの悲劇』(84/今回上映)の澤井信一郎監督が鬼籍に入られたことの時代の流れも痛感せずにはいられません。

〈映画祭紹介〉角川映画祭2021開催!『犬神家の一族』驚異の4K修復から、幻の名作アニメまで31作品!


鬼籍ということでは、先ごろ惜しくも亡くなった千葉真一が主演&アクション監督を務めた『戦国自衛隊』(79)も特別上映されます。

半村良の同名小説を大胆不敵にアレンジし(初期の角川映画はあえて原作と異なる展開のストーリーを構築することで、映画も小説も楽しめるような計らいが成されることが多かったのです)、公開当時は多くの映画マスコミから「一体何なんだ、これは?」と理解されることもなかった本作ですが、結果としては今も語り継がれる名作として世に残っています。

そう、初期の角川映画はあまりにも斬新な企画と仕掛けに当時の映マスコミが感覚的についていけず、それをひた隠すかのように「日本映画界の敵」などとバッシングされ続けていました。

しかし45年の時を経て、実は「日本映画界の救世主」であったことが今なら理解されることでしょう。

またそうでなければ、こうして映画祭など開催されるはずもないのですから!

(ちなみに角川映画のスタッフやエキストラなどのギャランティも当時の日本映画界のジリ貧の相場を大きく上回るものが多く、おかげで生活を保ち得ることが出来た者も多く、そんな彼らが今は制作の第一線で活躍し続けているのです)

角川映画なくして、今の日本映画界は成し得なかった!

このことは強く訴えておきたいところです。

(文:増當竜也)

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