4月下旬に東京ビッグサイトで開催された「SusHi Tech Tokyo 2026」の自動運転をテーマとしたセッションに、いすゞ自動車が登壇した。自動運転というと「ロボタクシー」などの乗用車を思い浮かべがちだが、それ以上に大切なのが物流を担うトラックの自動運転だ。
AI活用の本格化で自動運転は次のステージへ
「SusHi Tech」(スシテック)という、日本らしさと新しさを絶妙に融合したワードを掲げたイベントをご存知だろうか。サステイナブル(Sustainable)な都市をハイテク(Hi Tech)で実現することを目指して、世界中からイノベーションの担い手たちが東京に集結し、交流を通じて課題解決につながるイノベーションやアクションを生み出す場だ。
単なる展示会ではなく、トークセッションも数多く組まれていて、会場は企業や団体の展示ブースとセッション会場が隣り合うようにレイアウトされている。おかげで、ビジネス系の展示会とはひと味違う、エンタメ的な活気にあふれるスペースになっていた。
そんなSusHi Techに、商用車メーカーであるいすゞ自動車から、常務執行役員の佐藤浩至氏が登壇した。セッションのテーマは自動運転で、乗用車メーカーの日産自動車、いすゞ自動車の自動運転プロジェクトに関わる米国のフィジカルAI企業Applied Intuitionとともに、自動運転技術の重心がハードウェアからソフトウェアへと移行しつつある現状を多角的に探っていくという内容だった。
自動運転技術のトレンドは最近、「ルールベース」から「AIベース」に移行しつつある。
ルールベースと呼ばれる従来の方式では、交通ルールをAIに読み込ませたうえで、走行環境を把握するために三次元の高精度地図を用意し、環境変化に合わせて絶え間なく地図を修正する必要があるので、完全自動運転のレベル5は実現が難しいと言われていた。
これに対して、最近登場してきた「AIベース」では、高度化したAIがそのときの交通ルールや走行環境を自律的に判断して運転することが可能なので、高精度地図は不要であり、レベル5実現に向けた可能性が高まりつつある。
今回のセッションテーマは、こうした状況変化を踏まえてのものと言えそうだ。
乗用車とは違う自動運転の意義
ファシリテーターからまず問われたのは、物流の課題と自動運転の関係についてだった。
これに対して佐藤氏は、国の試算では2030年に30%以上のモノが運べなくなると言われているので、自動運転は単なる先進技術ではなく、物流を維持していくために必須の技術であると強調した。
「いすゞ自動車では、2027年度に大型トラックと路線バスの自動運転レベル4の社会実装を計画しています。技術的には高いレベルですが、路線バスではティアフォー、そして大型トラックはApplied Intuitionと共同開発しており、安全で効率的な自動運転レベル4を社会実装すべく準備を進めています」
次の質問は、自動運転以外でAIやソフトウェアの進化がトラックの将来図を変えていく可能性はあるか、という内容。佐藤氏はテレマティクス分野から、2022年に運用を開始した商用車情報基盤「GATEX」を紹介した。
「車両情報と荷主や倉庫などの情報を連携・分析して、運行管理や稼働サポートを行っています。今後、AIやSDVが進化していくと、学習効果によって管理やサポートの最適化ができそうです」
こうした言葉から理解できるのは、トラックは乗用車と違って、車両だけで完結するものではなく、物流システムの一部として運用されているということだ。
いすゞ自動車では「物流は社会の血液」と言っているが、そこには工場や倉庫など、さまざまな要素が含まれており、自動車はその一部分と認識している。だからこそ、自動運転の導入についても、独自の視点があると佐藤氏は説明した。
「一部を自動化しただけでは、それほど大きな効果がないということになります。自動運転をどう使えば効率が良くなるかという考えで、物流全体を再設計しなければならないと思っています。
日本に求められるのは「社会受容性」
セッションでは他のスピーカーからも興味深い発言があった。中でも印象に残っているのは、Applied Intuitionの共同創業者兼CEOであるカサール・ユニス氏の言葉だ。
同氏によると、現在はさまざまな自動運転プラットフォームがあるが、いずれはスマートフォンのように集約していくのが理想的であるとのこと。米・中は積極的に動き、中東でも進んでいるのに対し、日本はまだまだという状況であるにもかかわらず、独自性にこだわりすぎているとの指摘だった。
シリコンバレーに本拠を置くApplied Intuitionからのこうしたメッセージを、日本の自動車メーカーはどう受け止めれば良いのだろうか。
佐藤氏は、技術は海外で実現できているので、我々も頑張れば実現できると思っているし、国も強力に後押ししてくれているので、現在の課題はクリアできると答えた。そのうえで次のように付け加えた。
「残るは、やはり社会受容性だと思っています。一般の交通の流れの中に自動運転車が混ざって走り始めることになるわけですが、自動運転車は法規を守って走りますから、 制限速度が時速40kmなら時速40kmで走ります。実勢速度との違いがあると、なんか遅い、あれは邪魔だと思われることがあり得るでしょう」
その一方で佐藤氏は、日本人はなんでも擬人化して愛する傾向があるので、自動運転車に対してもそのように接してくれるかもしれず、自動運転に対して温かい目で見守ってもらえるのではないかとの希望も口にした。
いすゞ自動車は今、北海道に約19万㎡(東京ドーム4個分)の広さを持つ自動運転専用のテストコースを作っている。
「ここで試乗会を開催したりする中で、自動運転が安全で便利であることを確認していただいて、社会受容性を高めていきたいと思っています。ただ自動運転を社会実装するだけでは効果が薄いので、いろんな方たちと連携や共有をして、物流システムを効率良くしていきたいと思っています」
日本は世界でいちばん安全で効率の高い物流の自動運転システムが実用化できるのではないかと個人的な思いを語った佐藤氏は、そのためにも、多くの人といっしょに社会の流れを作っていきたいと述べた。
例えばスポーツの世界でも、日本は団体やチームでの戦いで力を発揮することが得意だ。個人の力では及ばない相手にも、チームで力を合わせれば勝利を収められることは、さまざまな種目の日本代表がすでに証明してくれている。来年稼働を開始するという北海道のテストコースを舞台に、チームジャパンの自動運転が育っていくことを期待したい。
森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら











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