コメディでもシリアスでも鮮烈な存在感を放ち、いつだって“この人が出ているなら観たい”と思わせてくれる俳優、高畑淳子。人生最後の選択をポジティブに描くシリーズの第3弾『お終活3 幸春!人生メモリーズ』では、シリーズの中心となる一家の母親役を続投。

自身にとって等身大とも言える役どころで、観客に「人生をどう生きるか」というテーマをそっと投げかけてくれる。「30歳頃までは、俳優として箸にも棒にも掛からなくて。四国に帰らなきゃと思っていた」という高畑。転機となった出会いを語るうちに、「芝居は遊んでなんぼ」をモットーにする彼女から目が離せない理由が見えてきた。

【写真】お茶目なポーズで笑顔を見せる高畑淳子がかわいい!

◆憧れの三田佳子との共演に感激&緊張!

 第1弾では、親世代と子世代が“終活”をめぐって本気でぶつかり合い、世代間のすれ違いを通して家族の在り方を問いかけ、第2弾では、“青春時代の夢にもう一度挑戦しよう”をテーマに、再び夢や希望を取り戻すヒロインの姿を描いた『お終活』シリーズ。第3弾となる本作は、笑って、泣けて、役に立つ本シリーズの決定版。物語は、夫・大原真一(橋爪功)と千賀子(高畑)が、結婚を控えた長女・亜矢(剛力彩芽)の幸せを見守る場面から始まり、彼らが「家族とは何か」という普遍的な問いに向き合っていく姿が綴られていく。

 高畑は、「最初の頃はシリーズ化されるなんて思ってもみなかったので、パート3ができるというのは本当にうれしいこと。ありがたい限りです」と第3弾が叶ったことに感激しきり。昭和の男である真一と、そんな夫にイライラしたり、呆れ果てたりする千賀子による“夫婦のやり取り”も、本シリーズの大きな見どころ。高畑は、夫を演じる橋爪の姿を目の当たりにするだけで、自然と『お終活』の世界に入り込めるという。

 「橋爪さんが、本当にお上手で。
現場にいらっしゃるとすぐに、ソファーでお昼寝をなさる。“自分の家だと思っているんじゃないかな”というくらい、率先して“この一家の旦那さんはこういう感じだ”という雰囲気を出してくださるので、とても助かります」と目尻を下げながら、「妻にとっては、“ここにいたら掃除しにくいな、邪魔だな”、“自分ではお茶の一杯もいれないんだから!”と思うような旦那さん。橋爪さんは、そういった旦那さんを力の抜けたお芝居で演じていらっしゃる。橋爪さんのようなお芝居ができる方は、日本にはいらっしゃらないんじゃないでしょうか」と大尊敬。「千賀子さんはいつも、“バカじゃないの”と夫に言うんですね。大変失礼な言葉なんですが、私はそのセリフが大好きで。偉大なるシェイクスピア俳優である橋爪さんに、“バカじゃないの”なんて言うんですから」と名優との夫婦役を大いに楽しんでいる様子だ。

 本作には、大原家と共に、もう一組の家族が登場する。認知症を患う母・加藤豊子(三田佳子)と、彼女を支える息子・博(小日向文世)という、加藤家だ。高畑、橋爪、三田、小日向というベテランが勢ぞろいするシーンもあり、日本を代表する俳優陣の掛け合いを堪能できる。

 もともと三田への憧れを抱いていたという高畑は、「大河ドラマも拝見していましたし、『Wの悲劇』も素晴らしかったですね。『かたき同志』では、三田さんが藤山直美さんと丁々発止のやり取りをされていて。
藤山さんが投げかける球を返すだけで、ヘトヘト、クタクタになるものですが、三田さんは軽やかに演じ切ってしまう。本当にすごいんですよ…!」と惚れ惚れ。それだけに、三田を含めた4人が勢ぞろいするシーンは「緊張して、どうしようかと思った」とのこと。「怖い方だったらどうしようなんて思っていたんですが、本当にお優しくて、ふわふわっとした春の花びらのような方。撮影も、とても穏やかに進みました」と振り返りながら、「完成した映画を観た後は、“いい映画になったわね”と声をかけていただいて。仏様のような方でした」と憧れをさらに大きなものにしたと話す。

◆高畑淳子が語る、認知症と終活

 三田が演じる豊子は、認知症を患っている女性だ。高畑は「認知症の役ですが、三田さんは“自分は病気なんだ”と感じていない役として、演じられていたように思います。こうやってお役を作られるんだと、刺激を受けました」としみじみ。

 息子の博は、認知症の母親と接する際に、どうしても「そうじゃない」と否定してしまったり、彼女を責めてしまったりもする。千賀子は、そんな博に向けて「否定ばかりすると、嫌な感情ばかりが残るかもしれない」「認知症でも心は忘れていないと思う」と投げかけるのだが、自身の母も晩年は認知症を患っていたという高畑は「“認知症でも心は忘れていない”というのは、とても芯を突いたセリフだと思います」とまっすぐに語る。
 
 「脳の機能が衰えたとしても、すべてが失われているわけではない。
とても難しいことですが、否定せずに認めてあげることで、お互いに楽になることはあると思います。思うようにならない人がいるというのは、本当に大変なことで。一朝一夕にはいきませんが、今、そうした問題に直面している方にとって、“捉え方を少し変えることで楽になれるかもしれない”。そんな糸口になればいいなと思っています」と願いを込める。

 登場人物たちの掛け合いに笑ったり、胸を熱くしながら、終活や介護に役立つ実用的な情報を学べることも、本シリーズが多くの支持を集める理由のひとつだ。高畑自身は、終活の一環として「エンディングノートを作成している」という。

 「悲しいことですが、人は絶対にいつか死ぬので。私は怖がりなので、30歳くらいの頃から、黄色い表紙をした“お母さんが死んだら見るノート”というものを作っています。“お葬式でどういった音楽を流してほしい”とか、そういったことにはまったく興味がないんですね。何を流してくださろうが、その時にはもう聴こえませんから」と笑いながら、「預貯金のことや保険のことなど、普通の生活として必要なことや、言っておかなければいけないことを書き留めています」と“自分がいなくなった後、困らないように”という思いをしたためたノートだと明かす。

◆「あっちゃんの芝居は、面白くない」――訪れた、俳優としての転機

 高畑がいることで、作品世界がより深く、豊かなものになる。どんな作品でも躍動する彼女を見ていると、そう実感する人も多いはずだ。
しかし大学卒業後に俳優デビューしながらも、なかなかうまくいかなかった時期には、故郷である四国に「帰らなきゃいけない」と思っていたと告白する。

 「私は30歳まで、俳優として箸にも棒にも掛からなくて」と切り出し、「実家の母親からも“帰ってきいや”と言われたんです」と苦笑い。「“これで最後にするから、もう1本、お芝居をやらせて”と言って、出演したのが加藤健一さんとの2人芝居『セイムタイム・ネクストイヤー』でした。1年に1度だけ会って、ある同じところで浮気をし続ける男女の25年間を描くお話です。加藤健一さんから、“あっちゃんの芝居はどこも悪くないんだけれど、面白くないんだよね。お芝居は遊び場なんだよ。もっと遊びなよ”と言われて。その頃の私はとても几帳面で、“3歩、歩け”と言われたら、“死んでも3歩しか歩かない!”みたいな。言われたことを一生懸命にやるしかないと思っていたところがあったんです」。

 加藤の言葉をきっかけに、高畑に大きな変化が訪れた。「おおらかに、漂うように心を開放して。楽しんで、あるいはちょっと企んで、遊んだりする。
それがお芝居なんだと、教えていただきました。だから今は、遊ぶ心を大事にしています。自分をさらけ出して、“遊んでなんぼ”だと思っています」と輝くような笑顔を見せ、「橋爪さんなんて、それを体現している典型のよう。漂うように、現場にいらっしゃいます」と楽しそうに話す。

◆マリバロン様の人気は健在!

 それからは「母に、四国に帰るリミットを伸ばしてもらった」と、俳優業に邁進してきた高畑。「ちょっとずつ舞台のお仕事もいただけるようになったり、テレビのお仕事もいただけるようになって」という頃に出演したのが、『仮面ライダーBLACK RX』だ。

 高畑は、仮面ライダーBLACK RXと戦う諜報参謀のマリバロンを演じた。同作が放送されたのは1988年のことだが、「いまだに“マリバロン様、次のお芝居を待っていました”、“サインをお願いします”と舞台の楽屋口などで待っていてくださる方がいるんですよ」と今なお根強く愛され続けるキャラクターになっているのだとか。「支度場が、『はぐれ刑事純情派』と同じ場所だったんです。私が緑や赤色のメイクを塗っていると、『はぐれ刑事純情派』に出ている友だちが隣にいたりして。“私も人間の役をやりたいな”なんて思ったりしていました(笑)。マリバロンをきっかけに、今でも劇場でお芝居を観てくださる方がいると思うと、とてもうれしいです」と声を弾ませる。


 さらに「『3年B組金八先生』で養護の先生を演じてからは、しっかりとした性格の役を演じることも多くなりました。個人的には、どこか欠落していたり、ちょっとおかしなところのある役に惹かれたりもします。俳優って、いろいろなことに挑戦できるのが本当に面白いですね。“この役をやってほしい”と言っていただくこと、“ええ!こんな役はできない!”と感じるような役をいただくのも、とても楽しいです」と俳優業への情熱を吐露。

 元気の源も、「芝居」だ。「30歳ギリギリでなんとか踏ん張って、俳優として首の皮が一枚つながったようなものです。そんな私が役者としてお仕事を続けられて、お芝居ができていること自体、こんなにうれしいことはないです。今回だって、“三田佳子さんじゃん!”って三田さんにお会いできるのがうれしくって。土佐鶴のCMだってずっと観ていましたから。もう、ただのミーハーですよ」とにっこり。周囲をパッと明るく照らすような笑顔を持った、パワフルな、71歳。最後に、理想の年齢の重ね方を聞いてみた。「これからもきっと、思うようにならないことだってあるはず。自分の理想とは違うことや、思わぬ病気もあるかもしれません。でも何があってもそれを受け入れ、その時にできることをやる。そして人に頼ることを恥ずかしがらずに、いろいろなことに挑戦できたらうれしいです」。

(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)

 映画『お終活3 幸春!人生メモリーズ』は、5月29日全国公開。

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