自ら企画したNetflixシリーズ『忍びの家 House of Ninjas』で出会ったデイヴ・ボイル監督と2024年に映像製作会社“SIGNAL181”を設立した賀来賢人。同社の待望の第1作となる劇場映画『Never After Dark/ネバーアフターダーク』が、6月5日に公開を迎える。

ワールドプレミアとなる第33回サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)2026のミッドナイター部門で観客賞を受賞し、以降も各国の映画祭で賞賛が相次いでいる注目のホラー。プロデューサーを務めた賀来と、霊媒師の主人公・愛里に抜てきされた穂志もえかに、本作ならではの現場作りを教えてもらった。

【別カット】雰囲気抜群に決まっている賀来賢人&穂志もえかの撮り下ろし(全4枚)

■穂志「私だとお客さんを呼べないのでは」 不安を一掃した賀来の言葉

――賀来さんとデイヴ監督は『SHOGUN 将軍』での穂志さんのお芝居をご覧になって、本作のオファーをされたそうですね。

賀来:『街の上で』などもそうですが、穂志さんは記号的なものが一切ないお芝居をされる方だと思います。狙って作れるものではないので、愛里にぴったりだと感じました。愛里はなかなか普通の人が体験していないバックグラウンドを持つキャラクターで、僕たちも決めきらずに余白を持って撮影に臨みたかったんです。穂志さんは現場でも僕とデイヴの想像とは真逆のお芝居をしてくださり、「愛里ってこういう人だったんだ」と、たくさん気づかせていただいて本当に助かりました。

穂志:オファーをいただいた当時の私はまだフリーランスで、ある日「賀来賢人のマネージャーです」というようなメールが届いて驚きました。賀来さんとデイヴ監督が映像製作会社SIGNAL181を立ち上げられた経緯を丁寧に説明いただき、熱い思いが詰まった企画書もいただきました。ホテルのカフェでお二人と初対面した際は、「あの賀来賢人が本当にやってきて私と真剣に話をするんだ」とプロデューサーとしての気概を強く感じました。

必要最低限の人数で、本当にやりたいことのために会社を立ち上げて私を呼んでくれたことがとてもうれしくて、風通しの良さも印象的でした。ただ、商業映画であるぶん「私だと映画館にお客さんを呼べないんじゃないか」という不安もあり、素直に打ち明けたんです。
そうしたら賀来さんが「安心してください。本当に自分たちが信じるクリエイティブを突き詰めたら、必ず面白いものが出来上がりますから」と言ってくださいました。なかなか今聞くことのない信念の強さが、とても印象的でした。

賀来:穂志さんは僕たちがイメージする愛里の要素を全部持っており、キャスティングの第一候補として挙げさせていただきました。僕も人見知りだから分かりますが、初対面の時はとても緊張されていましたよね。ヘッドホンを着けたり外したりと、挙動が明らかにおかしくて(笑)。そこも含めてデイヴと「100点だ」とうなずき合いました。また、その席で今の映画界や俳優という仕事について地に足の着いたお話をできたのも好印象でした。俳優の中にも現場でそういった話をできない、したくない人は大勢いますから。最初から信頼感を抱いてくれているんじゃないかと思えました。

――穂志さんから伺いましたが、賀来さんはお茶場(撮影現場に設置される休憩スペース)をコンビニ並に充実させたとか。

穂志:本当に、ないものはないんじゃないかというくらいでした。


賀来:なんで、あそこにあんなにお金を使っちゃったんだろ…(笑)。

穂志:でも、本当に大事なことだと思います。スタッフさんが立ち寄ってリフレッシュできたり小腹を満たしてエネルギーチャージできたりする空間ですから。現場の士気に大きく影響するものだと思います。

賀来:だんだん傾向が分かってくるんですよね。「これは減りが早いな、じゃあ次はこれを補充してみよう」って。まさにコンビニを経営しているみたいでした(笑)。穂志さんが仰ったように、お茶場はスタッフとキャストの会話の場にもなるんですよね。だからこそ、前々から居心地の良いお茶場を作りたいと考えていました。

――俳優としてのご経験から、皆さんが力を発揮しやすい環境作りを実践されたのですね。

■良いもの作りの鍵は“柔軟なチャレンジ精神”

賀来:それで言うと、穂志さんが提案してくださった朝礼も素晴らしかったです。毎朝撮影を始める前に「おはようございます、今日もよろしくお願いします」と、あいさつをするルーティンを作ってくれました。
それによって現場が仲良くなり信頼感が生まれる速度がグッと早くなりましたし、今後も絶対に取り入れていきたいアイデアです。

穂志:私がなぜそれを提案できたかというと、賀来さんのスタンスがあったからこそです。「プロデューサーとして1から携わるのは今回が初めてで、自分たちも手探りです」とオープンに打ち明けてくれたからこそ、「困ったことがあったら何でも言ってください」と言っていただいたのも心からの言葉だと信じられました。だからこそ、私もいろいろと相談や提案ができたんです。

今回は久々の主演で私自身すごく気合が入っていて、ハラスメントなんてもってのほかですし、全員がワンチームでいられる現場にしたいと思っていました。本作の撮影は物語上の都合もあってデイシフト(日中の撮影)とナイターシフト(夜から朝までの撮影)が混在するスケジュールで、どうしても皆さん疲れがたまってきてしまいます。そんな中でも「私が皆を見ているよ」と伝えたかったし、各々が「今日も頑張ろう」と思えるようにするにはどうすれば良いかと自分なりに考えて、知り合いの俳優にも相談しました。そうしたら「『SHOGUN 将軍』の現場で朝礼をやっていたよ」と思い出させてくれて、「じゃあやってみよう」と思い立ちました。内心「空回ってないかな、私」とドキドキしながら提案しましたが、賀来さんとデイヴ監督がすんなり受け入れてくれました。

――お二人のお話からは、慣例にとらわれずに良いものは採り入れて、そうでないものはアップデートしていこうという健全な空気を感じます。本作に限らず、良いもの作りをするために貫かれているスタンスはありますか?

穂志:私は自分から「こう思っている」と伝えるようにしています。口に出してみると、意外と皆も同じ思いだったことが分かる場合もありますから。
既存のやり方に収まって礼儀正しく真面目に作ることもそれはそれで素晴らしいかと思いますが、少しずつ現場を重ねる中で、私以外の人たちの中にも「これっておかしいんじゃないか」という気持ちがあることが確信に変わっていきました。『Never After Dark/ネバーアフターダーク』では特に、自分が主演だからこそできる提案を意識していました。毎日現場にいますし、良い意味で影響を及ぼせる立場でもあったため、皆が違和感を覚える時に風穴を空けられるような動きが少しでもできたらと。そういった部分でも柔軟にチャレンジさせてもらえる現場でした。

賀来:自分に関して言うと、僕はきっとバカなんだと思います。昨日マネージャーに「こうしたら良いんじゃない?」と提案したら「それを言ったら先方にバカだと思われて、なめられちゃう気がします。でも賀来さんはその発想がないから良いとも思います」と言われてハッとしました。確かに節度は大事ですが、純粋な疑問や直感も同じように大切だと僕は思います。子どもと接していると「そういう発想があったのか!」と気づかされる瞬間ってよくありますよね。自分は意識せずに一貫してそういうスタンスでいるのかもしれません。ただそんな生き方をしていると、一部から悪口を言われたりもするんです。自分の中では、それが出たら「合っている」という合図だなと捉えています。


――新しいことをできている証拠だと。

賀来:そうですね。「それってどうなの?」みたいに言われることって人によっては迷惑かもしれないけど、チャレンジできている確認になるなと。

穂志:分かります。「これっておかしくない?」「こうした方が良くない?」ってなんで言わないんだろう、というシンプルな動機なんですよね。

賀来:皆さん空気を読んでしまうのか、あまり言わないのかもしれませんね。でもこうやって口に出してみるのも悪くないんじゃないか、と最近よく思うようになりました。

(取材・文:SYO 写真:米玉利朋子[G.P.FLAG inc])

 映画『Never After Dark/ネバーアフターダーク』は、6月5日より全国公開。

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