北朝鮮の金正恩総書記が17日、全軍の師団・旅団指揮官を平壌に招集した。朝鮮中央通信(KCNA)によれば、金正恩氏は「全ての空間における作戦概念を新しく定義」する必要性を強調し、「軍事組織構造の改編」や「第1線部隊の強化」構想を披歴したという。
北朝鮮メディア特有の誇張表現を差し引いても、今回の会合で語られたのは単なる“精神論”ではない。ロシア・ウクライナ戦争の戦訓を踏まえた、北朝鮮軍の本格的な軍制改革の予告と見るべき内容だ。 とりわけ注目されたのは、KCNAが公開した記念写真の座席配置だった。金正恩氏の正面最前列には、白い制帽を着用した一団が陣取っていた。北朝鮮軍では通常、白帽は海軍将官や海軍指揮官層が着用する。典型的な陸軍国だった北朝鮮で、海軍系統がこれほど目立つ位置を占めたこと自体が異例と言える。 金正恩政権は近年、新型駆逐艦「崔賢」号の核戦力化や原子力潜水艦構想など、海軍近代化を異常なほど強調してきた。従来の北朝鮮海軍は沿岸防衛中心の「茶色い海軍」に過ぎなかったが、現在は核巡航ミサイルやSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を運用する「戦略海軍」への転換を目指している。 一方、今回の会合で金正恩氏は「南部の国境線を守っている第1線部隊を強化し、国境線を難攻不落の要塞につくる」とも強調した。一見すると、米韓軍と対峙するDMZ(軍事境界線)正面の陸軍強化と海軍重視は別の話に見える。だが実際には、両者は一体の戦争構想として結びついている可能性が高い。 北朝鮮軍は長年、「大量砲兵と歩兵突撃で短期決戦を狙う軍隊」だった。
しかし現在、その戦法は韓米軍の圧倒的な航空優勢、ドローン監視、精密誘導兵器の発達によって現実性を失いつつある。さらに深刻な燃料不足や機械化部隊の老朽化も重なり、「大軍を南へ突進させる戦争」は困難になっている。 そこで浮上しているのが、「前線固定+後方戦略打撃」という新たな戦争シナリオだ。DMZの第1線部隊は地下化・要塞化によって韓国軍を拘束する“盾”となり、その背後から核・ミサイル・長距離砲、さらには海上戦力が戦略打撃を加える。 今回、KCNAが「全ての空間における作戦概念」と表現したのは、この変化を示唆している可能性がある。従来の陸軍中心ドクトリンから、陸・海・空・宇宙・サイバーを統合した「多領域戦」への移行だ。 特に海軍の役割は大きい。北朝鮮は近年、韓米軍の“斬首作戦”や先制精密打撃への警戒感を強めている。そのため、核戦力を地上基地だけでなく海上へ分散配置し、「第二撃能力」を確保しようとしているとの見方がある。 今回の会合で最前列に海軍指揮官らしき白帽集団が並んだ光景は、単なる演出ではないのだろう。金正恩氏は今、北朝鮮軍を「DMZで耐える軍」と「海から核反撃する軍」に再編しようとしているようにも見える。
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