ダイエット魔界へようこそ。肥満が原因で死亡する者約30万人。
大人の3人にひとりが肥満で2人が太りすぎ。肥満関連の医療費は約15兆円(日本の防衛関係費の約3倍)。アメリカは肥満に悩める国なんである。
柳田由紀子『アメリカン・スーパー・ダイエット』は、そんなアメリカ肥満カルチャーの実態を伝えるレポートだ。
その中から、いくつか驚愕の現場を紹介しよう。

■デブのシリコンバレー
本格ダイエットセンターが3つもあり、肥満者の聖地とあがめられ「デブのシリコンバレー」と呼ばれる街、ダーラム。
この街に、年間4000人の肥満者が訪れ、約33.8億円を費やす。
ダイエット・センターのひとつ「ストラクチャー・ハウス」のムサンテ医師が語るダイエットの秘訣を引用しよう。
「話は簡単。少なく食べてたくさん動けばいいんです。しかし、これができない。できないのだから、ここに来るしかない」
うーむ。
宿泊費込みの4週間基本コース料金は約97万円。何年も通い続けているリピーターもいるそうだ。

■究極ダイエット胃縮小手術
『アメリカン・スーパー・ダイエット』で紹介されている究極のダイエット法は「胃縮小手術」だろう。
縫合したり、ホッチキスのようなもので綴じたりして、胃を小さくしてしまう人体改造手術だ。2008年、元大関の小錦もハワイで受けているとか。
手術の時間は、1〜2時間。入院期間は2日ほどで、1,2週間でふつうの生活にもどれる。
ただし、栄養不足になる恐れもあるので、術後1、2年は通院したり、栄養剤でケアするなど、なかなかたいへん。
医療保険がカバーする分を除いた個人負担額が、約200万円ぐらいかかっちゃうそうなのだ。
ところが、この究極手術を受けても「昔ほど一気には食べられないが、3回で食べていた量を6回に分けて食べればいいってことを、俺は学んでしまったのさ」と語り、リバウンドして半年で10キロ太った人もいる。

■肥満棺桶からセックスまで
他にもさまざまな肥満カルチャーが紹介されている。
・肥満者の柩を専門に作る会社「ゴリアテ・カスケット社」の最大137センチ×244センチのスーパー・サイズ棺桶
・オール・デブのシンクロナイズド・スイミング・チーム「太った身体は浮きやすいから、実はシンクロ向きなんです。
反対に、難しいのは沈むことかな(笑)」
・肥満者の旅行必須アイテム「シートベルト・エクステンダー」(シートベルトにつなげて、シートベルトを延ばす道具)
・肥満に関するワークショップやセミナーが次々と開かれる肥満者擁護団体NAAFAのコンベンション
・肥満と性の歴史や、肥満者用のテクニック、ショップリストも掲載した本『Big Big Love』

■ダイエットの真実
『アメリカン・スーパー・ダイエット』を読むと、アメリカと肥満に対する見方が変わってくる。ひとは何故ふとるのか。ふとるような環境がどうしてできてしまうのか。太らせる経済と痩せさせる経済「肥満経済」がどんどん成長している現状って、いったい何なんだろう?
最後に、『アメリカン・スーパー・ダイエット』から、米連邦取引委員会の消費者への忠告を孫引きする。
◇好きな物をいくら食べても痩せられる。
◇生涯2度とダイエットをする必要がない。
◇30日間で15キロ減量できる。
◇誰でも痩せられる。
これらの宣伝文句は現実的ではないので、惑わされないようにしましょう。

(米光一成)
編集部おすすめ