ゲーム記事的には「あのJ・B・ハロルドがiPhoneアプリになって帰ってきた!」と煽るのがセオリーなんですが、んなこと言われても何のことかわかんないですよね。スミマセン。


でもJ・B・ハロルドといえば、80年代後半のパソコンゲームにちょっと詳しい人なら、誰でも知ってる……かどうかは自信がありませんが、けっこうな人気作だったんですよ。そして、これが今遊んでも、やっぱり面白いんですよね。

アメリカの片田舎・リバティタウンの刑事J・B・ハロルドが主人公のミステリ・アドベンチャー。第1作「殺人倶楽部」がパソコンゲームで登場したのは「ドラゴンクエスト」と同じ1986年でした。ケータイアプリで第7作までシリーズが続いていますが、中でも「マンハッタン・レクイエム」「D・C・コネクション」と続く初期三部作は高い評価を受けています。

今回iPhoneアプリで配信された「刑事J・B・ハロルドの事件簿『マーダー・クラブ〜殺人倶楽部〜』」も、第1作のリメイク版。08年に発売されたDS版がベースで、グラフィックやサウンドが今風にリファインされ、画面タップだけで進めていけます。価格も800円とiPhoneアプリにしては高めですが、DS版の3990円に比べれば雲泥の安さ。App Storeで見た瞬間にポチってました。これはもう、強力なおっさんホイホイと言ってしまいましょう。
マーダー・クラブ - althi Inc.


ゲームはリバティタウン郊外の駐車場で、男性の死体が発見されるところから始まります。死体はロビンズ商会社長のビル・ロビンズで、死因は鋭利な刃物による背後からの刺殺死。
捜査を始めたJ・Bが複雑に入り組んだ人間関係を解きほぐしていくうちに、20年前に起きた迷宮入り事件が浮かんできて……というストーリーです。

捜査の大半は関係者に対する聞き込み調査で進んでいきます。捜査が進むと家宅捜査が可能になり、証拠品が押収できます。証拠が固まると容疑者を拘留して、取り調べができるようになります。これらを繰り返してストーリーを進めていく。アクションシーンもなければ、ラブシーンもない。身も蓋もない言い方をすると、地味なゲームです。

また画面上の選択肢を全てタップしていけば、遅かれ早かれ必ずクリアできるという、いわゆる「コマンド総当たり式」スタイルです。真実にたどり着くには、同じ場所、同じ質問でも時間をおいて、何度も何度も繰り返さなければなりません。当時はこれが当たり前だったんですが、今となっては、さすがに面倒なだけに感じます。

ただ、それでも先を進めてしまうんですね。大きな理由は3つあります。
1つは主人公J・Bの人間像。ゲーム中にJ・Bは一言も喋らないんですが「J・Bには、これ以上、そこから何かが出てくるとは思えなかった。」といった「地の文」の積み重ねだけで、J・B・ハロルド=プレイヤーという関係性を作り上げています。J・B・ハロルド自身は没個性的な、のっぺらぼうのキャラクターなのですが、ゲームプレイを通して、そこはかとない人間性まで感じられるようになるから不思議です。

2つめはマップ上を何度もタップして街を歩き回るという操作と、刑事物というテーマが、良くマッチしていること。ハードボイルド物のもう一つの主役は「街」ですからね。そして第3の理由が、16名以上にも及ぶ主要キャラクターの複雑な人間関係が、少しずつ解明していくおもしろさ。基本となるシナリオがしっかりしているからこそ、今遊んでも充分に面白いんですよ。

無料体験版もありますし、多くの人に、ぜひ遊んでみて欲しい一作です。シリーズ最高傑作と名高い「マンハッタン・レクイエム」と、初期三部作の最後を飾る「D・C・コネクション」についても、ぜひぜひに配信を期待しております!
(小野憲史)
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