「ありそうでなさそうで、でもやっぱりあるかもしれないけど、まさかそんなことはないだろう」という記事が満載のニュースサイト、それが「虚構新聞」です。2004年にスタートし、これまでも、

・「10桁で終了」 円周率ついに割り切れる
・「萌え」の起源は平安年間? 『枕草子』から新たな記述発見
・童話「ごんぎつね」ハリウッドで映画化

など「虚実の狭間を行き交う可能性世界」でスクープ記事を連発。
時に「ンなワケねーだろ!」とニヤニヤし、時に「これって本当なんでしょうか?」と質問サイトに燃料が投下されるなど、さまざまな波紋をネット界に巻き起こしてきました。

その「虚構新聞」の単行本『号外!! 虚構新聞』が出版。な、なんだってー! 

はい、これはホントでした。実は虚構新聞のニュースって、わずかに真実が混じっている点がミソ。これがスイカに塩をかけると甘みが増すように、「もっともらしさ」をさらに増しているんですよね……。しかし、実際にコンビニで現物を見たときは、さすがに目を疑いましたよホント。

というわけで、過去の虚構記事の名作選という本書。改めて読んだところ、それまで真実だと思い込んでいた記事が、少なからずあるのに驚きました。たとえば、

人気ゲーム「ラブプラス+」もマジコントラップ
マジコン使用者を一斉摘発 全国223人を逮捕
「音痴」は差別的 呼称の言い換えを検討
話題作「ヱヴァ」スクリーンを切り裂かれる
ドラクエ9 マジコンプレイで「お気の毒ですが……」

いやー、全部ホントのことだと思ってましたよ。マジコンネタが多いのは、やっぱり自分がゲーム業界の周辺で雑文を書き、口に糊をしているからなんでしょうね。マジコンを使っていると、「ラブプラス+」でヒロインに別れを告げられるなんて、ホントにありそうじゃないですか。

あ、マジコンというのはゲームソフトをバックアップするための周辺機器の総称のこと。
でも実際はゲームソフトを不正にダウンロードして、無料でプレイするために使われるケースが圧倒的。だからこそ、こうしたニュースが痛快に聞こえたわけで。いやー、人って自分が信じたい事象を信じちゃうんですよね。自壊したいところです。

でも、こんなウッカリさんは僕だけじゃないと思うんですよ。「虚構新聞」に限らず、ネットのニュースはポータルサイト経由で読む事が多いので、見出しだけ流し読みして、わかったつもりになってる事が多いんですよね。最近はtwitter経由で知る事も多いので、余計に虚構ネタが流布しやすくなっている背景もある。

またアニメの誘導ミサイルの表現が、後に軍事兵器で実用化されたように、虚構新聞の記事がホントになっちゃった例もありました。アスファルトから顔を出した「ど根性スイカ」実際に発見されたり、宇宙が見られる「Googleユニバース」Google Earthの機能に追加されたりなど。これからも、そうした「嘘から出たまこと」がありそうです。

ちなみに僕が虚構新聞を初めて知ったのは「『PSPじゃない』父親殴った息子を逮捕」という記事。発売直後の2004年で、社会現象になっていた頃の話です。
しかも間違って買ったというゲーム機の写真がゲームギア。思わず自分のブログで紹介しかけたほどでしたよ。その後、記事元をたどって納得。いやー、危ないところでした。

また、ネタもさることながら「少年は『早朝から出て行って一体何の列に並んでいたのかと考えると、腹が立って仕方がなかった』と供述している」。この一文に当時、心を鷲掴みにされましたね。ネタのセンスと、新聞パロディ風の文体の合わせ技。この人、元は新聞記者じゃないのかなあ。そんなふうに思わせるくらい、記事の「作り方」が上手いですね。ま、実際の新聞記事が紋切り型ってのもありますけど。

というわけで、ペラペラと本書をめくりながら思い出に浸るも良し。僕みたいにホントだと思い込んでいた記事が虚構だったと頭を抱えるも良し。
内容全てがエイプリルフールネタという希代の奇書で、かつ虚構記事という手段で現実の世相を鋭く批評する良書……って言い過ぎでしたね、スミマセン。

ちなみに表紙にある「第1回日本メディア大賞ジャーナリズム部門・最優秀賞受賞」というキャッチ。つい、釣られてググってしまいましたよ……。はい、そんな賞はどこにもありませんでした。いやもう、さすがです。(小野憲史)

(編集部註)1/11現在、コンビニでも入手困難の状況のようです、みかけたらとてもラッキーですよ
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