「課長、ちょっと課長今日飲み過ぎじゃないですか?」
「あ、だいじょぶ、大丈夫だよ。
「最近なあ……娘が一緒に風呂に入ってくれなくなったのだよ!」
「5年生でしたっけ、そりゃ、まあ、……普通じゃないすかね?」
「一昨日まで一緒に入っていたのに、恥ずかしいからって! しかも最近は『パパの靴下と一緒に洗わないで』って洗濯物分けられるんだ!」
「そ、それはなんかつらいスね」
「これが反抗期ってやつなのか? もしかして娘はわしのことが嫌いなのか、なあたまご君! わしは心配なんだよ!」
「んー、ぼくは子供いないのであんまり分からないですが、課長、これ面白かったのでお貸ししますよ」
「お、マンガか。『父派なわたしじゃいけません?』か。4コママンガだな。主人公はコギャルか」
「あんま最近コギャルって言わないっスけどね。女子高生が主人公です」
「ふむどれどれ……な、なぬ、この子お父さんのことが大好きなのか! というか好きってレベルと違うな、ラブじゃないか!」
「そうなんですよ。特にお父さん離れをしだす高校生時代に、それなりにおしゃれにも気を使うような気の強そうな女の子が実はお父さん大好き、という夢のようなマンガです」
「これはやばいぞ……たまご君、わしはツンデレの良さがいまいちわからなかったのだが、今、目覚めそうだ」
「課長よくツンデレとかご存知ですね」
「まあ、娘とよくアニメ見てるからな。まずなんといっても父親がチビデブハゲなのがいいな! 少なくともわしはここまでひどくない」
「そうですね、はげてませんし」
「お父さんが小さいころ買ってあげたぬいぐるみを大切にしているなんてたまらんな!」
「そうですね」
「バレンタインに人に送ったふりしてお父さんにチョコを渡すとか、照れているのもたまらんな!」
「そうですね」
「『初恋の相手はお父さんです、って本当なら恥ずかしくて言える訳ないもん!』とかもう……お父さんたまらんな!(涙」
「そ……そうっスね」
グビグビ。
「ファンタジーでもいい、こんなにもお父さんを好きでいてくれる女子高生の娘が見られるなんて、わしは……元気がでそうだよ、たまご君!」
「いいですよねえ。ぼくもこんな娘ほしいですよ」
「まあ、うちの娘の方がかわいいけどな!」
「言うと思ってましたよ! でもそうでしょうねえ」
「かわいいさかりだからな! ああ、うちの娘もこんなエリみたいな高校生に育ってくれれば……。だがなあ、これはマンガだからなあ。夢でしかないんじゃろうか」
「いやいや、課長。これ『父好きな女の子かわいい』だけじゃないんですよ」
「ほう? どういうことだいたまご君」
「このマンガの真価は、娘に愛される父親になるにはどうするべきかの指南書なところだと思うんですよ」
「ほほう?!」
「しかも嫌味なく描かれている。
「こんなハゲデブチビの父親をか? どれどれ……ん、この父親、結構いい父親だな?」
「そうなんですよ。ただがむしゃらに好かれているわけじゃないんですよね。例えば娘が体重で悩んでいるときに、『大丈夫だよ! エリ軽いから!』という気の利いた一言を言うために策を練ったり」
「ここもいいな! エリが髪の毛切ったの、誰も気づかなかったのに気づいて声をかけてあげるところとかな!」
「妹やお母さんの立場になって、気候に合わせた服装の気遣いをしてあげるのも素敵ですね」
「風邪ひいた時にゼリー買って来過ぎちゃうあたりの親ばかっぷりもすごいな!」
「課長も相当親ばか……」
「ん? 何かねたまご君」
「何でもないっス」
グビグビ。
「しかし妹の小学生のチリがなあ。うちの娘はチリに似てきているのかもしれん。だんだん父親に反抗したりして……」
「いえいえ。お父さんがチリちゃんにしていることと、チリちゃんがこの後どういう行動に移ったかも読んでみてくださいよ」
「チリに好きな男の子できるのか! お父さん許さないぞ!」
「まあまあ」
「お? あえてかっこよくもない、お父さん似の子を選ぶのか……なかなか見る目あるじゃないか」
「でしょう。ちゃんとお父さんが頑張っていること、妹のほうも分かっているんですよ。素敵な家庭ですよね」
「たまご君。元気が出てきたよ。まだ嫌われたわけじゃない……と思いたい!」
「だと思いますよ! 課長むしろ娘さんに好かれているんじゃないですかね」
「そ、そうか。じゃあこのくらい愛されるように、わしも父として頑張ってみるぞ!」
「おみやげを買っていってあげたり、声をまめにかけてあげたり。
「いや、間違いない。娘よー! 愛してるぞー!」
「課長! 今叫ぶのは恥ずかしいのでやめてください!」
夜は更けていく。
(たまごまご)