久保ミツロウ作のマンガ「モテキ」は、テレビドラマ化され、今も映画版が上映されています
なぜここまでブレイクしたのか!? 
それはおそらく一歩踏み込めない男子の情けなさを直球で描いているからでしょう。

いわゆる「草食系男子」と重ねられる事が多いんですが、どちらかというとコシヌケ系男子の話。自意識過剰になりすぎて一歩踏み出せずコミュニケーションを作れない男を描くのが本当にうまいんですこれが。非モテ男子の心理をごっそりえぐったり、「お前モテてるじゃねーか!」と突っ込まれたり、女性にわかるわかるこういうのあるあると言われたり、こういう男はダメじゃね……と目をそらされたり。
つまりそれだけ大なり小なり心を揺さぶったという意味ではすさまじい作品なんです。
ぼくもいろいろ心当たりありすぎてキンタマキュッってなりました。
 
さて、そんな久保ミツロウの新作が「アゲイン!!」です。現在二巻が発売になったばかりです。
「モテキ」では出てくるキャラそれぞれリアルを背負っていて見ているだけでハラハラしたんですが、今回も出てくるキャラみんなヒトクセもフタクセもあります。
「モテキ」はそのモヤモヤが突き刺さるような作品でしたけれど、今回は読んでいてすげーすっきりするんですよ。
主人公は、コミュニケーションが苦手な男子。このへん「モテキ」と基本変わりませんが、「モテキ」がセーブ失敗した人間たちの踏んだり蹴ったりだとしたら、こちらはセーブをリロードした少年の物語。

今村金一郎は、高校時代の三年間誰とも口を聞かず、思い出も作らずに過ごし、卒業してしまいました。
まあそんなもんだよなと。
しかし、ある日同級生の少女暁と階段を転げ落ちて、三年前、つまり入学式に戻ってしまうのです。
ん? つまりこれは……高校生活まるまるリセットですか。
最初のうちは「また暇な日々が3年続くなんて」と絶望するのです。
ここでいきなり「よしじゃあ友達を作って楽しい3年間にしよう!」とならないのが、らしいんですよねえ。だってそんなチャンスがきて切り替えられるくらいなら、苦労しないんだっつーの。ねえ。
しかし、1つだけ灰色の彼の高校生活の記憶に、鮮明に残っていた少女がいました。それは入学式の日、一人応援団で大きな声をあげて必死に応援していた少女宇佐美でした。
あれは、格好良かったんだ。彼は憧れていたんだ、こっそりと。
時をかける少年しちゃった彼は、今まで絶対にしなかったことをします。

応援団長、宇佐美に声をかけること。

たったそれだけなんですが、歯車がかみあってがっしがっしと高校生活は形を変え始めます。
彼が必ずしも望んでいる方向ばかりじゃないんです。
この作品、面白いのはあくまでも時間逆行自体はギミックの一つで、本筋にあるのはコミュニケーションが苦手で、トラウマを抱えた少年のいっぱいいっぱいな青春を描くことです。
でも、それで失敗した日々をまるまる書いたって仕方ない。しゃべらず寝るフリして帰る、の繰り返しじゃあね。ギャグマンガならいいんだけど。
むしろ、今まで「あーあ、お前がいると必ず負けるんだよなぁ」というフラッシュバックを見てしまう程に傷ついた彼が、もう一度高校生活を送るチャレンジの際に感じる一挙一動が面白いんです。

もう一つこの作品がすげーと思うのは、逆に3年間うまくやっていた少女藤枝暁が、二周目は何をやってもうまくいかないこと。
もう見てて泣きそうになるほどうまくいかないんです。
えー。いや確かに今村くん二周目は結構頑張ってると思うよ? コミュニケーション苦手な割に必死でさ、特に二巻の、お前らお前らお前らみんな楽しくやりやがって! 俺は辛いよ! みたいな逆ギレもストレートで気持ちいいですし。
これも二周目だから言えるんだよねえ。はー、僕の気持ちを代弁してくれてありがとう!
けれどもさあ、暁もそこそこ頑張ってるのになぜここまで上手くいかないのか!ってくらいうまくいかない。付き合ってた彼氏とは当然付き合う前に戻っているので、すり寄りすぎて気持ち悪がられる。クラスではなんか歯車が合わず、ぼっち。
彼女が幸せになればいいんだけど、そううまくいかないのが久保ミツロウ流なんだよなあ……。

久保ミツロウは、ほんと不器用な人間を描かせたら超一級です。
主人公の今村くんもたいがい不器用ですが、かっこいいと思っていた応援団長の宇佐美も頑固でそうとう不器用。元応援団だったメンバーもいろいろ面倒でアクの強い奴ぞろい。
それでも頑張ってるのって、気持ちいいんだなー。

テーマ自体は「不器用だけどがんばるやつら」だと思いますが、同時にもう一つのテーマは「応援」
久保ミツロウは以前「3.3.7ビョーシ!!」という応援団マンガを描いていましたが、今回はその「応援」と、「モテキ」の中にあった「不器用」をうまくミックスした作品になっているんです。
いやー……応援、されてみたくない? 頑張ってる時とか、凹んでる時とか。

ぼくはされたいよ。がんばれ!って言われたい。
二巻で今村は宇佐美に応援されます。
フレー フレー い・ま・む・ら
がんばれ がんばれ いまむら

高校三年間はそりゃ、ぼくには戻ってこないけどさ。
でもこんな風に応援されるんなら、このマンガ読み続けたいな、って思っちゃうよ。
あっそうか。気づかないうちに今村は、あとぼくは、団長の宇佐美を応援してるのかもしれない。

ところでそろそろ太い眉毛女子が流行る時代が来ると思うんですが、そこんとこどうなんですか。
(たまごまご)
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