“「先生、大変です。大阪を助けてください」”
『検証大阪の教育改革』の書き出しだ。

著者のところに、教え子から悲鳴のような言葉が届いた。

悲鳴の理由は何か?
“大阪の教育界を襲っている「台風」を巻き起こしたのが、橋下徹氏である。そう言いきって大きな誤りはない”。

橋下市長の台風っぷりは、今でも止まらない。
ツイッターで口汚い言葉でいろんな人にがんがん噛みつき、5月8日の囲み取材で女性記者と威圧的に激しい逆質問をする(5月8日登庁時市長囲み取材:Youtube)。
橋下市長が代表の「大阪維新の会」が出した「家庭教育支援条例案」は呆れかえるトンデモない内容で、批判を受け、撤回した。

“「大阪を助けてください」という叫びに、研究者としての私ができることは限られている。せめてペンの力を使って、大阪の教育界の苦境とその克服の道筋を日本じゅうの心ある人々に伝えたい。”

これは、さぞ現場からの痛烈な橋下徹批判だろうなと思って読んだ。

ところが、読後感は「あれ? 橋下徹の教育改革っていけてるんじゃない?」であった。
なぜか?

『検証大阪の教育改革』は、全4章構成。

第1章は「PISA以降の世界、全国テスト以降の日本」。

ここでは、現在の教育界の現状整理。
PISAというのは、二〇〇〇年から三年おきに実施している国際的な大規模学力調査だ。
二〇〇〇年、日本は文句なくトップグループにあった。
ところが、二〇〇三年および二〇〇六年で日本の成績は低下傾向。
このショックにより、二〇〇七年に日本国内で全国テストがスタートする。
都道府県別の結果が公表され、“秋田や福井をトップとし、沖縄や高知や大阪を最下位グループとする今日の日本の「学力地図」が明らかになった”

で、この直後に現れたのが橋下知事である。


第2章は、橋下知事時代の大阪の教育を検証する。

橋下知事は、「教育非常事態」宣言を出し以下の4本柱を示す。
1:学力向上策を徹底する
2:学校や教育委員会だけに任せない、地域や家庭も責任持つ
3:ダメ教員は排除する、教員のがんばりをもっと引き出す
4:「何でも自由」を改める

さらに、蔭山英男、小川勝を教育委員に、藤原和博を特別顧問に迎える。
“性急とも言える動きが、市町村教委や学校現場の、知事に対する反感や戸惑いを増大させた”
私立エリート校の進学率を上げるため成績優秀者を集める「分離学科」設置を決定する。

さらに、私立高校の授業料無性化政策を推進する。
生徒一人につき一定額を配分するやり方なので、“大きな学校により多くのお金が集まり、小規模校には明らかに不利になるように思われるが、知事はそれには頓着しない。”
“あたかも学校は、コンビニや居酒屋と同様の競争状態に置かれる”と、著者は批判する。

ここから批判的攻撃が続くかと思いきや、本書はとても冷静でフェアだ。
橋下府政を振り返って、府の教育委員会関係者の話をピックアップする。
それが意外なことに、評価は悪くないのだ。
“最初はドカーンとアドバルーンをあげるけれど、ちゃんと聞く耳を持ち、旺盛な学習意欲でさまざまなことを吸収していく。そして、是々非々の議論をたっぷり行ったあとは知事としての決断をし、大事だと思ったところにはこちらが驚くほどの大きな予算をつけてくれる”

“知事が赤と言えば事務局は赤でやらねばならないのだが、知事が議論を尽くすスタイルを採ってくれたおかげで、知事の「赤がピンクに変わっていく」様子をしばしば見ることができた”


三章は、大阪維新の会によって提出された「教育基本条例」についての検証だ。
何のまえぶれもなく、極端な条例が提案され、現場は腰をぬかす。
“いちばん大事な教育の基本を決めるものを、教育委員を全く無視してつくった。それはやっぱりおかしいです”と生野教育委員長。


「教育基本条例」は、“タチの悪いジョークのよう”だと批判し、検証していく。
たしかに、処分中心のいびつな提言である。
橋下徹と府教委側の対決過程が描かれる。
維新の会の「当初案」と、府教委の「対案」を比較し、具体的な争点を検証していく。
その果てに、“やっとあそこまで守れた”と教育委員長が答えるレベルにまですり合わせがなされるのだ。

たしかに、たいへんな苦労がなされ、そしていくつかの問題点も残っているだろう。
だが、本書を読むと、今回も、橋下氏は、ドカーンとアドバルーンを上げ、その内容は極端すぎたが、聞く耳を持ち、是々非々の議論で、しっかり決断し、“ぎりぎり合格”という状況になっているのではないか。“赤がピンクに変わっ”た。

戦うべきところは戦わなければならないが、それは倒すためではなく、よりよい未来を創るためであることを忘れてはならない。

書き出しの悲痛な叫びと裏腹に、『検証大阪の教育改革』を読む限りでは教育改革が進みだした印象を受けた。
っても、橋下市長、もうちょっと余裕ある優しい気持ちで、話しすればいいのにと思うけどね。(米光一成)
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