あなたは、44歳の南ちゃんに会いたいですか?
芸人のいとうあさこじゃないですよ。本物の南ちゃん。

僕は少し迷うけど、やっぱり南ちゃんには、明青学園の制服やレオタード姿が似合う女の子のままでいて欲しいですね。
だから、『タッチ』から26年後の世界が舞台だという、あだち充の新連載漫画「MIX(ミックス)」を読んだ時、少し安心しました。とりあえず第1話には、44歳になった南ちゃんの絵は出てこなかったので。

必要ないとは思いますが、念のために説明しましょう。『タッチ』とは、1981年から1986年に「週刊少年サンデー」で連載された、あだち充の代表作。南ちゃんは、『タッチ』のヒロイン浅倉南のことです。

明青学園に通う双子の兄弟・上杉達也と和也が、幼なじみの南の夢を叶えるために甲子園を目指すというのが、『タッチ』の大まかなストーリーでした。
最近では、漫画の『タッチ』は知らないけど、アニメの方なら知っているという人も多いかもしれませんね。数年前までは、夏休みに必ず再放送していたし。なにより、達也を演じていたのが、グレーゾーンな声優・三ツ矢雄二なので。

5月12日発売の「ゲッサン6月号」に掲載された「MIX」の第1話では、主人公の立花兄弟が、明青学園中等部の2年生で野球部に所属していること。事前に発表されたイラストに描かれていたヒロインらしき子が、1歳下の妹・音美であること。
明青学園高等部の野球部は長く低迷していること、などが明らかになりました。しかし、南ちゃんに限らず、『タッチ』のキャラクターが登場するシーンは無し。セリフだけで登場する怪しい女性は1人いますが、現時点でその正体は分かりません。女性の家の外観は描かれているので、『タッチ』に出てくる上杉家の外観と比較してみたのですが、ちょっと違う様子。でも、26年も経てば、リフォームくらいするかもしれないし……。
これから先、どのような形で『タッチ』ゆかりのキャラクターが登場し、物語に絡んでくるのか。
あるいは、誰も出ないのか。掲載誌の「ゲッサン」が、月刊誌なのがもどかしい。

ところで、この「MIX」の他にも、『タッチ』のその後を描いた作品が存在するのは知っていますか? 「MIX」の連載開始をきっかけに『タッチ』を読み返したり、まとめ買いしている人も多いそうなので、この機会に紹介しましょう。
ここから先は、『タッチ』の最終回までの話も含むので、未読でネタバレが嫌な人は、先に原作を読破してくださいね。少年サンデーコミックス版で全26巻ですが、漫画喫茶に半日くらいこもれば一気に読めますよ。

「タッチ Miss Lonely Yesterday あれから君は…」
1998年に、日本テレビの金曜ロードショー枠で放送されたオリジナルアニメ。
原作から3年後の物語で、達也と南は大学生。しかし、達也は受験に失敗し、南とは別の大学に通っています。
高校3年の夏、「上杉達也は浅倉南を愛しています。世界中の、誰よりも」という一世一代の告白で結ばれたはずの2人なのに、3年後の世界でも、幼なじみ以上恋人未満の微妙な関係。新体操を続けている南は、世界選手権で入賞するほどの選手に成長していますが、達也は夏の甲子園で優勝して以降、野球をやめたまま。新体操の合宿や大会で忙しい南とは一緒にいる時間も減っている中、大学では香織というハデ目な子に迫られ、デートしたりもしています。
さらに、野球でも恋でも達也のライバルだった新田(作中では東京六大学野球のスター選手)も加わり、恋の四角関係が形成。野球アニメではなく、完全に恋愛アニメです。でも、原作では直接描かれてない甲子園での試合が、回想シーンで登場。明青学園の決勝戦の相手も判明します。

「タッチ CROSS ROAD〜風のゆくえ〜」
「Miss Lonely Yesterday」の続編として作られたオリジナルアニメ。同じく金曜ロードショー枠で、2001年に放送されました。

再び野球を始めると決意した達也は、アメリカに渡り、マイナーリーグの「エメラルズ」に入団。ブランクを感じさせない剛速球で活躍しますが、ある試合でメジャー昇格直前の強打者の頭部にデッドボールを当ててしまい……。
一方の南は、日本でスポーツカメラマンのアシスタントに。前作の「Miss Lonely Yesterday」は達也と南の心のすれ違いがメインの物語でしたが、今作では遠距離恋愛中。なんとも障害の多いカップルです。しかし、前作とは違って南ひと筋の達也。胸ポケットに入れている南の写真をチームメイトに見つかって、羨ましがられる場面も。南ちゃんの可愛さは、海外にも通用するらしい。
そして、クライマックスの試合では、達也がまさかの行動を。あの達也が!! 

『タッチ もうひとつのラストシーン』(青木ひかる)
『タッチ』唯一のノベライズ作品。なんと、主人公は上杉兄弟の女房役だった松平孝太郎です。
甲子園優勝から20年後、監督を務めている弱小高校野球部に、双子の新入生が入部。その姿を見た孝太郎は、ともに青春を過ごした双子の兄弟との思い出を振り返っていきます。
原作のストーリーをベースに、さまざまな名場面が孝太郎視点で描かれていく今作。中学1年生での和也との出会いや、和也の投げる剛速球を初めて受けた時の思いなど、原作には登場しないエピソードも語られています。
南のファーストキスの相手が達也だと知った時の孝太郎の動揺ぶりには、ちょっと共感。
「!!!な、なんだって!! そんなバカな……」
「信じられない。ありえないことだ」
20年後の世界には、孝太郎以外の『タッチ』のキャラクターも、少しだけ登場しますよ。

『KATSU!』(あだち充)
2001年から2005年まで、「週刊少年サンデー」に連載されていたボクシング漫画。物語の本筋には関わってこないのですが、ラジオの実況中継の中に明青学園が登場。「剛腕、上杉を擁し全国制覇して以来、じつに16年ぶりの甲子園出場」と紹介されます。
連載当時、あだち充本人の作品の中で、明青学園の名前が出てきた事に驚き喜んだのですが。「MIX」の第1話で、明青学園が甲子園に出たのは「昔、昔のその昔、一度だけ」というセリフが……。あれ? 10年前には出てないの?
まあ、あだち充作品で、こういった設定の矛盾があるのは驚くほどのことじゃありません。どこかの「県」にあった学校が、東京都の学校になったり。泳げなかったはずのキャラが、突然、見事な泳ぎを披露したり。数々の前例があります。そんな時は作中に作者が登場し、言い訳するのがお約束。6月12日に発売される来月号で作者の登場はあるのか? それとも、『KATSU!』は別作品のパラレルワールドということで、スルーされてしまうのか? 注目ポイントの一つです。

ここに挙げたどの作品よりも、さらに未来の物語が語られることになる「MIX」。
44歳の達也が、現役選手として登場する可能性もゼロではありませんよ。現在、日本プロ野球界の最年長選手は山本昌(中日ドラゴンズ)の46歳。メジャーリーグでは49歳のモイヤー(コロラド・ロッキーズ)が、勝利投手になったりしていますから。
と言いつつも、達也の性格的には無いと思いますけどね。
普通に、喫茶店「南風」でマスターしてそうだ。
(丸本大輔)