まず毎週商品が入れ替わる雑誌棚がある。
「立ち読み」など時間つぶしをするだけの人が集まる。同好の士が集合場所に使う。
そして、お客さんの趣味や嗜好が丸出しになる!
冷静に考えるとすっげー変な場所なんです。衣料品店や生鮮食料品店ではまずこうはならない。
だからこそ、このドラマティック(?)な場所である書店を描いたマンガが昨今非常に増えています。
特に作家さんが書店員経験があって、それを生かして描いている作品が多いです。作家・マンガ家さんの書店員経験率結構高いんじゃないかと勘違いしてしまいそうです。統計とってみたいですね。
有名なところだと『暴れん坊本屋さん』や『金魚屋古書店』、『本屋の森のあかり』、『デンキ街の本屋さん』、エロ本屋系だと『桃色書店へようこそ』、『私のおウチはHON屋さん』がユニークです。
フィクションもノンフィクションも、やはり本屋ならではの「あるある」がそれぞれのウリです。書店と言っても古書店、一般書店、デパートの中の書店、チェーン店、アダルト書店で全然違います。
さて、今回紹介する『ヒナ書房へ行こう』も、書店員から見た本屋さんを描いたマンガです。
表紙だけ見るとあったかほのぼのマンガのように見えますし、実際それは間違いなく3割くらいあるんですが、そう思って読むとドッキリします。
本屋に来るこんな客いやだ!!というのとこんな書店員は困る!の両方ががっつり入ってるんです。
まあね、第三者から見るとトラブルって面白いからね!
まず客編。
立ち読み対策などの基本の話はもちろん載っていますが、例えばデジタル万引きというのはご存知でしょうか。
21世紀に入ってから生まれた言葉で、本を買わずに情報部分をケータイなどで撮影する行為だそうです。
実際はそれが犯罪かどうかはすっごい難しい話なんですが、少なくとも自分が書店員だったら、やですね。帰れ!
他にも、一番面倒臭いクレーマーの話がわんさか。
本の場所を聞かれて即答できなかったとき。
「本屋のくせに本を把握してないワケ?」
雨に濡れた傘で本屋にべちゃべちゃ入ってくるので傘を置いてと言ったら。
「ハァ!? 盗まれたら弁償してくれんのかよ!!」
イラッ!
でもいるよね。いるいる。
そんなイライラ話マンガで読んでも心底疲れてしまいそうですが、このマンガ最大のウリはヒロインの一人が毒舌で全部ぶった切るところです。
書店員なら、あるいは書店員を知っている人なら、誰もが思って口に出せなかったことを、ヒナというちんまい手慣れた書店員がバッサリ切り捨てます。
たとえば、本の発売日が延びた時、クレーマーは「えーっ!何でよ!! 楽しみにしてたのに!!」どわめきちらします。
それに対してヒナは言います。
「そーですねー、とりあえず、本屋のせいじゃねェ、とだけは言えます(はーと」
正論! その通り! よく言ってくれた!
他にも、テレビで放送されたことで雑誌が売り切れた事に対し「だったら多目に入れとかんかい!!!」とわめきちらすクレーマー。
ヒナさん、一言どうぞ。
「あたしらはエスパーじゃねェ」
よっしゃ! イエス! その通りっ!
もー読んでいて、ヒナが襲いかかる困難(クレーマー)を真っ向からばっさばっさとなぎ倒す様子は快感の一言。
まあ実際にこんなこと、言えないんですけどね。多分ですが、作者が書店員だったということなので、実際に言われたことに対して「こう言えれば!」という思いが積もり積もって、形になったんでしょう。
とにかく理不尽な客に対して爽快なまでに切り返してくれるからこのマンガ面白い。
ぶっちゃけ、「理不尽な客」ってのは山ほどいるんですよね、特に書店は趣味が出やすいのでなおのこと。
とはいえ、書店員最大の悩みは客だけではないです。
これ僕も知らなかったんですが、電車の広告などで雑誌の宣伝出ていますが、基本的にあれって発売前日に出すこと多いそうですね。隅っこに発売日は書いてるらしいですが、勘違いをすごい招きやすいそうな。
この場合、お客さんが雑誌がなくて怒ったとしても、書店員としては「ったく前日に広告ぶってんじゃねェよ!!」なわけですよ。
あ、これヒナのセリフです。
いやあ、大変だね……。
続いて、店員編。困った人は客ばかりじゃない。
一緒に書店で働いていると、本当に困る書店員というのはいるもの、らしい。
ぼくは経験ないですが、少なくともこのマンガ見ていたら「こんな書店員と働きたくない!!」と心底ゾッとしてしまいました。
このマンガの中では、店のテナントビルのオーナーの奥さんエミリー(日本人・おばちゃん)というキャラが出てきます。気さくで人懐っこいおばちゃんなんですが、彼女客を怒らせる天才。
書店に行って本がなかったら、店員さんに聞きますよね、「すみません、○○ありますか?」と。するとエミリー(おばちゃんですよ)は「さー、たぶんないんじゃないかしら」と適当に答えちゃうんです。これは……イラッ!
書店で重要なのは、正確な情報、お客さんの需要に合わせた受け答え、体力。
それがどれ一つとして満たされていない。
女の子が描いてあるからと幼年誌の中に18禁雑誌を混ぜてしまう。
注文した本が届いた旨の電話を曖昧に留守電に残し、客も店員もどれかわからない
去年受けていた注文を、年が明けてから連絡する。
困る!
「アバウト」が許されない書店員という仕事でこれは本当に大変。エミリー(おばちゃんだから)が入ってからのヒナ書房はてんやわんやです。
でもこれもまた、リアルなんですよね。一応フィクションとして書いていますが、客や流通だけが問題なわけじゃなくて、店員側が客に迷惑をかけていることも多々ある。そこを描いているのも面白いところです。
じゃあエミリーみたいな迷惑店員が本当にいらない存在かというと、性格が図太いが故に頼りになるところもあって……なかなかに持ちつ持たれつです。
その他にも細かな本屋あるある満載。バブル期の10日月曜日は、ジャンプ発売日+売れ筋雑誌発売日+ジャンプコミックス発売日で死ぬほど大変だった、とか。
へー……ドラ○ンボールとスラム○ンクの同時発売日とかゾッとするわ。
まあ色々紆余曲折ありながらも、過酷な割にそんなに儲からないながらも、書店員でいるのは、書店がやはり楽しいから……だと思う。
少なくとも作中の人物たちは、毒舌吐きまくりながら楽しんで書店員やってます。
こういう本読んでから書店に行くと、ちょっと見え方変わりますね。
「ところでさ、クリスマスプレゼント本(マンガ除く)もらってうれしい?」
「んー、うれしくない☆」
「だよね!!」
い、いやいや、そんなことはない、そんなことはない、ぞ!!!!
都波みなと 『ヒナ書房へ行こう』
(たまごまご)