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水道橋博士の決意を読み解く『藝人春秋』

現在も無料公開は継続中なので興味がある方はそちらを当たってほしい。この文章を読んで私が強い印象を受けたのは、かつて自分に「生きていても死んでいるような」空疎な時間を過ごしているだけの時期があったという博士が「ダメな自分を常にやさしく包み込んでくれる社会があるかのように保証している空手形に馴染めない」という一言だった。
水道橋博士が留保つきで認める屹立する権威の壁や父性の象徴を、私はどうしても肯定することができない(〈私〉は耐えられるが、それを他人にも耐えろと促すことができない)。しかし、優しさを餌にするだけでは何も解決には至らないのではないか、という指摘には深く頷けるものがある。
それはさておき、「ダメな自分」「空疎な自分」の存在をさらけ出し、次の「北野武と松本人志を巡る30年」の章で対極にある巨星について博士は言及する。この章は一見第1部と同じ列伝記述をしているだけに見えるが、自身の卑小さを対比する強い意図がある点が異なっている。そして次の「稲川淳二」の章へと続くのである。

稲川淳二について語ったこの章は、2002年に書かれたものである。編集者からは強く書籍化を望まれたが、内容の深刻さを考慮して博士はそれに踏み切れなかった。語られているのは、稲川淳二というかつてリアクション芸で鳴らした人物の知られざるプライベートを吐露した実話である。その深刻さを人に伝えることが問題なのではなく、他の文章のように笑いへと昇華できているものではなかったからだ。しかしその後の状況の変化を受けてついに、ありのままをあるがままにさらけだすことが大事なのだ、という心境に至る。そして『藝人春秋』を出すことを決意したのである。
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