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WBCをもっと深く。野球の国際化、そこで働くとはどういうことなのか『ベースボール労働移民』

キューバから野球が伝わり、その後冬季リーグ化し、MLBの人材供給地・選手育成の場と化したドミニカ野球。
アメリカと地続きでありながらも、ドミニカとは異なる独立した野球文化を形成していくことになるメキシコ野球。
野球不毛の地でありながら「プロ野球」を創設し、他国のプロリーグへの選手送出機関として存在したイスラエル野球(昨年まで中日に在籍していたマキシモ・ネルソン投手もイスラエルリーグ出身だ)。
他にも本書では中国・韓国・台湾の野球事情についても触れられている。当然、その立ち位置によってリーグのレベルも、選手の置かれる境遇(待遇)も変わってくる。MLBシーズンオフの調整やトレーニング的に参加する者、出稼ぎの場として活用する者、一方でバケーションの場としてのリーグ選びや、 自分探しの場として野球を追い求める者も出てくる。サッカーの世界では「越境フットボーラー」なんて言葉があるが、そのうち野球でも「越境ベースボーラー」なんて言葉が生まれるかもしれないなぁなんてことを思っていると、その「野球移民」がもたらす負の側面にも警鐘を鳴らす。
《先進国社会は現在空洞化に悩まされている。グローバルな競争の下、人件費の安い後発国におされた先進国の労働環境は悪化の一途をたどり、その結果、低廉な労働市場が先進国の中に出現している。スポーツの世界においても、今、それが目に見えるかたちであらわれているのである》
《現在、アメリカのマイナーリーグや独立リーグには、ドラフトから漏れた多くの日本の若者が夢を追いかけて身を投じている。逆に日本の独立リーグでも韓国プロ野球からあぶれた者や南北アメリカ大陸からプロ野球選手を目指して海を渡ってきた若者が日本人選手に交じってプレーしている。そこに集う若者の多くは(略)「自分探し」型のスポーツ労働移民と同様、見込みの薄い夢を追いかけて低報酬の不安定雇用に身を置いている。(略)ベースボール・レジーム(※「人材獲得」「放送網」「マーチャンダイズ」など、野球の拡大によって生まれる各国リーグのモザイク状に広がるネットワーク)とは、グローバル化の行き着く先の、夢を媒介とした新たな収奪の装置であるとも言えるのではないだろうか》

本書『ベースボール労働移民』は、野球の国際化、そしてそこで働く、ということについて多くの示唆を与えてくれる。
社会学的な専門用語が多く、気軽に読み進められないのが難点。願わくばもう少し「わかりやすく伝える姿勢」があると良かった。「野球が置かれた現状を魅力的に、わかりやすく伝える」…それこそが、野球という競技が五輪復活を目指して世界的に広く認知される上でも求められることであると思うのだが。
(オグマナオト)

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