理由の1つはフランスの習慣だ。
仏メディアが伝えた、ドギーバッグ擁護者であるエコ・バッグ会社設立者の話を引用すると、残り物を持ち帰るというのは恥であり、ドギーバッグをレストランで頼むことで、周囲にそれが知れてしまう。これは「ありがとう」を言わなかったり、自分の後に通る人のためにドアを押さえなかったりすることと同等の無作法であって、しつけのなさをあらわにしてしまうという。そのため米国のように、残したものを家に持って帰ることは好まれない。
実際1990年代から2000年代に、ドギーバッグをフランスの食文化として広めようとした動きはいくつか起きたが、結局何も変わらなかった。これを受けて、レストラン側も客にドギーバッグの提案をやめてしまったのだ。
フランスと米国の食事内容の違いも、ドギーバッグが広まらない要素だ。フレンチの皿は、北米のように大量の、おなかにたまるようなふかした料理は盛られない。そのためドギーバッグの必要性も薄れる。フランスと料理のルーツを同じにするイタリアやベルギーでも、ドギーバッグは一般的ではない。
主流ではないものの、ドギーバッグを用いるお店もある。パリのとあるレストランではいつも提案しているという。客はしばしば驚くものの、みな満足して持ち帰ってくれるとか。
一方、衛生上などの法律面で二の足を踏むケースもある。
残りものの持ち帰りは、フランスの法律的に微妙な部分でもあるという。中でも仏レストラン関係者団体CDREは「ドギーバッグは健康に関した項目で、法律に反すると認識している」と答えている。
また食中毒が起きた場合、レストランオーナーに責任がおよび、客が店を訴えることも起こりうる。
ドギーバッグを好まない料理人も多い。
食事の提供の仕方やタイミングは、店の空間などと共に料理を構成するプレゼンテーションの一部だ。それを置き去りにして、残り物を紙の箱にごちゃまぜに入れては、その要素を失うことになる。それならなぜ量を減らさないのか、と現地レストラン関係者は主張する。
しかしながら現在、フランスでは年間1人当たり平均20kgの食事が捨てられている。
衛生面のトレーニングや意識変化など、フランスでドギーバッグが広まるにはまだやるべきことは多いが、食品ロス削減の一助にはなるはずだ。欧州の取り組みは今後どのような成果を見せるのか。日本にとっても1つの指針になるだろう。
(加藤亨延)