先週の予告編で菊村(石坂浩二)とアザミ(清野菜名)のキスシーンを見て「ウホーッ! ジジイとヤングがチュー! チュー!」と興奮し、放送を心待ちにしていた人も多いんじゃないかと思われるが、そんな注目のシーンがまさかの夢とは……。
『やすらぎの郷』(テレビ朝日・月〜金曜12:30〜)第22週は、余命一月と言われている姫こと九条摂子(八千草薫)の病状を主軸にしつつ、老人たちの噂話と夢で構成される、なんとも不思議な週だった。

八千草薫は天使!
姫の病状に、劇的な変化はなさそうではあるが、菊村を初恋の相手・千坂監督と混同しながらしりとりをするシーンなど、「脳にガンが転移するとはこういうことか……」と静かに伝わってきてジワジワと悲しい気持ちにさせられた。
そんな姫に向けて語られた、菊村のナレーションが思い入れたっぷり過ぎて、まあすごかったのだ。
「九条摂子という類い稀な天使は、その美しさと清純さをもって、人々の心を浄化してきた。彼女こそ心の洗濯屋だった。神がこの世に送り込んだ、天使のような洗濯屋だった」
「世の人に代わって、私は何と、アナタにお礼を言えばいいのだろう」
……神が送り込んだ天使!
九条摂子という女優が偉大だという話は、ドラマ中たびたび語られてはいたが、具体的に「天使」と称されるほどグレイトな女優だったのかどうかは想像するしかないわけで、このメッセージはどうしても、九条摂子を演じる八千草薫の方に重なってしまう。
これまでも、メチャクチャ下世話に描かれている他の老人連中と違い、姫はやたらと神聖化されており「えこひいき!」と思うこともあったが、もうこれは倉本聰が八千草薫のことをリアルに「天使!」と思っているんだと考えちゃっていいだろう。あのナレーションは、倉本聰から八千草薫へ捧げる讃辞の言葉なのだ。
……こう言うと八千草薫が死んじゃうみたいだけど。
「やすらぎの郷」は出会い系施設か!?
一方、他の老人連中は相変わらずザ・下世話! 「このこと(姫の病状)が他の人に漏れないように……」と言っていたのに、アッという間に話が広まって、老人たちの噂話ネタになってしまった。
ハッピーちゃん(松岡茉優)のレイプ事件の時も思ったが、「やすらぎの郷」の運営スタッフしか知り得ないような情報が、入居者である老人たちにバンバン漏洩しまくり、
「いいヒマつぶしのネタ!」とばかりに
噂話をしまくる老人たちのおぞましさよ……。
マロ(ミッキー・カーチス)は、交際中の「やすらぎの郷」職員・伸子(常盤貴子)から、今回の話を聞き出したというが、いくら交際相手とはいえ、一応、老人たちのプライバシーを扱う職業なのに、ちょっと口が軽すぎないだろうか。
そもそも、老人ホームの職員が入居者と付き合うってアリなの!?
……とか思っていたら、第2の入居者×職員カップルが誕生していた。三井路子(五月みどり)と中里(加藤久雅)だ。
中里って誰だっけ? と思ったが、レイプ事件の報復のために秀サンたちと一緒に暴走族のたまり場に乗り込んでいって、「いよっ、秀サン」と声を上げていたアイツか。
入居者同士の恋愛沙汰は、ほぼ皆無なのに、職員が入居者に手を出しまくる「やすらぎの郷」……ヤベエな。
これが、児童養護施設の職員が児童に手を出しまくっていたとしたらワイドショー級の事件になること間違いナシなのに、老人相手だったらオッケーなのだろうか?
この辺りは、「年寄り同士が恋愛したって夢も希望もねえだろう! ジジイは若い女子と、ババアも若い男子と付き合わないと!」……という、シニア層の視聴者に夢を与える倉本的サービスなんだろうけど。
そして、「シニア層をワクワクさせるシチューエション」の極めつけといえばやはり、菊村とアザミの関係だ。
以前、登場した際にも、別れ際にいきなり菊村に抱きつくという、「こんなこといいな! できたらいいな!」なシチュエーションを演じてくれたアザミちゃんだが、今回はまさかのキス!
ドラマの中では夢オチだったけど、撮影現場では実際に石坂浩二と清野菜名がチューしているワケだからね! それどころか、胸にタッチしてるから……夢、あるねー!
ボクも見ていて「いいなーっ」と思ってしまったが、石坂浩二と同年代のおじいさんたちからしたら、さらに「いいないいな、石坂浩二はいいな〜!」ってなもんだろう。
ドラマ史上最高年齢差……かどうかは分からないが、リアル年齢で54歳差のキスシーン(ついでに胸タッチ)。
これまで、元妻・元カノと共演させられたり、黒歴史をほじくり返されたりと、このドラマで何かと虐げられてきた石坂浩二への、倉本聰からのねぎらいなのか? それとも、この枠の次期ドラマ『トットちゃん』で主演が決まっている清野菜名ちゃんへのキツイ通過儀礼なのか!?
1話丸々夢という伝説回
問題のキスシーンも含め、9月1日の放送分は放送時間の大半が菊村の夢(妄想?)という、伝説級のスゴイ回だった。
アザミとのキス&おっぱいタッチという、性欲をもてあました男子中学生が見るようなエロ夢からはじまり、かつて菊村が恋をしていたアザミの祖母・直美の登場。そして、亡妻・律子(風吹ジュン)が化け猫に変身するホラー風味の夢。
これまでもちょいちょい菊村の「変な夢」は登場していたが、今回はかなりのロングバージョン。そしてやっぱり意味が分からない!
特に、アザミが祖母・直美とともに東日本大震災の津波に巻き込まれた際、祖母を助けられなかった思い出を表現した「手を放したのは私」というキーワードを、菊村がおっぱいから手を離したタイミングでぶっ込んできた意図は何だったんだろうか……。ギャグ? さすがに、笑っていいやら悪いやらで困惑してしまった。
最後、夢から覚めた(らしい)菊村が見た、かつての芸能界のドン・加納英吉(織本順吉)の姿も、夢の中に負けない異様な雰囲気に溢れていた。
ドラマもいよいよ大詰め感がみなぎってきているが、そうなるとやはり姫の病状が気になるところ。……普通に考えれば加納は姫の最期を看取りに来たってことだろうからなぁ。
そして、アザミちゃんは現実でも再登場してシニアたちに夢を振りまいてくれるのだろうか!?
(イラストと文/北村ヂン)