「明日、俺も指名待ってるから」

いや、そういうのもういいからみたいなあの感じ。今年も野球好きの間で、そんな聞き飽きた挨拶が交わされる季節がやって来た。


明日26日はドラフト会議である。もちろん上位指名は甲子園や六大学のスター選手、超高校級や大卒・社会人の即戦力投手でほぼ占められる。
正直、上位で注目される選手はどの球団もほとんど変わらない。下位指名こそ球団ごとの独自色が出やすい腕の見せ所。

だから、昔からコアなファンの間では「ドラフト4位指名野手」に注目なんて言われてきた。そう言えば、個人的に好きな巨人の亀井善行も04年4位だ。
90年代も「ドラ4野手」は数多くの名選手を輩出している。鈴木尚典(大洋90年4位)、多村仁(94年横浜4位)、和田一浩(96年西武4位)、鈴木尚広(96年巨人4位)、坪井智哉(97年阪神4位)、川崎宗則(ダイエー99年4位)といった豪華な個性派たちが集結。

そして、今でも語り草なのが91年ドラフト4位組である。

1991年 ドラフト1位選手たちは


この年のドラフトの目玉は4球団競合の末にダイエーが当たりクジを引き当てた若田部健一(駒沢大/元HKT48若田部遥の父親)。さらに2球団競合の斎藤隆(東北福祉大)は大洋、田口壮(関西学院大)はオリックス。野村ヤクルトのエースとして活躍した石井一久(東京学館浦安高)は単独1位指名だった。偶然にも斎藤、田口、石井と皆揃ってのちのメジャーリーガーだ。


ドラフト名物、甲子園のアイドル枠は上田佳範(松商学園)で決まり。91年春の甲子園では投手として35回連続無失点、打撃も超高校級で「4番エース」として準優勝の原動力に。その甘いマスクは懐かしのギバちゃん似と言われ女性人気も高かった。18歳の投げれて打てる逸材を1位指名したのは日本ハムというのも興味深い。

大谷翔平よりも20年先に実現するかもしれなかった二刀流だったが、上田の肩の故障により2年目から外野手転向。早すぎた二刀流は夢に終わった。

オリックス4位 鈴木一朗


そして、春の甲子園で上田の前に5打数無安打と完璧に抑えられたのがあの鈴木一朗(愛工大名電高)である。

チームも敗れ、上田の1位指名に対して、鈴木はオリックス4位指名。ライバルに大きく差をつけられてのプロ入りだったが、3年目から“イチロー”と名乗り球界に革命を起こすことになる。
オリックス時代の背番号51の活躍はあらためて紹介するまでもないが、実は2軍では1年目から打率.366で首位打者獲得、2年目も打率.371で2シーズンに渡り46試合連続安打とウエスタンリーグの打撃成績も図抜けていた。

17年終了時、NPBで9年、MLBで17年プレーして日米通算4358安打を積み重ねた男。44歳になった今、その去就が注目される。

近鉄4位 中村紀洋


さてイチローと言えばノリさんだ。近鉄4位指名は中村紀洋(大阪渋谷高)。

浪速の驚弾炸裂スラッガーも、ドラフトではイチローと同じく「投手」として名前を呼ばれていたのに時代を感じるが、プロ入り後は野手1本で勝負する。

4年目の95年には129試合に出場して初の20本塁打クリア、98年には30本の壁を破り32本塁打を記録。9年目の00年には39本塁打、110打点で初の打撃タイトルとなる二冠獲得をした。
そして、イチローがアメリカへ去った01年には打率.320、46本、132打点という凄まじい成績で55本塁打のタフィ・ローズとともにチームを牽引し、近鉄バファローズ最後の優勝に大きく貢献することになる。

金髪姿で当時人気絶頂のタレント優香と並んで『日清食品 どん兵衛』テレビCM出演の偉業達成したことも付け加えておきたい。

広島4位 金本知憲


あの鉄人も91年の広島4位指名である。現在阪神監督を務める金本知憲(東北福祉大)は大学入学時に一浪しており、プロ入り後2年間は結果が出ず、気が付けば25歳。

しかし、3年目から肉体改造の成果もありレギュラー定着すると、97年には33本塁打をかっ飛ばす。2000年には打率.315、30本、30盗塁でトリプルスリー達成。前田智徳(89年4位)、江藤智(88年5位)、緒方孝市(86年3位)らとともに90年代カープの“ビッグレッドマシン”と呼ばれる強力打線を形成した。

金本は02年オフに阪神へFA移籍。なお大学時代、のちに阪神で4番を打った桧山進次郎(東洋大)とは日本代表でチームメイトになっているが、この桧山も91年阪神4位でプロ入りしている。
みんなドラフト4位組。ほとんど奇跡的ですらある。

イチローはちょっと別次元だが、それぞれが90年代にチームの主力に定着し、00年代には球界を代表する選手へと駆け上がっていった同期生。イチロー、中村、金本と91年4位指名の3名が名球会入り。なおこの3名で日米通算計9003安打を放っている。まさに史上最強のドラフト4位組と言えるだろう。

あれから26年。明日のドラフト会議で指名されるドラフト4位野手に、未来の中村や金本がいるかもしれない。
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