保育者の働き方改革 「保育士の3人に1人が心のケアが必要」な現状をどう変える?
左からリクルートマネジメントソリューションズ 笠井亘氏、あすみ福祉会 渡辺秀初氏、リクルートマーケティングパートナーズ 森脇潤一氏

リクルートマーケティングパートナーズが提供する保育園と保護者をつなげるコミュニケーションサービス「kidsly(以下、キッズリー)」は20日、保育園や幼稚園で働く保育者のホンネや価値観をまとめた「キッズリー保育者ケアの分析結果」と、先進的な保育の取組みを実施しているあすみ福祉会・茶々保育園グループの動向について記者会見を行った。
保育者の多くは職場の人間関係などにより離職率が高く、「働き方改革」が求められている。
同社は、保育者のコンディション診断サービス「キッズリー保育者ケア」で、保育者や園の職場の実体をより可視化し、管理職と保育者との面談と組み合わせることで離職防止と職場活性化をサポートしていくという。

東京都が2014年に作成した保育士実態調査報告書によると、保育士の離職理由は、「妊娠・出産」「給料が安い」「職場の人間関係」などが挙げられている。

給料については、「ここ数年間でかなり改善されています。また、保育士集めのために自治体が賃金を出すケースがありますが、全国で同じ仕組みというわけではありません。そこに不公平感があり、大きな問題点を感じています。実際、我々のように1都4県で展開している保育園であれば対応が困難という実態があります」(あすみ福祉会 運営管理部長 渡辺秀初氏)という。

渡辺氏は保育について、「社会のライフラインであり、保育者は社会からリスペクトされるべき。そういう社会にならないと、保育者はやりがいを持たないのではないのではないでしょうか」と保育者の地位向上を訴える。


職場の人間関係が良好であれば仕事のモチベーションは下がりづらい


厚生労働省が昨年行なった2,672施設、3,457人の保育士に実施した全国調査によると、「保育士の3人に1人が心のケアが必要」と感じる一方、「6割の保育所でメンタル支援が不十分」であることが明らかになっている。

そこで「キッズリー保育者ケア」が登場した。保育者が普段使用しているパソコンやスマホなどで現在のコンディションを診断するために、項目事項に回答し、その回答結果をリクルートが集計・分析。レポート結果をもとに園長と保育者が面談の時に活用し、よりよい人間・職場関係の構築を目指すツールだ。
診断レポートは、自身のコンディションを確認するものや園向けのレポートなどを提供している。
今年4月からサービスを開始した。
「仕事のモチベーションが低いという結果だけでなく、たとえば保護者との関係に悩んでいるといった悩みの原因の可視化も可能です。園や先輩がサポートすれば、特定の悩みを解決できます。実際にとある園では、活用することによって離職率が大幅に減少した事例はあります」(リクルートマーケティングパートナーズ kidslyグループマネージャー 森脇潤一氏)

今回、「キッズリー保育者ケア」を活用した調査にあたり、同社と適性検査と組織診断をてがけるリクルートマネジメントソリューションズと共同で分析をおこなった。
この分析では、「人間関係は仕事の負担感とモチベーションを調整する」「人間関係は園運営の納得感に影響を受ける」ことが分った。
仮に仕事の負担感を重く感じていても、職場の人間関係が良好であると認識していれば、仕事へのモチベーションが下がりづらくなるという傾向にあり、園の方針やマネジメントに対して納得感が高ければ、職場の人間関係は良好になることも示唆している。

「職場の人間関係が良好な人とそうでない人を比較すると、『仕事の負担感』『仕事に対するモチベーション』への影響があることが判明しています。今後、より詳しい調査も行なっていきたいです」(リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブソリューションプランナー 笠井亘氏)
その相関関係を示した図は次の通りだ。
保育者の働き方改革 「保育士の3人に1人が心のケアが必要」な現状をどう変える?

つまり、保育者の離職率を防ぐには、「良好な職場の人間関係」と「保育園運営の納得感」が両輪でスムーズに運ぶことがカギになる。
保育者の働き方改革 「保育士の3人に1人が心のケアが必要」な現状をどう変える?

渡辺氏は、ある保育者が人間関係に悩んだ一例を提示した。
「保育者は若手が多く、未婚で、お子さんもいない方もおります。そこでお子さんを預けている保護者からすれば適切な保育ができるだろうかという不安があります。
しかし保育士の役割は、お子さんの保育だけではなく、保護者にもアドバイスをすることも専門性の一つです。
そこでなかなかコミュニケーションが円滑にいかない。保育士は、保育の専門性のなかでお子さんをどう保育すべきかを考えますが、保護者はお子さんに対して、保育や教育を急ぐあまり、『これはこうしなさい』『これをやってはだめ』と言いがちです。しかし、場合によっては遊ばせ、いたずらをすることも大事なのです。
保育士からすれば、保護者に、保育のことをどのように伝えればいいかと悩み、時には、それが保護者からのクレームになってしまう。そこで仕事が難しいと実感することがあります」


保育者に名刺をもたせる「オトナの保育園」


保育士の人間関係で困った事例であるが、保育士業界に限らず悩みは1人で抱え込まないことが重要であると渡辺氏は提言する。
「私どもでは、こうした悩みについては園長含め、みなさんで情報共有し、解決方法を考え、ミーティングなどで話し合う場を設けています」
保育者の働き方改革 「保育士の3人に1人が心のケアが必要」な現状をどう変える?
あすみ福祉会の取り組みについて説明する渡辺氏

保育者1人ひとりが笑顔で働ける環境づくりを目指すあすみ福祉会が運営する茶々保育園グループは1都4県14カ所で保育園を運営している。
「人間関係で重要なことは保育者をはじめとするスタッフが理念と保育方針を共有することにあり、それが職場の土台につながります。保育者の考え方がバラバラですと衝突も生まれます」(渡辺氏)

同園では、子どもたちがはじめて出会う社会人として「オトナの保育園」をコンセプトに設定した。
預かっているお子さんを1人の人格ある人間として関わっていくことが信念だ。

保育者は通常、名刺は持たないが、茶々保育園グループでは名刺を持つ。保育園業界で名刺を持つ試みは極めて珍しい。
名刺には役職はないが、各園長が保育者に対してメッセージを込めて、「アイディアクリエーター」「まなびプランナー」「おもてなしプランナー」などと明記し、モチベーションを高め、名刺をツールにし、保護者や地域にも関わり合いを強めていくのが同園のスタンス。

保育者も通常、エプロンの色は黄色などカラフルなものが一般的。その常識を覆し、木や土、大地といった自然を感じさせる茶色のエプロンに統一している。

園舎の中にカフェコーナーを設置して無料でコーヒーを飲めるようにした例もある。職員、保護者だけではなく、地域住民が集い、俳句好きな人も集まり、句会を行なうケースもあるという。また、処遇改善では、帰省する際、1年に1回往復の交通費を負担する福利厚生も実施している。

厚生労働省の保育士確保プランによると今年度末までに新たに約7万人の保育士が必要とされている。
給与などの処遇改善、地位向上、福利厚生など行なうべき施策は数多くある一方、保育者の離職防止のカギは、「人間関係」が大きなキーワード。保育者の人間関係は保育園だけではなく、保護者や地域など外的要因も多い。その解決をどのようにはかっていくか、各園に対応が求められている。
(長井雄一朗)
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