「明日、奇跡が起こりますように」
「奇跡は、奇跡は、明日起こってほしいんですよ!」

綾瀬はるか主演、森下佳子脚本の火曜ドラマ『義母と娘のブルース』。元キャリアウーマンの義母・亜希子(綾瀬はるか)と娘・みゆき(横溝菜帆)、そして夫・良一(竹野内豊)の交流を描く。


先週放送された第5話の視聴率はさらに上がって13.1%。視聴率が取りにくいと言われている夏ドラマの中で大健闘している。どうやら『ギボムス』ブームが来はじめているようだ。
「義母と娘のブルース」綾瀬はるかの目力、土下座が奇跡を呼ぶか。今夜は最終話にして第1話らしい
イラスト/まつもとりえこ

すさまじい綾瀬はるかの目力炸裂!


スキルス性胃がんで倒れた良一が病院に担ぎ込まれたところから始まった第5話は、良一の闘病生活を通して、偽装結婚だった2人が本当の夫婦になるまでの様子が描かれた。

良一の病は重篤だが、毎回レビューでも書いているように、細かなギャグを忘れない。みゆきに良一が骨折だと思わせるため、亜希子がものすごい形相で下山(麻生祐未)を睨むのだがが、本当に綾瀬はるかの目が「黙ってろ」と言っていた。目は口ほどに物を言う。

夫婦なのに亜希子が良一の体を拭くことができないというギャグは原作どおり。しかし、笑ってばかりもいられない。検査の結果、体内のがんを示すマーカー値は大幅に上昇していた。良一は苛立ちを亜希子にぶつけてしまう。

「ずっといられてもやりづらいですし」
「やりづらい、とは?」
「そりゃそうでしょう。本当の夫婦じゃないんですから」

ショックを受ける亜希子だが、自分が良一を支えなければと奮起し、家の壁じゅうに謎のスローガンを張りまくる。
一方、良一は見舞いに来た亜希子に頭を下げると、亜希子はアタッシェケースを抱えて良一の代わりに競合プレゼンに臨むという。まともに付き添いができない亜希子だが、こういう形でなら役に立てる。彼女の一生懸命さは、十分に良一に伝わっていた。

自分には一生懸命な妻と、守るべき娘がいる。これまで「ピンピンコロリでいい」と闘病から目を背けていた良一だったが、ようやく闘病に前向きになる。

「ガンガンに当ててください!」
「スタートダッシュかけたいんです!」
「イケイケドンドンでお願いします」

辛い放射線治療を耐える良一。良一の会社で競合プレゼンの準備に邁進する亜希子。亡き母のトラウマで病院が嫌いになったみゆきは、自分なりに父親を励まそうと「奇跡」を集めたアルバムをつくりはじめる。家族がそれぞれの持ち場で生懸命戦いはじめた。

美しい夫婦(めおと)土下座


亜希子の競合プレゼンと良一の検査結果が知らされる日は同じだった。

プレゼンを終えて病院に急ぐ亜希子が、謎の男・麦田(佐藤健)の運転する霊柩車と出くわすと、思わず親指を隠す。クールで理知的なはずの亜希子が、不吉な迷信を気にしていることを表している(ベタだけど)。その前日は、亡き妻・愛(奥山佳恵)の写真に向かい、両手を合わせて「奇跡」が起こるように祈っていた。


検査の結果、良一のマーカー値は大幅に下落! 本当に奇跡は起こるのか……?

「ありがとうございます。ありがとうございます……」

亜希子はその場にひざまずき、土下座をしながら感謝の言葉を繰り返す。愛への感謝……というより、「奇跡」そのものへの感謝だろう。その姿を見た良一は、「こちらこそ、ありがとうございます」と土下座で返す。良一の土下座は亜希子に向けたものだ。美しい夫婦(めおと)土下座だった。

良一と亜希子は、みゆきのもとに帰ってくる。3人で手をつなぎ、商店街を歩く姿は本当に幸せそうだ。幸せであればあるほど、失ったときの悲しみは大きくなる。だからこそ、大切にしようとするのだろう。

当たり前のことだが、良いドラマは脇役も良い味を出している。下山役の麻生祐未、良一の上司役の浅野和之、亜希子の部下役の浅利陽介らは当然として、今回出演していた入院患者の今井朋彦、医師役の林泰文もサラッと肌ざわりの良い演技を見せていた。
今井は『真田丸』の大野治長役など、三谷幸喜作品に複数出演している文学座所属の俳優。林泰文は『青春デンデケデケデケ』をはじめとする大林宣彦映画に欠かせない存在として邦画ファンにはよく知られている。それにしてもウーマンラッシュアワー村本大輔のたどたどしさは尋常じゃない(本人も自覚しているらしいけど)。

二回目のプロポーズ


帰宅後、3人で一緒に風呂に入ろうというみゆきの提案にあわてふためく亜希子。それがダメなら3人で一緒に寝ようという。これならお風呂よりずっとハードルが低い。

寝息をたてているみゆきを挟んで、良一は亜希子にこれまで死ぬことがあまり怖いと思っていなかったと語る。あの世で愛する妻とも会うことができるから。だが、今は死ぬことが怖くなってしまったという。

「このまま生きていれば、信じられないような楽しいことが、きっとたくさんあるんだろうと思うと。死にたくないです。亜希子さんと出会って、そう思いました。
僕は、亜希子さんと一緒にみゆきが大きくなっていくのを見たいです。だから、その……もし、僕が治っても、一緒にいてくれますか?」

これは良一から亜希子への二回目のプロポーズ。

「今、大変動揺しております。こんな奇跡のような受注があってよいものかと」
「じゅ、受注?」
「これは……鉄を買ってくれという契約を取りに行ったところ、ついでにアルミもお願いと言われたようなものです」

動揺しながらひたすらみゆきの髪をなで続ける亜希子が可愛らしい。すごい勢いで撫でられ続けていた横溝菜帆もさぞ大変だったろう。もちろん、亜希子に異存はない。

第5話では、シンメトリックな構図が印象的に使われていた。夫婦での土下座姿、3人で手をつないで歩く姿、そしてみゆきの両頬に亜希子と良一がキスする姿だ。亜希子と良一はみゆきを介して、契約結婚ではない本物の夫婦になった。

だが、みゆきが寝返りを打って亜希子の肩にもたれかかることで、シンメトリックな構図が崩れる。その姿を見て、良一はさまざまなことに思いを馳せていただろう。亜希子の頼もしさ、みゆきの亜希子への親愛の情を見た安心、そして自分がいなくなってしまうこと――。
良一は複雑な表情を一瞬見せて、いつもの微笑みに戻り、眠りにつく。

翌日、良一は亜希子と一緒に写真館に行き、家族写真を撮ろうと提案する。亜希子には真っ白なウェディングドレス、みゆきもお揃いの白いドレスで、自分はパリッと黒いタキシードを着たいと語る良一だったが……。

本日放送の第6話より「第二章」がスタートする。第5話が終わった後は予告が流れなかったが、第6話のTVスポットでは10年後のみゆき(上白石萌歌)が登場していた。このまま良一の死を描かず、いきなり10年後に飛ぶのだろうか?

亜希子と良一は第5話で夫婦になったが、亜希子とみゆきは自然に仲良くなったものの、本当の「親子」にはなっていない。だから、第6話はいきなり10年後に飛ぶことはないと予測しておきたい。原作者の桜沢鈴は「第二部が始まります。最終話で一話な六話は絶対見てほしい」とツイートしている。ここまでの「最終話」を見逃さないように。今夜10時から。
(大山くまお)

【作品データ】
『義母と娘のブルース』
原作:桜沢鈴『義母と娘のブルース』
脚本:森下佳子
音楽:高見優、信澤宣明
演出:平川雄一朗、中前勇児
プロデュース:飯田和孝、中井芳彦、大形美佑葵
※各話、放送後にTVerにて配信
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