『おかえりモネ』第16週「若き者たち」

第80回〈9月3日(金)放送 作:安達奈緒子、演出:梶原登城〉

『おかえりモネ』「どうしたの?」菅波の一言が米津玄師や星野源の歌声に匹敵するほどの威力だった第80回
イラスト/AYAMI
※本文にネタバレを含みます

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いろいろあった末、亮(永瀬廉)たちは地元へ帰って行った。

【レビュー一覧】『おかえりモネ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜第80回掲載中)

百音(清原果耶)がコインランドリーで未知(蒔田彩珠)から送信された菅波(坂口健太郎)との2ショット(サメ展のチケットを持ったもの)を見ていると、菅波がひょっこり現れた。

東京を出て登米の診療に集中しようと考えていると聞いて、百音は思わず菅波の手に触れる。
おずおずと百音と菅波が互いの想いを確かめあう姿にSNSはおおいに沸いた。

きっかけはずんだ餅

同じコインランドリーで、第79回とは正反対のことが起こる。コインランドリーで亮に腕をつかまれ引き寄せられた百音はそれ以上を拒んだ。第80回では、菅波が登米に行くと聞いた百音がつなぎとめるかのように菅波の手にそっと触れる。百音の想いを聞いた菅波は、百音が手を離そうとする刹那、思わず抱きしめる。

「これでも動揺してるんですよ、昨日から」と素直に言う菅波。「受け止めたい」と真摯に百音に伝える菅波。ずんだ餅を渡そうとする百音。唐突に登米の診療に専念すると言い出す菅波。菅波の手に触れる百音の指先の赤ちゃんが親の指を掴むような繊細さ。驚いて丸くなる菅波の瞳。「どうしたの?」とタメ口になる菅波。

ふたりの行為の連なりは主題歌を大きな音でかける効果に勝るとも劣らない。
「どうしたの?」の一言だけでも米津玄師や星野源の歌声に匹敵するほどの威力があった。SNSの盛り上がりを見て、筆者は『まんぷく』の萬平さん(長谷川博己)の「おいで」も思い出した。

『おかえりモネ』「どうしたの?」菅波の一言が米津玄師や星野源の歌声に匹敵するほどの威力だった第80回
写真提供/NHK

「私は、先生が目の前からいなくなっちゃうの、いやだって思ってるんです」の「私は」が低い音でぐっと心の内から想いを押し出す百音。こんな素敵なシーンを見てよかったねえと祝福しながら、亮も百音を抱き寄せたかっただろうに……と胸が疼くことを筆者は止められなかった。亮がそうできなかったのは、自分の弱さを解消したいためだったことに気づいたからであろう。

対して菅波は百音を心から愛しく思っての行為。その違いは大きい。でも亮はちゃんと自覚して抑制することができたから立派である。ああでも「やっぱ食えばよかったな、オムライス」じゃないけれど、逃した魚は大きいというか、もっと早くに素直になっていれば……。でもそれができない理由があって……。

やむにやまれぬ運命のすれ違い。まさに、第73回明日美(恒松祐里)のセリフ「人の気持ちなんか、フワフワしたもんなんだよ。
自分が大好きで、相手も自分のこと好きでいてくれる瞬間なんてね、ホント一瞬しかないんだからね。奇跡だからね……この一瞬を逃したら、次の日にはいろんなことが変わっちゃかもしれないんだよ。それで、変わっちゃったらもう、元には戻らない」が思い出される。たぶん、菅波の手を掴んだ百音もこの言葉がじわじわと効いていたのだと想像する。

亮とのことが百音と菅波にとって、いわゆる「吊り橋効果」になってしまったことに運命の残酷さを痛感せざるを得ない。「吊り橋効果」とは、ふたりで吊橋に乗って揺れを感じていると、その揺れを恋と錯覚する現象である。亮の思いがけない言動に百音も菅波も心が揺れて、それによってお互いへの気持ちも高まってしまった。嫉妬とかではない、と言いつつ気にはしている菅波。

百音は百音で、亮の積極的な行為に接したことで、こんな時どうしたらいいかを身を以て知ったからこそ、菅波の手に触れたのだろう。ずんだ餅があったおかげで、それを菅波に渡すことがふたりが近づくきっかけを作った。悠人(高田彪我)、ナイスアシスト。



「最後までカッコよぐ生きてやりましょうよ」

若者たちは少しだけ前に踏み出した時、大人たちも決意していた。第77回亜哉子(鈴木京香)が「親の私達が本気で明るい顔になってからじゃないとたぶんダメなのよ」と言っていたが、第80回ではサヤカ(夏木マリ)龍己(藤竜也)に「最後までカッコよぐ生きてやりましょうよ」と子どもたちに自分たちができることはもうそれくらいだと鼓舞する。
たしかに夏木マリと藤竜也だとこの言葉が説得力ある。十分カッコいよく、励まされる。

祖父母の世代が子どもたちの苦しみを想い、父母の世代がそのまた子どもたちの世代を想い、みんなが下の世代に想いを寄せている。

『おかえりモネ』「どうしたの?」菅波の一言が米津玄師や星野源の歌声に匹敵するほどの威力だった第80回
写真提供/NHK

なぜ、百音たちは外まで見送りに出ないのか

亮たちが帰っていくとき、百音と明日美はコミュニティスペースでお別れする。外まで、あるいは駅まで見送らないことがちょっと水臭いように感じてしまう。第74回でも亮が帰ると出ていくとき、百音は菅波が来てしまったから行かないとしても、明日美や未知は外まで追いかけて行きそうなもの。

でも仕方ないのだ。汐見湯の中側はスタジオに作ったセットであり、外側を作っていないのであろう。外側を撮るためにはロケをしないとならない。毎日放送していてスケジュールが大変な朝ドラではそんな時間がきっとないのだ。だから築地にも行けないのだ。外側は作っていないが、その分、中は凝っている。百音の部屋には登米の名産・組手什で作った棚があって、百音が登米を忘れていないことを感じる。

(木俣冬)
『おかえりモネ』をさらに楽しむために♪












番組情報

連続テレビ小説『おかえりモネ

2021年5月17日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

出演:清原果耶
内野聖陽 鈴木京香 蒔田彩珠 藤 竜也 竹下景子 永瀬 廉 恒松祐里 前田航基 高田彪我 浅野忠信 夏木マリ 浜野謙太 でんでん 坂口健太郎 平山祐介 塚本晋也 西島秀俊 今田美桜 清水尋也 森田望智 井上 順 高岡早紀 玉置玲央 阿部純子 マイコ 菅原小春
※登場人物のプロフィールやあらすじなど、詳細はこちら

:安達奈緒子
演出:一木正恵 梶原登城 桑野智宏
音楽:高木正勝
主演:清原果耶
語り:竹下景子
主題歌:BUMP OF CHICKEN「なないろ」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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