朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第5週「1946〜1948」

第22回〈11月30日(火)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第22回『小公女』的な没落ヒロイン展開 そこに流れてきた懐かしのあの曲
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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安子、大阪へ

再婚を進められる安子(上白石萌音)を見かねた勇(村上虹郎)が夜中にそっとやって来て、るいとふたりで「朝一番の汽車で岡山を出るんだ」とお金を手渡す。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜22回掲載中)

さっそく旅立つ安子。決断が早い。


「困ったら帰ってくればいい。そのときはわしがおまえをもらってやらあ」と冗談とも本気ともつかない調子で言う勇。そのセリフを受けて、小さく微笑む安子は、すっかり妻として母として、家族を失った者として、多くの経験を礎にして先に進んでいる。

安子がるいと共に消えたことを知り、「孫がさらわれた」と美都里(YOU)が警察に届けると大騒ぎすると、「かあさんのそういう態度がみんなを追い詰めてることがわからんのか」と言いにくいことをきっぱり言う勇。彼自身、相当、追い詰められているのだろう。

順を追うと、まず彼女のメンタルが千吉(段田安則)を追い詰め、それが勇にも及んでいる。家族が家族を大事にしようとすればするほどうまくいかなくなっていく悲劇である。ものすごく温かく結束の固かった橘家とは違ってどこか冷えている雉真家。切ない。

勇は野球も安子も素敵な家族も手に入らない。にもかかわらず、彼は悲壮感を出すことなく耐え続けている。本当に強い人である。
村上虹郎のこの清らかな強さはどこから出てくるのだろう。

ものすごく温かく結束の固かった橘家は戦争でなくなってしまった。安子はるいとふたり、サヴァイブする。「コートをつかんで 帽子をとって 心配ごとは玄関に置いて」と稔(松村北斗)の『オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート』の歌詞の朗読を思い浮かべる安子。

「幸せな君の足音」には第2話の駆ける安子を思い出す。家族に囲まれ、お菓子の匂いに包まれ、あの幸福だった少女時代。こんなふうに『カムカム』を観ていると原風景の大切さを感じる。時間は不可逆で、けして元には戻らず進んでいくしかないけれど、大切なものは置き去りにしないで持ち続けていくことの大切さ。何が人を幸福にするか。その根本は常に持ち続けること。

安子、カムカム英語と出会う

岡山を出た安子は大阪、それも稔が下宿生活を送っていた場所へ向かう。

おしゃべりなおぐら荘の小椋(若井みどり)は健在で、鈴木は結婚したが、相変わらず女性問題を抱えていることをおしゃべりする。安子は小椋から物置を借りる。
「生きるだけで必死やねん。だあれも助けてくれへんで」と小椋は安子に釘を刺す。

婚家を出て、たったひとりで娘のるいを守っていかないといけない日々。ふりかかる困難の数々の中で、小椋のおばちゃんの存在にはくすりとなって、少しだけほっとできた。



「るいを守るためだったらどのようなことも乗り越えるはずじゃ」という勇の期待どおり、安子はお菓子を作って闇市で売ることにする。安く作れるさつまいもの飴を試作する安子。このときのおそるおそる食べたら美味しいという表情の変化が絶妙。戦後の生活のディテールを描く『この世界の片隅に』みたいになってきた。『カムカム』はディテールをしっかりキープしているからこそ時間が早く進んでも安定感がある。

お代を出さない人、落ちて踏まれていく飴、それでも夜なべで支度、育児ストレス、ぐらつく、るいを守り抜く自信、挙げ句にショバ代払えとからまれて……。命からがら逃げた住宅地で家族団らんを見てしまう。『小公女』的な没落ヒロイン展開である。


朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第22回『小公女』的な没落ヒロイン展開 そこに流れてきた懐かしのあの曲
写真提供/NHK

とそこへ、幸福な少女時代に安子が歌っていた「証城寺の狸囃子」のメロディが流れてくる。でも歌詞は英語。それこそがラジオ番組『カムカム英語』のテーマソングだった。

第1話で橘家に初めてラジオが来た時に流れてきた「証城寺の狸囃子」が安子と『カムカム英語』を結びつけるという運命的展開。『カムカム』は人間には必然とか運命とかいうものがあることを描いている。そして必然や運命は一生懸命生きている人の前に流れてくるものなのだ。『カムカム』はそんな物語らしい物語である。やっぱり人間には物語が必要だ。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪



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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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