2026年3月号のHBR(Harvard Business Review)にPeter M. Senge(ピーター・センゲ)氏のインタビューが掲載されていました。このセンゲ氏が「学習する組織(Learning Organization)」を提唱した『第五の規律』(The Fifth Discipline)は、多くの企業のバイブルになっているほどの名著です。
筆者も色々な仕事を行ってきましたが、最近、この「学習する組織」に自分の考えが収束してきたような気がします。

変化が激しく、正解がないVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の頭文字を取ったもの)の時代において、過去の成功体験に固執せず、対処療法ではなく自らを変革し続けられる組織こそが最強の組織になります。ですから、「学習する組織」は、最強の組織のOSになります。
「学習する組織」に必要な5つの規律

まずは、「学習する組織」をおさらいします。センゲ氏は、組織が継続的に高いパフォーマンスを出し続ける(=最強である)ために必要な要素として、次の「5つの規律(The Five Disciplines)」を提唱しています。
○システム思考:

ビジネスにおける構造的相互作用を理解し、全体を見渡す力を養うこと。対処療法ではなく、根本的な課題を解決する。
○ビジョンの共有:

個人と組織のビジョンを整合させ、共通の目標に向かって進むこと。
○自己実現の達成:

メンバーの一人一人が自己を高める意志を持ち、継続的に成長すること。自己マスタリー(個人で仕事を極めていく職人のイメージ)ともいう。
○メンタルモデルの克服:

固定観念を打破し、新しい考え方を受け入れる柔軟性を持つこと。ポイントは、それぞれの宇宙があることを前提に、パーパスや価値観で吸着させること。

○チーム学習の実施:

対話を通じて学び合い、協力して問題解決に取り組むこと。対話(意見の交換)とディスカッション(結論に導く)は違う。

それぞれの規律は、とても奥が深いです。しかし、この規律を実行することで、目標に向けて常に改善が起こる、本当に最強の組織になると考えます。この中でも、システム思考、ビジョンの共有、および、メンタルモデルの克服に、最近はとても力を入れています。
なぜ組織は変われないのか?氷山モデルから読み解く最強の組織づくり

システム思考の一つに「氷山モデル」があります。システムの全体像を氷山にたとえ、私たちが魅惑されがちな「できごと」は海面上につきだしている氷山の一角に過ぎず、海面下の目に見えにくいところに「パターン」「構造」「意識・無意識の前提(メンタル・モデル)」(この順番に氷山の下に深くなる)があるとするフレームワークです。対処療法ではなく、構造やメンタルモデルに働きかけることがレバレッジ・ポイントを叩くことになり、それが結果として最強につながる、というロジックです。

できごとは、過去にさかのぼって、パターンを認識します。そして、パターンを引き起こしている構造を理解します。結局、構造を引き起こしているのは人であり、人の行動は固定概念であるメンタル・モデルで決まります。それは人間である理由でもあり、避けられないことです。


自分のメンタル・モデルを理解して、変革に抵抗しないように、過敏に反応しない、適応範囲を広げない努力をするのです。それは、書籍『なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践』(英治出版)で詳しく説明されています。

また、失敗を学習の機会として捉える心理的安全性が、創造的緊張を維持するためのインフラでもあります。第51回 世界を俯瞰せよ:システム思考で見抜く力を身に着けるを参考にしてください。

ビジョンは極めて大事ですが、あまり理解されていない印象です。言葉遊びみたいなビジョンが散見されます。ビジョンは行きたい先のイメージです。これがない限り、戦略もないのです。ビジョン作りで重要なのは、現実を理解して大きく飛躍させることです。ビジョンと現実の差が、機会であり課題なのです。ビジョンに向かって現実を引き寄せていくことを創造的緊張と言います。その逆はラテン語でいうStatus Quo(現状維持)になります。


ビジョンとそれに向かうロードマップを定義して、ロードマップの最初のステップを次年度の戦略とすると、創造的緊張が働く、引き締まった戦略が立案できます。第59回 ビジョンが組織を動かす! 「Why」から始める未来の描き方を参考にしてください。

筆者は組織を構成する人の進化の可能性を強く信じています。そのようなコンテキストで、「学習する組織」はとても収まりのより考え方なのです。結局、組織を変えるのは、仕組みとともに、一人一人の内省と対話という地道なプロセスに集約されます。

システム思考で構造を捉え、ビジョンで進むべき北極星を指し示す。このOSを実装した組織だけが、変化を脅威と捉えるのではなく、最強の組織になるのだと確信しています。

北川裕康 キタガワヒロヤス 現在は独立して、経営・営業&マーケティングのコンサルティングサービスを上場企業やベンチャー企業、および外資日本法人に提供している。2025年3月末までAI inside株式会社の執行役員CPO(Chief Product Officer)。38年以上にわたりB to BのITビジネスに関わり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Infor、IFS などのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などを歴任。大学は計算機科学を専攻して、富士通とDECにおいてソフトウェア技術者の経験もあり、ITにも精通している。前データサイエンティスト協会理事。
マーケティング、テクノロジー、ビジネス戦略、人材育成に興味をもち、学習して、仕事で実践。書くことが1つの趣味で、連載や寄稿多数あり。 この著者の記事一覧はこちら
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