レビュー

かつて「一流半」と揶揄された伊藤忠商事を「商社三冠」にまで躍進させた男。しかも、一度も海外赴任経験のない異端の革命児。

これが伊藤忠商事の会長を務める岡藤正広氏である。大きな反響を得た日本経済新聞「私の履歴書」に大幅な加筆を行い、書籍化されたのが本書『ひとりの商人』だ。2026年4月に放送されたカンブリア宮殿に岡藤氏が出演したことが話題になったことは記憶に新しい。
岡藤氏の歩みは、「異端のサクセスストーリー」のように映るかもしれない。だが、本書を読むと、その核心はむしろ、劣等感や葛藤、絶望といった感情と向き合い続けた過程にあるのではないかと思えてくるのだ。
驚くことに、若手時代には「使えない」と評価されて苦しんだという。しかし、良き師匠を得て、営業の現場で「商人は水であれ」という姿勢や「マーケット・イン」の発想を身につけていった。転機となるのが、イヴ・サンローランのブランドビジネス成功だ。続いて、ファッション界の大物たちと交渉し、ブランドビジネスの扉を開いていった。その後、岡藤氏は「かけふ(稼ぐ・削る・防ぐ)」という経営原則を見いだし、「商社三冠」の達成という快挙へとつながった。
読者は、こうした試行錯誤や葛藤の中から勝ち筋を見いだしていくさまに、心をつかまれること必至だ。同時に、商社のビジネスの歴史と可能性を存分に味わえることも、本書の魅力である。
自身のキャリアの突破口を探している方にこそ、ぜひ本書をおすすめしたい。

本書の要点

・岡藤氏は、イヴ・サンローランのブランド名を付加した紳士服地ビジネスで主導権を握り、ビジネスの扉を開いた。
・アルマーニ争奪戦では、海外展開における「節税」という相手の関心を突き、アルマーニとの契約を勝ち取った。
・岡藤氏が社長に就任してからは、「かけふ(稼ぐ・削る・防ぐ)」を軸に経営改革を進めたことが、伊藤忠の業績を押し上げることにつながった。



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