【増田俊也 口述クロニクル「茶の間を変えたコメディアン 欽ちゃんのぜ~んぶ話しちゃう!」】#5


 作家・増田俊也氏による連載、各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。待望の第2弾は、「視聴率100%男」として昭和のテレビ界を席巻したコメディアンの萩本欽一氏です。


  ◇  ◇  ◇


増田「やはり萩本さんのなかで、自分の人間性が培われたのは若いころの経験だったという感覚があるんでしょうか」


萩本「そうだね。粋な大人に恵まれた」


増田「中学、高校と家庭のほうで、金銭的にずいぶんご苦労されたらしいですね」


萩本「そうそう」


増田「そういう中で後の萩本さんが出来上がってきているわけですよね」


萩本「そうなんだろうね」


増田「少年時代はどんな感じだったんですか、萩本少年は」


萩本「なんだか知らないけど、小学校行ったら、いきなり級長って」


増田「それは一番成績が良かったからですよね」


萩本「いや、だって最初からよ。1年生で入って『級長は萩本君』って言って」


増田「先生に指名されたわけですね」


萩本「理解できなかった。いきなり級長って言われて。それからずっと級長。あとで聞いた話だと、親父の力があったみたい」


増田「お父さまが?」


萩本「うん。ちょうどそのとき親父の仕事の景気が良かったんで、学校に寄付したみたいなんですよ。全クラスにアルバムとか。カメラ屋だったんで、アルバムとかそういうのを寄付したんだね。それで級長。親父は上の学校へ行ってないんですよ。それでやっぱりもっと成功するには子供たちに勉強させて大学へ行かせたいから、級長にすれば勉強するだろうと思って。

当時、昭和22、23年の頃だから」


増田「まだ旧制ですよね。国民学校」


萩本「いや、もう小学校だったよ。1年生の写真見たら制服を着てるのは4人しかいなかった。俺と、あと3人だけ。だから、勉強できるじゃないの。親父の景気がよかったの」


増田「でも勉強もできた」


萩本「うん。できた」


増田「お母さまが香川県のずいぶん家柄のいい方だったとお聞きしていますが、教育にも熱心だったわけですか」


萩本「そうです。よくご存じですね」


増田「子供時代から萩本さんの大ファンですから」



父がひっくり返った母の一言

萩本「私が寝る時にね。母親が歌うようにね。睦月・如月・弥生・卯月・皐月・早苗月・水無月……つってね。知らねえからさ、真似てそうやってたのよ。子守歌のように。

それで覚えちゃったね、あと甲乙丙丁戊己庚辛壬癸……とかね。何なのって聞いたら『覚えたら得だよ』って。甲乙ってのはよく言うけど、丙丁戊己庚辛壬癸とかってぜんぜん知らないよね。でも何だと思いながら、いろんなことを小学校入る前に子守歌みたいに覚えちゃった」


増田「お母さまは当時、四国で4人しかいないタイピストだったんですってね」


萩本「うん。兄ちゃんに聞いたら『日本で4人しかいないタイピストだったんだぞおまえ』って言うから、母親に聞いたの。そしたら『大きい声じゃ言えないけど、四国で4人だよ』って(笑)」


増田「それでもすごくやっぱり家柄がいいっていうことですよね」


萩本「聞いたら、庄屋の箱入り娘で、親父に言わせると、普通のことを何にも知らなかったんだって。結婚して、親父が仕事終わってうち帰ってきたら暗い電気のところに正座してたっていうんだ。それで『夕ご飯は?』って聞いたら『ご飯はそういう人が炊くんだと思います』って(笑)。『そういう人はいないんですか?』って聞いてきて、親父が俺ひっくり返っちゃったよって」


増田「それは結婚して初めての日に?」


萩本「ええ」


増田「ご飯が炊けなくて」


萩本「で、『洗濯もそういう人がするんでしょ?』って言うんだって(笑)」


増田「考えてみればお父さまとお母さまの結婚は戦前ですからまだ農地解放されてない時代……。つまりお姫さまですよね」


萩本「そう、四国のお姫さまを東京まで連れてきちゃったわけ(笑)」


つづく =火・木曜公開)


▽はぎもと・きんいち 1941年、東京都生まれ。高校卒業後、浅草での修行を経て、66年にコント55号を結成。故・坂上二郎さんとのコンビで一世を風靡した。

その後、タレント、司会者としてテレビ界を席巻し、80年代には週3本の冠番組の視聴率がすべて30%を超え、「視聴率100%男」の異名をとった。社会人野球「茨城ゴールデンゴールズ」の初代監督、2015年には73歳で駒澤大学仏教学部に入学するなど挑戦を続け、25年10月にスタートしたBS日テレ「9階のハギモトさん!」は今年4月からSEASON3に突入した。


▽ますだ・としなり 1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。


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