新しく始まったドラマの役どころが楽しみで、急いでチャンネルを合わせたくなる俳優なんて、そういるものじゃない。松山ケンイチは毎回期待させ、裏切らない。
徹底した役作りで知られるが、この1年でも、冤罪の真相を追う弁護士(クジャクのダンス、誰が見た?)、太宰治(おい、太宰)、発達障害の裁判官(テミスの不確かな法廷)、悪徳刑事に顔を整形する洋菓子店パティシエ(リブート)、最期を看取る療養病棟の医師(お別れホスピタル2)、老舗寿司店の元職人で鮨アカデミーの頑固な講師(時すでにおスシ!?)と、仕事もキャラクターもまったく違うクセ強の役をそれぞれ見事に演じた。NHK大河ドラマの平清盛、朝ドラ「虎に翼」の実在した最高裁長官も、松山だと「なるほど、そんな人物だったんだろうな」と思わせた。
■私生活でもいくつもの顔
なぜ松山がやるとそれらしいのか。本人は「役になろうとか、なりきれるなんて思っていない」と話している。気持ちに余裕がないとステレオタイプの芝居になってしまうので、「こういう表現はありなのかなと、いろいろ試して遊んでいるんです」と笑う。
「松山は役者と農業の2拠点生活で、私生活でもいくつもの自分を持っている。ドラマでも、役のイメージを思い描くときの引き出しがたくさんあって、そこから“これだな”という芝居を見つけるのでしょう」(ドラマ制作プロデューサー)
そのための演技は自分が納得するまで“練習”する。「リブート」のシェフ役では、ケーキにクリームを薄く塗るナッペという作業を習得するために、自分で材料と道具を用意して、何回も失敗しながら練習した。「テミスの」では発達障害のしぐさやしゃべり方を事細かにメモした「ノート」を作ったり、「時すでに」の寿司職人は握り方だけでなく、その時の立ち姿も研究した。
で、これからカメレオン俳優の松山にやらせてみたい役は何か。
「昭和天皇なんてどうでしょう。戦前・戦中は現人神と呼ばれて戦争に利用され、戦後は平和の象徴としての役目を負わされた。
ところで、寿司を握るときの松山の手に注目。長くて白いきれいな指で、寿司が実にうまそうなのだ。
(コラムニスト・海原かみな)

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