【週刊誌からみた「ニッポンの後退」】
君は「ロス疑惑」の三浦和義を覚えているだろうか。
1981年、三浦は最愛の妻を旅行先のロスで何者かに撃たれた“悲劇の夫”としてメディアに登場した。
しかし、84年1月から始まった週刊文春の連載「疑惑の銃弾」が、三浦は妻に多額の保険金(約1億5000万円)をかけて殺した“疑惑”があると報じ、ワイドショーも連日「ロス疑惑」を流し続け、三浦は一転、“希代の殺人魔”として日本中の耳目を集めたのである。
石原裕次郎などを見いだした有名なプロデューサーを叔母に持ち、裕福な家に育ったが、子どもの頃ヤンチャが過ぎて少年刑務所で服役したこと、乱脈な女性関係などが次々に暴かれていった。
だが、三浦は怯むどころか、連日、多くの取材陣に囲まれても弁舌巧みに反論する姿が話題を呼び、週刊誌で人生相談の連載まで始めたのである。
当時、私は月刊誌にいた。ある日突然、一面識もない三浦から電話があった。
「本を出したいから相談にのってくれ」と言われて行くと、家の前は報道陣で埋め尽くされていた。かき分けて家に入り、三浦から十数枚の書きかけの原稿を渡された。
どうという原稿ではなかったが話題性があるから、出せば売れる。書き進めてくれと言って家を出たが、報道陣に取り囲まれた。
社の上の人間に本の話をした。「殺人疑惑のある人間の本を出すのは……」と一顧だにされなかったが、以来、三浦とは時々連絡を取り合うようになった。
三浦のショップ「フルハムロード」の役員で、愛人でもあった白石千鶴子の失踪事件にも関与しているといわれていたが、84年、ロス郊外で発見された身元不明の全裸遺体が白石だと判明した。NHKも全国紙も慌てて報じ始めた。
さらに同年5月、三浦から妻殺しを1500万円で依頼され、金属の塊で殴ったという愛人・矢沢美智子の「衝撃の告白」があった。ついに警察も動き出した。
だが、三浦フィーバーは続く。翌年、三浦のバリ島での「再婚式」は民放テレビが独占中継した。9月11日、三浦が逮捕された時も、衆人環視の中、腰縄に手錠姿の三浦をテレビカメラが映し続け、ショーとなったのである。矢沢も翌日逮捕された。
ここから三浦の父親の依頼で、“無罪請負人”弘中惇一郎弁護士が三浦の弁護を引き受ける。だが、矢沢との「殴打事件」は懲役6年の有罪判決が確定してしまう。
保険金殺人のほうも1審では有罪。だが、決定的な物的証拠はなく、検察が共犯とした大久保某にも「加担する動機」が全くなかったため、私は週刊現代で「2審は逆転無罪になる」と書いた。
最高裁でも「被告人を犯人と認めるには合理的な疑いが残る」と無罪判決。
だが、2008年2月、事務所の旅行でサイパンに行った三浦は、ロス市警に妻殺害と共謀の容疑で逮捕されてしまう。「ロス疑惑」は日米の合同捜査だったのだ。
アメリカには殺人罪の時効もなければ、逮捕状の有効期限もなく、弘中弁護士は、「ロス市警の捜査が終わったという確証はないから、絶対行くな」と言っていた。だが、三浦はサイパンがアメリカの自治領であることを知らなかったという。
ロスへ移送された約17時間後、三浦が留置場で首を吊って亡くなったと発表された。遺書はなく疑惑は残った。享年61。
あれから18年。弘中弁護士は上梓した「三浦和義は真っ白だった!」(宝島社)でこう書いている。
「疑惑を喧伝しまくったメディアによる冤罪であり、疑惑の銃弾ではなく『疑惑の報道』が正しい」とした上で、「三浦和義氏は『真っ白』なのである。
弘中弁護士の言うように真っ白だとは思わないが、三浦のような“波瀾万丈人間”のいない世の中は味気ない。そう思わせる不思議な魅力を持った男であった。 (文中敬称略)
(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)

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