【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#63


 アルバム『ラバー・ソウル』(1965年12月3日発売)④


  ◇  ◇  ◇


■『ミッシェル』


 ポールの『ドライヴ・マイ・カー』に対して、ジョンが『ひとりぼっちのあいつ』で応戦。そしてポールが次に繰り出すのは、この『ミッシェル』である。


 おそらくは、このアルバムの中で、もっとも有名な一曲だろう。そして同じくポールによる『イエスタデイ』と並び称されることも多い曲である。


 いわゆる「名曲」として語られ、さらには(原曲にさらに輪をかけて)甘ったるいムードミュージックにアレンジされて、喫茶店のBGMとしてかかったりする。


 ま、スタンダードというか、昭和の感覚でいう「ポピュラー」という感じの曲といっていい。


 ただ、まだ原石のような『イエスタデイ』に対して、こちらは計算ずくで、甘ったるい世界を作り出している。そんな計算された曲作りという意味で、ソングライター・ポールの成長が現れているのだが、甘ったるい分、私の採点は『イエスタデイ』よりも低い。


 ではどう甘いのか。まずコード進行が「甘~い」。試聴リンク再生時間「0:45」からの「♪(アイ・ウィル)セイ・ジ・オンリー・ワーズ・アイ・ノウ・ザット(ユール・アンダースタンド)」のところのコード進行のとろけるような甘さたるや(俗に「クリシェ」といわれる「甘~い」半音下降進行)。【オリジナル記事で試聴する


 歌詞も「甘~い」。英語が通じないフランス人に対して、愛を告白するという、設定自体が「甘~い」。歌詞にフランス語が使われているのも「甘~い」。

ちなみに歌い出し「♪(ミッシェル)マ・ベル」は「私の恋人」という意味。さらには「愛してる」をしつこく繰り返しているのなんて「甘過ぎる~」。


 そんな甘々な部分が評価されたのだろう。1966年度のグラミー賞でソング・オブ・ザ・イヤーに輝くのだが、個人的には『ドライヴ・マイ・カー』の方に『ミッシェル』の倍ほどの採点を付けたいと思うのである。


 でも──70年代後半にタイムトリップして、当時のNHKFMの「ポピュラー」の番組で聴いたら、いいだろうな。厳しい採点をちょっと「甘~く」水増ししたくなるだろうなぁ。


「というわけで最後は、ビートルズの『ミッシェル』、カーペンターズの『遥かなる影』、ジリオラ・チンクエッティ『雨』、3曲続けてお届けしましょう。NHK『ポピュラーの夕べ』。担当はスージー鈴木でした」


▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966‐2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。

日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。


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