「西島君は本当に真面目な子。初めて会ったときは『芸能界に来ちゃっていいのかしら?』と心配になるくらいでした。

今でも彼の芝居を見ると折り目正しい紳士な感じがしますが、それは彼の内面から出る誠実さ、育ちのよさ、品格ゆえだと思います。

今回の映画『ドライブ・マイ・カー』で冒頭に彼が性的な言葉を言う場面がありますが、彼自身はそんな言葉を絶対に口にしない人。私と共演したときには『女優さんに(性的な言葉を)言わせるのもダメですよ』とも言っていました」

そう語るのは、西島秀俊(51)の本格的な役者デビュー作である、’92年のドラマ『はぐれ刑事純情派パート5』(テレビ朝日系)で共演した女優・岡本麗(70)だ。

西島の主演映画『ドライブ・マイ・カー』は、第94回アカデミー賞で日本映画史上初となる作品賞や監督賞など計4部門にノミネートされ、「国際長編映画賞」を受賞。2009年の「おくりびと」以来となるとなる快挙で、西島もLAでの授賞式に笑顔で参加した。

「同作は西島さん演じる舞台俳優兼演出家が、脚本家の妻を突然亡くしたことから始まります。

主人公は専属ドライバーの女性と車中で過ごすうちに、妻の遺した秘密に向き合っていく……というストーリーで、昨年8月に公開されました。今年2月にアカデミー賞にノミネートされたことで、興行収入が前週の5倍を記録。3月には日本アカデミー賞で最優秀作品賞など、最多の8冠を達成しています」(映画関係者)

最近の西島は絶好調だ。映画でもドラマでも主演作が続いている。

「昨年10月から半年間連ドラ『真犯人フラグ』(日本テレビ系)に主演。その間、主演映画『劇場版 きのう何食べた?』も公開されました。

『真犯人~』は最終回の5日前にクランクアップするほど、タイトなスケジュールでした。並行してほかの映画撮影も入っていたんです」(テレビ局関係者)

■《30代は仕事が少なく悔しい思いをした》

もはや“無双状態”といえる西島。振り返れば、デビュー時から着実に知名度を上げてきた。デビュー作である『はぐれ刑事』では藤田まことさん(享年76)演じる主人公・安浦刑事らに交じり、新人刑事として登場。松田聖子(60)主演の『わたしってブスだったの?』(’93年)では、カメラマン助手役として聖子とラブシーンを演じて話題に。そして同年の月9『あすなろ白書』(フジテレビ系)でブレークを果たす。

「西島さんが演じたのは、女性にモテモテの御曹司でありながら筒井道隆さん演じる大学生・掛居に密かに恋心を抱く役でした。“報われない恋”に苦悩する難役を演じ切り、早くも演技派俳優として頭角を現したのです」(テレビウオッチャー・桧山珠美氏)

一躍脚光を浴びた西島。このまま順風満帆に進むと思いきや、一転、試練の道を歩むことに――。

「当時の西島さんは大手芸能事務所に所属していましたが、演技力で勝負したい西島さんと、“イケメン俳優路線”で売ろうとした所属事務所との方向性の違いが表面化。その結果、彼は’97年に現在の事務所に移籍しました。その“移籍条件”が『民放ドラマ5年間出演NG』だったと伝えられています。

そのため西島さんは華やかなテレビドラマから離れ、小劇場や自主作品映画に出演していました」(テレビ局関係者)

自らの固い信念によって、俳優活動が制限されることに。20代後半の西島には焦りもあったはずだが、彼はこう回想している。

《20代、30代は仕事のない時期が長かったので、今は仕事があることが幸せで楽しくて仕方がない。現場が一番好きです。仕事がない頃には、毎日映画館へ行っていました。当時、黒沢清監督が映画館で3,000本以上観ているとおっしゃっていて。

3,000本観るには、1日1本観ても10年近くかかる。今すぐ始めようと思いました》(『marie clarie』WEB 21.8.26)

一時は“引退危機”に瀕した彼が選んだ道は“映画館にひきこもること”だったのだ。

「映画を観るうちに自分を見つめ直す機会も増えたそうです。回り道をしたことで人間性も磨かれたといいます。西島さんは今では“周囲に気づかいのできる人”と業界でも評判です。『きのう何食べた?』の現場では、スタッフが用意した大量の食材をなるべく残さないように撮影後にも食べていました。

また、西島さんは現場の風通しをよくするため、年下の共演者に『ひで坊って呼んで!』と声をかけるんです。“いい現場作り”に意欲的なんです」(制作関係者)

■「本業を、ゆっくりと」藤田さんから手渡された色紙

さらにもう一つ、彼の下積み時代を支えていたものがある。それは『はぐれ刑事』現場で主演の藤田さん直々に授かった“教え”だ。

西島は雑誌『GINGER』’21年1月号で、《一生忘れられない言葉》として、藤田さんから教わった「本業を、ゆっくりと」という言葉を紹介している。藤田さんから色紙に書いて渡された言葉だといい、西島はこう語っている。

《役者人生は決してスムーズではありませんでした。特に30代は仕事が少なく、悔しい思いをしたこともありました。でもだからこそ、あのとき『本業を、ゆっくりと』と言われたことが、どれだけ支えになったことか》

西島は初出演ドラマの座長である藤田さんのことを、心の底から尊敬していたようだ。

「藤田さんは現場で台本をたびたび変えていました。『5分で覚えて』と言われ、西島さんはしがみつくように必死に取り組んでいましたね。西島さんがいい演技をしたら、藤田さんは『よかったで! 秀ちゃん、メシ食いに行こ』と誘ってくれたといいます。大先輩の気さくな優しさが、西島さんはとてもうれしかったそうです」(番組関係者)

前出の岡本麗もこう証言する。

「藤田さんは未来ある若者を応援していました。西島君に何かをつかんで、伸びていってほしいという気持ちがあったんだと思います。役者の大先輩である藤田さんと接するとき、西島君はいつも緊張していました。でもいまや主演作が日本映画で初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされたわけですから。天国の藤田さんも本当に喜んでいると思います」

今回のアカデミー賞「国際長編映画賞」受賞で国外でも大きな注目を集めた西島。50代にして、未到の道へのドライブがまた始まる――。