「自分の血液から、こんなに高い濃度の発がん性物質が検出されるなんて……」

そう驚くのは、東京都国分寺市在住の竹内和子さん(仮名・67)。竹内さんが語る発がん性物質とは、有機フッ素化合物(以下、PFAS)のこと。

水や油をはじく作用があり、フライパンのコーティングや撥水加工された衣類などに多用されている化学物質で、約4千700種類あり、代表的なものにPFOA、PFOSがある。

PFASは自然界で分解されにくいため“永遠に残る化学物質”とも呼ばれ、長期間摂取することで発がんリスクがあるという。歯磨き粉などに配合されている“フッ素”とは異なる。

米軍基地などで使用されている泡消火剤にも含まれており、米軍基地の多い沖縄県や、横田基地(東京都福生市)を抱える多摩地区は、かねて河川や地下水、水道水などから国の暫定基準値(PFOAとPFOSの合計が50ng/l)を超えるPFASが検出され、問題になっていた。

昨年末、多摩地区の有志が住民87人の血液検査を実施。すると、前出の竹内さん含め74人の血液から、アメリカが定める血中濃度の指標(20ng/ml)を超える値が検出されたのだ。

住民らの値は、一般の人の血中PFAS濃度に比べ、3~4倍高かった。

「国分寺市は、井戸水を水道水に引いています。近所には、遠方からもくみに来るほど“名水”と呼ばれる湧き水もあって、私も時々、その水でお茶やコーヒーをいれて飲んでいました」(竹内さん)

現在多摩地区では、基準を超える恐れがある11の浄水施設で井戸からの取水を中止している。

実は、1月24日、このような河川や地下水のPFAS汚染が全国的なものであることが判明した。環境省の発表によると、全国13都府県の河川や地下水など81地点で、国の基準値を超えていたのだ。さらに、県独自の調査を行った沖縄県でも、33地点の汚染が判明している。

住民らと共に血液調査を行っている京都大学(環境衛生学)准教授の原田浩二さんは「大勢の住民が長期間にわたって摂取する水源が汚染されると、その影響は広範囲に及ぶ」と指摘する。

「今回公開された81地点は、あくまでも河川や地下水からPFASが検出されただけで、水道水に含まれる量ではありません。ただし、なんらかの汚染源があるということですから注意は必要です」

さらに多摩地区や沖縄県以外にも「水道水からも高いレベルのPFASが検出されている場所がある」という。

「明らかになっているところでは、愛知県豊山町、北名古屋市は2年前、国の目標値を超える汚染が見つかり取水場所を変更しています。ただし、これまでずっと汚染された水道水を使っていたわけですから、その影響は残っていると思います。兵庫県明石市も水道水の水源自体が汚染されている場所があって、’25年までに取水場所を変更するなどの対策を取るようです」

浄水場では、PFASなどの有害物質を除去するために、活性炭でろ過するなどの処理を行っているという。

「ただし、活性炭の効果は3年程度で、経年により効果も薄くなっていきます。そのうえ活性炭に吸着したものが出てしまうということもあるので、汚染源自体を突き止めて除去する必要があるのです」

つまり、河川や地下水からPFASが検出されている地域は、現在、水道水から検出されていなくても注意が必要というわけだ。

■蛇口に活性炭フィルター取り付けて自衛を

「問題は、水道水のPFAS調査は義務ではないこと。調査していない自治体の場合、汚染に気づいていない可能性もあります。また、水源だけでなく農地なども汚染されている可能性があるので、食物を通して摂取してしまうことになりかねません」

PFASは自然界に存在しない物質なので、工場や廃棄物処理場、米軍基地など、なんらかの形でPFASを使用している施設が汚染源となっている可能性が高い。すでにアメリカでは、米軍や企業が市民から訴えられるケースが続出している。

「アメリカではコレステロール値が高くなる脂質異常症や、甲状腺疾患、子どもの低出生体重、腎臓がんなどが懸念されています。これらの健康被害が生じる可能性があるとわかったのも、PFASを使用していたデュポン社が’02年に、オハイオ州の住民から集団訴訟を起こされたのがきっかけでした」

実際に、最新の研究ではPFASを摂取した人では腎臓がんのリスクは2倍以上高まることが明らかになっている。

一刻も早く改善策を打ち出すべきだが、10年以上前から規制が進んでいる欧米と比べて日本政府の対応は鈍い。

「欧米では、’10年ごろには暫定的な目標値が定められていましたし、アメリカでは、飲料水だけでなく土壌を含めて農産物に対するモニタリング支援を行っています。一方日本は、海外での規制強化を受けて、今年1月からようやく専門家会議などで数値目標の“検討”が始まったばかりなんです」

規制する方向に進んでも、「日本の場合、米軍基地周辺の汚染源の特定や除染が極めてむずかしい」と指摘するのは、元・陸上自衛隊員の井筒高雄さん。

「米軍は、自国だけでなく、ドイツや韓国、ベルギーなどの在留米軍基地周辺の住民からもPFASの被害で訴えられています。

米軍は、それぞれの国の規制に従って除染を進めていますが、日本の場合は日米地位協定という“不平等条約”があるせいで、除染どころか米軍基地内の汚染の調査すら十分に行われていないのが実情です」

前出の原田さんいわく「自宅の蛇口に安価な活性炭フィルターを付けるだけで、おおよそのPFASは取り除ける」という。活性炭フィルターは安価なものでも効果がある。汚染が発覚した地域では「高価な浄水器」の売り込みも行われているので注意が必要だ。

【解説】汚染水が検出された114地点

発がん性物質PFASによる水汚染が全国で…危ない街は114カ...の画像はこちら >>