5月12日に都内で「第1回映画館大賞」の授賞式が行われ、吉沢亮(32)主演の『国宝』(’25年6月公開)が初代大賞に輝いた。

「多くの方に映画館へ足を運んでほしい」という願いから、創設された同賞。

’25年公開の988作品と’26年公開予定の162作品を対象に、全国3000名を超える映画館スタッフの投票による受賞作品が発表された。ところが一部映画ファンの間では、受賞作品の選考基準などに賛否が巻き起こっているのだ。

今回の受賞作品は7部門から発表された。まず、’25年上映の作品を対象とした4部門に、「映画館でこそ観るべき!」として日本映画部門、外国映画部門、アニメ映画部門が。加えて、「もっとひろがれ!掘り出し映画部門」も設けられた。

上記4部門でそれぞれ1位に選ばれたのは、『国宝』、『ウィキッド ふたりの魔女』(’25年3月公開)、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(’25年7月公開)、『罪人たち』(’25年6月公開)。そのなかから大賞に選ばれたのが、「第49回日本アカデミー賞」でも最優秀作品賞に輝いた『国宝』だった。

このほか、これから上映が予定されている作品を対象に、「映画館スタッフイチオシ」として日本映画部門、外国映画部門の受賞作品も発表。それぞれ1位には、公開前から話題を呼んでいた『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』(’26年4月公開)、『プラダを着た悪魔2』(’26年5月公開)が選出された。

これらの結果は、同賞の公式サイトおよびX公式アカウントでも発表された。さらに授賞式当日は、受賞作品を速報形式で伝えたXの投稿も話題に。『国宝』が大賞に輝いたことが伝えられた際には、大賞および各部門の上位3位にランクインした受賞作品をまとめた画像も添えられていた。

しかし、受賞結果をまとめた画像を見た一部ユーザーからは、《わざわざ推さなくてもみんな知ってる映画を挙げる必要がわからない》《売れてる映画ランキングとなんの差もなく審査の必要性が0に感じるね》と否定的な声が。

また、「映画館でこそ観るべき!」と銘打たれた受賞作品のなかには、すでに上映が終了している作品もあり、《映画館でこそ観るべき、って上映終わってる作品はどうしたらいいんすかね(笑)》と指摘する声もあった。

なかでも目立っていたのは、「映画館スタッフイチオシ」の部門に対する異論だ。日本映画部門、外国映画部門の3位には、それぞれ公開前である『ゴジラ-0.0』(’26年11月公開予定)や『トイ・ストーリー5』(’26年7月公開予定)が選出されていたことから、こんな声が上がっていたのだ。

《トイストーリー5という未だ公開して無い作品をどう評価したの?》
《一般人はまだ観れない今年7月公開の映画が入ってるけど、どうしたらそんな評価になるんだ?》(《》内はすべて原文ママ)

公式サイトでは「映画館スタッフイチオシ」部門について、《2026年4月1日(水)以降に上映予定》と補足が記されていたものの、Xに投稿された画像では記載がなかったこともあり混乱が広がったものと思われる。

■Xに掲載された画像に「はっきり言って下手な発表の仕方だった」と識者も指摘

全国の書店員が投票する「本屋大賞」の映画版ともいえる「映画館大賞」だが、困惑が広がってしまったのはなぜだろうか? 同賞が波紋を呼んでしまった原因や今後改善すべき課題などについて、映画ライターのヒナタカさんに分析してもらった(以下、カッコ内はヒナタカさん)。

「個人的には、ある程度は“妥当”な結果だとも思います。映画館のスタッフは正社員だけでなく、アルバイトやパートタイマーの方も多いですし、みんながみんな、“月に何本も映画を観る”“知る人ぞ知る名作を積極的に観る”映画ファンではありません。3000名を超えるスタッフから投票を募れば、やはり単純に“観ることができた”作品に票が集まるのは当然のことではないでしょうか。

一方で、今はごく一部の国民的なコンテンツの映画に観客が殺到し、中小規模やオリジナルの作品が苦戦する“二極化”が進んでいて、特に『名探偵コナン』や『鬼滅の刃』は“まるで時刻表”と喩えられるほどに映画館のスクリーンを“寡占”したことが話題になりました。

だからこそ、“もっと他にも、多くの人に知られないまま、上映終了してしまった名作はあるのに”という映画ファンの心情も無理からぬことですし、その“寡占”のために映画館のスタッフの多くもまたごく一部の映画しか観ていないことが、この結果につながったといえます」

いっぽう超大ヒットではなかったものの、『フロントライン』(’25年6月公開)や『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(’25年1月公開)といった一部映画ファンから強い支持を得た作品も選出されており、評価すべきところもあったという。それだけに、Xでの発表方法は裏目に出てしまったようだ。

ヒナタカさんは「失敗したと思えるのは、受賞結果をX公式アカウントで、“各部門の3位までを1枚の画像で一挙に発表した”ことではないでしょうか」と指摘した上で、こう続ける。

「各部門の3位までの結果を見て、“売れている映画を並べているだけ”と判断されてしまうのはもったいないのですが、実際にそう見えてしまう、はっきり言って下手な発表の仕方だったと思います。

さらに、明確によくなかったと指摘したいのは、『映画館スタッフイチオシ(日本映画部門&外国映画部門)』という名称を使った部門です。公式サイトには『2026年4月1日(水)以降に上映予定』『これから上映される作品を対象にした2部門』と明記されており、そもそもスタッフが未見であることを前提にした賞なんです。

だからこそ、たとえば『期待作』といった意図がわかりやすい表記にするべきだったでしょう。イチオシという“推す理由がある”と思わせる名称を使ってしまっては、“なんで観ていない作品に投票しているんだ”という声があがるのも当たり前だと思います」

いっぽう「映画館大賞」と「本屋大賞」は、“全国で働くスタッフの投票によって決まる”という点で共通するが、双方にはどのような相違点があるだろうか?

「明確に異なるのは、『本屋大賞』は発表時に対象となった本を店頭に置くことで売り上げにダイレクトに繋げられる一方で、『映画館大賞』は“ランキング発表時にはすでに上映が終わっている”作品がほとんどであることです。

つまり、“すでに上映終了後の作品をあげても映画館側にうまみがない”からこそ、『映画館大賞』では“選ばれた作品を映画館で再上映する”という取り組みがされています。実際に『国宝』『鬼滅の刃』『罪人たち』『ウィキッド ふたりの魔女』が、4週連続で再上映されることが決定しました。

また、実際は『期待作』である『イチオシ』部門も、これから先の映画館の売り上げに繋げるために必要なものだったと理解できます。それらは『本屋大賞』とは異なるアプローチと言えるでしょう」

■映画ファンに愛される賞として成長していくため、改善が求められる「課題」

波紋を呼んだ「映画館大賞」だが、同賞の公式サイトでは《映画館への来場促進、および映画文化のさらなる活性化を目的とし、映画業界全体をあげて取り組み、創設しました》とも掲げている。今後、映画ファンに愛される賞として成長していくためには、どのような点が課題として挙げられるだろうか?

「まずは『イチオシ』という部門名を変更して、“観ていない作品に投票している”誤解を解かなければならないでしょう。実際は『期待作』と言える作品の選定基準も、もっと大きく明記しておくべきだと思います。

また、投票対象が’25年公開の988作品と、’26年公開予定の162作品ととても広いために、より中小規模の作品に注目が集まりにくかったのではないでしょうか。まずは本家アカデミー賞のように、前もって数作品をピックアップした『ノミネート作品』を発表しておくのも1つの手かもしれません。

何より、今回の最大の問題は、前述した通り各部門の3位までを1枚の画像で一挙に発表したことです。SNSでは1つ1つの投稿のごく凝縮された情報から全てを受け取ることが当たり前ですから、例えば各部門の10位からランキング形式で段階的に発表する、部門ごとに10位まで1枚の画像で掲載するなどの工夫が必要だったでしょう。少なくとも、“公式サイトで見ればわかる”という言い訳は通用しないと思います」

とはいえ、受賞作品を再上映するなど評価すべき取り組みもあることから、映画ファンに支持される希望は十分にあるという。

「やはり『国宝』や『鬼滅の刃』など“すでに売れている作品ばかり”と批判が寄せられるほど、“もう多くの人が映画館で観ている”と言える作品が選ばれるのは当然とも言える一方、やはり“もっと映画館で観てほしい作品はあるのに”と映画ファンの1人である筆者も思ってしまいます。

だからこそ選定基準を見直すなどして、多くの人が知らない名作にもスポットライトが当たるようになってほしいです。その上で、授賞式での東宝株式会社の代表取締役社長・松岡宏泰氏からの『20~30年後の映画界を支えてもらうためにも、至らない部分があっても長期的な視点で応援してもらいたいです』という言葉通り、賞そのものを長い目で応援したいとも思います。

今回の受賞結果に多くの批判が集まったことで、より投票する側も“知られざる優れた作品を応援する”という意識も働くかもしれない、という希望もある程度は持てるでしょう」

賛否が巻き起こったのも、高い関心が寄せられているからこそ。映画ファンに愛されるよう、ブラッシュアップされることを願いたい。

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