ネット上に大量拡散している野党や政権批判メディアを攻撃するデマやフェイク情報。そのかなりの部分が、官邸や自民党周辺の人脈から出ているのではないか、との観測が根強くあったが、ここにきて、それを裏付けるような話が浮上した。



 問題になっているのは「政治知新」なるネトウヨ向けサイトだ。沖縄県知事のさなか、玉城デニー沖縄県知事の大麻吸引というデマを流したのをはじめ、フェイクやデマを交えてしょっちゅう野党や政権批判者を攻撃している一部では有名なサイトだが、先日、その運営者が菅義偉官房長官の息のかかった自民党神奈川県議の弟であるとの疑惑が持ち上がったのである。しかも、その運営者とされる本人はなんと、4月13日に開催された安倍首相主催の「桜を見る会」に招待されていたという。

 この疑惑が浮上したのは、「政治知新」が11日に〈共産党の吉良よし子参議院議員に「地方の大学教授」との不倫疑惑が複数報じられる〉なるデマ記事を出したことがきっかけだった。

 記事では、くだんのタイトルのバックに吉良議員が男性とキスをしている写真を掲載、〈そんな中、彼女の不倫の噂を指摘するブログや報道があった〉などとし、「不倫相手は、大学の准教授だそうです」と無根拠に書いているブログと、「実話ナックルズ」のウェブ版「覚醒ナックルズ」(大洋図書)が“吉良議員と地方の大学教授のツーショット写真を週刊誌が撮っているとの情報がある”と報じた記事を「引用」。そのうえで、〈あれだけ安倍総理にモリカケという根拠のない事案で迫っていたのだから、ご本人も説明いただきたいものだ〉などと書いている。

 しかし、これは完全なデマだった。そもそも、掲載した吉良議員が男性とキスをしている写真は2014年3月に「週刊新潮」(新潮社)が報じたものだが、相手は吉良議員の結婚相手。不倫でもなんでもない。本文にはそのことをさりげなく書いているが、あたかも不倫写真のように印象操作していた。しかも、その不倫情報にしても、元ネタの「覚醒ナックルズ」は、記事の後半で〈その吉良議員の疑惑には政治的な思惑が垣間見える〉と続け、政治部記者による「ある政界関係者が噂の出処を探ったところ、内閣情報調査室だったのです」などのコメントを掲載しているのだが、「政治知新」はその部分をまったく引用していない。どう考えても恣意的であり、印象操作とデマで吉良議員をネガキャンしているのは明らかだろう。


 実際、「政治知新」の記事が配信された翌日12日、吉良議員はTwitterでこれを完全否定し、強い調子で抗議した。

〈私のことを誹謗中傷するサイトが拡散されています。
その内容は、すべて事実無根です。にもかかわらず、まるで事実であるかのように、拡散されていることは、重大な名誉毀損であり、絶対に許せません。
こうした行為を厳につつしむよう、強く求めます。〉

 さらに、日本共産党公式Twitterも吉良議員に続いて、〈日本共産党として法的措置を検討します〉と投稿。こうした抗議を受けて「政治知新」は程なく記事を削除、自らデマを認める形になった。

 しかし、問題はこれでは終わらなかった。デマに対する抗議と同時進行するかたちで、ネット上では、この「政治知新」の運営者の正体を暴く動きが始まったのだ。

●野党攻撃のネトウヨサイトと自民党の関係が次々明らかに

 まず、サイト「政治知新」のドメイン情報から、登録されている運営者名がT・Tなる人物であることが判明。その住所や携帯電話番号、Eメールアドレスなどが明らかになる。さらにこの人物のFacebookが見つかったのだが、そのなかにはこんな投稿がなされていた。


〈兄が出馬するので是非、ご支援の輪をお願いします。横浜市瀬谷区から神奈川県議会議員選挙に挑戦する「田村 ゆうすけ」34歳です。〉

 この「田村 ゆうすけ」というのは、今月7日の統一地方選で当選した神奈川の田村雄介県議(横浜市瀬谷区)。2回目の当選となった田村議員は、自民党神奈川県連遊説局次長などを歴任。地元の横浜市といえば菅義偉官房長官のお膝元で、田村議員のHPには、「推薦者」として菅官房長官の応援メッセージとツーショット写真が掲載されている。

 また、田村議員とT氏が同じ会社を経営していたことを指摘する声もあった。横浜に本社を置くT社(現在は破産)という会社の謄本がネット上にあげられたのである。本サイトも同社の登記簿をあらためて確認したが、それによると、まず田村議員が代表取締役に就任したあと、2014年にT氏が引き継ぐ形で代表取締役に就任していた。ちなみに、このT社の設立目的の欄には、「インターネットのホームページの企画制作」などに並んで、「無店舗型特殊風俗営業」という項目もあった。

 いずれにしても、こうした事実が次々にネット上にアップされたことで、吉良議員に悪質なデマ攻撃を加えていた「政治知新」に、自民党県議の田村議員の弟が関与していることが確定的になってしまったのだ。

 しかも、T氏のFacebookではもうひとつ驚愕の事実が明らかになった。3月15日、自らのFacebookに〈安倍総理の桜を見る会にご招待いただきました。
ご案内いただいた関係者の方々には心より感謝です。〉の文言とともに、安倍首相主催の「桜を見る会」の招待状と、自分の名前が印字された封筒の画像をアップしていたのだ。T氏は自民党県議の弟というだけでなく、本人が「桜を見る会」の招待状をもらうほどに安倍政権と近い存在だったということなのだろうか。

●疑惑のT氏が代表を務める会社の担当者は本サイトの取材に…

 しかし、このネット有志による調査が盛んになると、前述したように、まず、「政治知新」の吉良よしこ議員の記事が削除され、続いてT氏個人のFacebook投稿などが次々に消されていった。また、現在では「政治知新」のドメイン情報も書き換えられている。

 本サイトは、13日、当初のドメイン情報に記されていた携帯電話の番号にかけてみたが、すでに使用されていない状態になっていた。

 そこで15日、T氏に取材を申し込むため、現在、T氏が代表を務めるMという会社に連絡をした。登記簿によるとM社は2017年8月設立。目的には〈インターネットホームページの企画、立案、制作、管理、運営〉などとある。実は、このM社についてもネット有志の検証のなかで名前が浮上していたのだが、騒動のなかで、ホームページに記載されていた代表・T氏の名前がいつの間にか消されていた。

 しかし、T氏はやはりM社の代表だったようだ。「T氏は忙しい」との理由で取材はかなわなかったが、かわって「担当として一任されている」というM社の社員が取材に応じた。
担当者は、T氏が田村議員の弟であるという事実を認めた。現在、ネット上でM社の存在が取りざたされているのは承知しているという。サイト「政治知新」やM社の事業内容について直撃すると、担当者はこのように回答した。

「私どもの会社はWEB制作会社ですから、具体的にお答えすることは差し控えます。事業内容につきましては、内部事情になりますのでお答えできません。他のクライアントへのご迷惑になりかねませんので、(「政治知新」について)知っているかどうかも含めてお答えできない。一般論として、WEB制作会社があるサイトのドメインを代理で取得することはあります」

 他にも、M社と自民党との関係などについても質したが、担当者は「自民党との関係は一切ない」「田村議員は弊社に関係していない」と繰り返すのみ。T氏と田村議員がともに代表取締役を務めたT社についても「過去の会社ですのでお答えすることはございません。M社との関連もありません」との回答だった。最後に、ネット上でM社の名前があげられていることにかんして、反論やコメントしたいことはあるかと尋ねたが、やはり「会社としてコメントすることはありません」の一点張りだった。

●兄の自民党県議にも直撃! 経営していた会社の「特殊風俗営業」とは何か?の質問に…

 T 氏の兄である田村雄介県議にも事務所を通じて取材を申しこんだところ、15日午後に、田村議員から直接電話があった。

「弟がWEB関連の会社をしていて、政治家のサイトなどをやっているということは聞いていますが、『政治知新』というサイト自体、僕は今回初めて聞いたわけですから知りようがありませんよ。
(ネット上で疑惑が浮上していることについては)僕はある意味、被害者だと思っています。だって『兄弟で共謀した』みたいに言われているわけでしょう。そんな事実はないわけですから。自民党の関与? 100パーセントないです」(田村議員)

 サイト「政治知新」については「知らなかった」「関係ない」と断言した田村議員。弟のT氏に何らかの政治的な話を書いてくれ等の依頼をしたことも「ない」という。一方、かつて田村県議が代表取締役をしていたT社の登記簿の目的に「無店舗型風俗特殊営業」との記載があったことについて「何をやっていたのか」尋ねると、言葉を詰まらせながらこう言うのだった。

「あの、これは答える義務はないでしょう……。もう閉鎖された会社ですから」

●政権批判者叩きのフェイクニュースと安倍政権、自民党との関係

 しかし、関係者が知らぬ存ぜぬを決め込んだとしても、T氏がデマ拡散のサイトに関与したという事実は隠しようがない。改めて説明しておくが、「政治知新」がデマ攻撃を仕掛けたのは今回の吉良議員だけではなかった。前述した玉城デニー知事や辻元清美議員などの野党系政治家、青木理氏、望月衣塑子氏、香山リカ氏、伊藤詩織氏などの政権批判的なジャーナリスト・言論人に対しても、デマを交えた攻撃を繰り返してきた。そして、高須クリニックの高須克弥院長や石平太郎氏など右派系のインフルエンサーをはじめ『報道ステーション』コメンテーターを務める野村修也氏までもこのサイトの情報をRTして拡散するということが繰り返されてきた。

 そして、この政権批判者叩きのサイトのドメイン情報に名前を連ねていた人物が、菅官房長官の覚えめでたい自民党県議の弟で、しかも、安倍首相の「桜を見る会」に招待されていたのだ。
これでは、「政治知新」の活動にそもそも自民党の意向が強く働いていると疑われても仕方がないだろう。

 自民党と“ネトウヨ系サイト”や“野党バッシングデマのフェイクニュース”をめぐっては、これまでもただならぬ関係性が浮かび上がっていた。たとえば、自民党が下野時に組織したネット別働隊・J-NSC(自民党ネットサポーターズクラブ、通称ネトサポ)に関しては、会員を自称するTwitterアカウントやブログがヘイトデマを撒き散らしていたことが確認済みだ。田村議員の兄弟・T氏をめぐっては、この「政治知新」に加えて「主婦」などを名乗って、複数のブログを運営していたとの疑惑も浮上している。これもまた、野党へのネガキャンを書き連ねたものだ。

 先に触れた「覚醒ナックルズ」の記事も指摘していたように、内閣情報調査室(内調)の関与も疑うべきだろう。週刊誌に掲載される野党議員のスキャンダルには、内調のリークによるものが少なくないというのはもはや公然の秘密だ。

 そして、今回の「政治知新」に浮かび上がった自民党・安倍政権とのただならぬ接点。ネットに拡散し続ける政権批判者攻撃やリベラル叩きは、わたしたちが想像している以上に政権や自民党が深く関わっているのではないか。
(編集部)

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