首相官邸ホームページより


 安倍政権が引き起こした問題が、天皇の代替わりを利用して帳消しになされてしまうのか──。政府がいま、天皇の代替わりに合わせて国家公務員の懲戒処分の免除をおこなうことの検討に入っており、なんと佐川宣寿・元国税庁長官の減給処分も免除される可能性があると、毎日新聞が伝えたからだ。


 
 記事によると、1989年2月の昭和天皇の「大喪の礼」の際におこなわれた国家公務員の処分免除では、〈懲戒処分(免職・停職・減給・戒告)のうち、減給か戒告の処分者が免除対象〉になった。また〈退職後でも「名誉回復」の意味合いで適用〉された。そして、いま政府内では「前例踏襲が妥当」という意見が出ているという。

 この前例を踏襲すれば、森友問題における佐川氏の「減給20%3カ月」の処分や財務省幹部に対する減給・戒告処分、さらには、裁量労働制をめぐって発覚した厚労省のデータ隠し・捏造問題や、防衛省のイラク日報問題で減給・戒告処分を受けた官僚たちも免除される可能性があるというのだ。

 以前から、この天皇代替わりに際する恩赦・免除について、官僚の恩赦の扱いが論議の的になっていたが、安倍政権下の不正・忖度官僚を恩赦することはあまりに露骨であるため「さすがにそれはしないだろう」と見られていた。実際、今年4月にこの問題を取り上げた「週刊朝日オンライン」の取材に対し、社会学者の鈴木洋仁氏は「政府が今回の改元を利用して、自分たちの味方を優遇したと捉えられるのは避けたいところでしょう。

佐川氏の懲戒処分の免除は現実的に難しいと思います」と見解を述べている。

 ところが、政府はいま、「前例踏襲」という建前で、「安倍政権が引き起こした問題で泥を被った忖度官僚たちの復権」をあからさまに強行しようとしているのである。

 しかも、恩赦については、まだ「見通し」というレベルだが、 森友疑惑での官僚の復権は、もっと具体的に進んでいるケースもある。

 16日付けの人事では、森友学園問題のキーパーソンである財務省の中村稔官房参事官を外務省に出向、駐英公使に充てると発表された。

 中村氏といえば、森友文書改ざん時には理財局総務課長だったのだが、財務省の調査報告書でも〈理財局長(註:佐川宣寿氏)に最も近い立場にあって、本省理財局内及び近畿財務局に方針を伝達するなど、中核的な役割を担っていた〉と認定された人物。昨年6月に停職1カ月の処分が下され、同年7月の人事で理財局を離れ官房参事官のポストに就いていた。

 中核的な役割を担ったと認定されながら停職1カ月という大甘な処分に終わったことも異常だったが、ここにきてイギリス公使に栄転させる──これは安倍昭恵夫人付きの秘書だった経産省の谷査恵子氏を、在イタリア大使館の1等書記官へと“栄転”させ口封じしたのと同じ構図だ。

 しかも、今回栄転が決まったのは、今月9日に大阪地検特捜部が再び佐川氏や中村氏を不起訴処分とし捜査が終結したことから、〈海外に赴任させても支障はないと判断〉(毎日新聞16日付)したのだという。

 今年3月、大阪第一検察審査会が「不起訴不当」と議決した際にも、本サイトでは「再捜査で起訴となる可能性はゼロ」と伝えたが、それが現実となり、その上、捜査終結を理由にして“高飛び”させるとは……。

 しかし、それも当然なのかもしれない。というのも、中村氏は、森友文書改ざんの「中核的役割」どころか、改ざんの官邸関与に深くかかわっていたとみられるからだ。

 そもそも財務省調査報告書では、安倍首相が2017年2月17日の衆院予算委員会で「私や妻が関係していたら総理大臣も国会議員も辞める」と宣言したことを受け、中村氏が昭恵氏の名前が入った文書があるかどうか確認するように田村嘉啓・国有財産審理室長(当時)らに指示、佐川氏に報告をおこなった上で、2月下旬から改ざんがはじまったとしている。

 だが、重要なのは、同月22日に官邸でおこなわれた面談の事実だ。この日、菅義偉官房長官は官邸に佐川理財局長や太田充・大臣官房総括審議官(現・理財局長)らを呼び付け、昭恵夫人付き秘書である谷氏や政治家から照会があったことなどの説明を受けたのだが、この席には理財局総務課長として中村氏も同席していたのである。

 2月20日の時点で、理財局職員は森友側に嘘の説明をするよう迫ったり、佐川氏が籠池泰典氏に弁護士を通じて“身を隠せ”と指示するなど、具体的な隠蔽工作がはじまっていたこともわかっている。この動きのすばやさを考えれば、中村氏が昭恵氏の名前が決裁文書に出てくることを、安倍首相の「辞める」発言の直後には掴んでいたのはまず間違いない。つまり、この面談で、菅官房長官から決裁文書の扱いについて、改ざんの指示などを直々におこなった疑いが濃厚なのだ。 

 しかも、中村氏がこうした官邸ぐるみの改ざんに深くかかわっていたことは、ある文書によってもあきらかになっている。

 その文書というのは、昨年8月に共産党が公開した「航空局長と理財局長との意見交換概要」。この概要は、2017年9月7日に中村総務課長と太田理財局長、国交省の蛯名航空局長、金井昭彦総務課長の4名が、会計検査院の検査や国会対応への協力関係を確認し意見交換をおこなった際の発言録だ。

 そして、この文書では、中村総務課長と太田理財局長の財務省側は何度も「官邸」という言葉を持ち出し、官邸の意向を気に掛けているのだ。

 たとえば、国交省側が「変な相手に対してリスクを遮断するために「瑕疵担保責任」の考え方で見える範囲で最大限の見積もりをしたと言えるかがポイント」と言うと、中村・太田側はこう答えている。

「籠池夫妻が相当な人たちだとのイメージが進む中で、そのような答弁をすることについて、気持ちは同感だが、今までの答弁との関係で、開き直った答弁だと思われないかなど官邸との関係を含めてメリデメをもうちょっと考えさせてほしい」

 国民に対して「真実をあきらかにしよう」という気がまったくない基本姿勢や、籠池夫妻を「変な相手」として扱うことで正当性の根拠にしようとする蛯名局長の提案には呆れるが、ここで中村・太田側は財務省としてではなく、開き直ることが官邸=安倍首相にダメージを与えることにならないかを心配しているのである。

 さらに、中村・太田側は、こうも語っている。

「『捜査中なのでコメントできない』だけではもたないし、マイナスのイメージを拡大させてしまうと思う。佐川局長が価格交渉をしたのかどうかが追及のポイントだが、民進党PTはこれまで通りの対応をするが、国会ではなんらかの答弁が必要なので、官邸との関係は容易ではないと思うが、来週にも調整したいと思っている」

 官邸との関係は容易ではないが調整したい──。つまり、財務省の国会答弁は官邸と緻密に調整した上で作成されていた、というわけだ。「価格交渉をしたのかどうかが追及のポイント」とまで述べているのだから、当然、交渉記録の破棄を官邸が知らなかったなどということは、この口ぶりからはまずもって考えられないだろう。

 そして、極めつきはこの発言だ。

「検査院に対しては官邸だからといって通用しない。

説明していくタイミングも考える必要がある。両局長が官邸をまわっている姿をマスコミに見られるのはよくない。まずは寺岡を通じて官房長官への対応するのが基本。与党へもいずれは何らかの対応が必要だろう。相手は検査院なのでこのような報告が出てしまうのはしかたがないとの認識を持たせていくことが必要」

「寺岡」というのは寺岡光博・官房長官秘書官のことを指していると思われるが、じつは寺岡氏は前述した2月22日の菅官房長官が中村氏らを呼び付けた官邸での面談にも同席していたことがわかっている。つまり、これは官邸、菅官房長官ぐるみで、会計検査院の報告や国会対応をどうごまかすか、文書隠蔽の相談を図っていたことを裏付ける発言なのだ。

 このように、中村氏は森友文書改ざんに大きくかかわっただけでなく、その後も官邸の意向に沿って国会や会計検査院の対応にたずさわった。ようするに、官邸関与の実態を知る人物のひとりなのである。

 官邸は、太田氏を事務次官が約束されたも同然の主計局長に昇進させ、改ざん当時に官房長を務め文書厳重注意を受けた岡本薫明主計局長も事務次官に抜擢している。そして、今回の中村氏のイギリス公使栄転──。これによって、官邸は森友問題を闇に葬り去ったつもりなのだろう。現に、中村氏や佐川氏らが再び不起訴処分になった件も、この人事の件も、メディアの扱いは小さいもので、あらためて検証をおこなう気運もみられない。

 前代未聞の国家による公文書改ざんという大事件に対し、政権が責任を負うこともなく幕引きがなされてしまう。この事実の重大さに多くの国民が声をあげない現状は、もはや安倍政権がなんでも好き勝手にできる体制ができあがったということなのだろう。