山田さんは21年間の裁判の末、1999年に無罪が確定した。
これまでメディアの取材を拒んできたが、今回初めて長期のカメラ取材に応じた。弁護士資格を持ち、罪に関する取材を重ねてきた異色の“弁護士記者”上田大輔が、刑事司法の構造に切り込んだ自身のドキュメンタリー『ザ・ドキュメント 逆転裁判官の真意』(2023年11月放送)のDVDと手紙を山田さんに送ったことがきっかけとなった。山田さんから取材を受けるとの返事があり、密着取材が始まった。
上田記者は、無実の罪に問われた人を救う弁護士を志し、司法試験に合格するも、有罪率99.8%の刑事司法の現実に絶望し、企業内弁護士としてカンテレに入社。しかし、一度は背を向けた刑事司法の問題に向き合おうと記者になり“有罪推定”ともいえる日本の刑事裁判のあり方に疑問を投げかける報道を続けてきた。揺さぶられっ子症候群(SBS)に関する取材を経て、自身初の監督映画『揺さぶられる正義』がワールドメディアフェスティバル金賞を受賞した。
日本の司法の闇に切り込む上田記者は、甲山事件について「冤罪を生む構造がよく分かる事件。今も変わらない日本の刑事司法の姿が浮き彫りになる」と語る。
■甲山事件の概要と再逮捕の経緯
1974年、兵庫県西宮市にある知的障害児の施設・甲山学園で、浄化槽のマンホール内から児童2人の遺体が発見された。警察は殺人事件として捜査し、保母として働いていた当時22歳の山田さん(旧姓:沢崎)を児童殺害容疑で逮捕する。山田さんは身に覚えがないと否認するも、執拗にアリバイ説明を求める警察の取り調べで精神的に追い込まれ、逮捕から10日後に無実の罪を認めてしまう。
結審が見えてきた1978年2月、同じ容疑で検察が山田さんを再逮捕・起訴した。一度不起訴になった事件がなぜ起訴に転じたのか。それは、事件から約3年後に語り始めたという複数の元園児の証言だった。
検察が物的証拠もない状態で、元園児たちによる矛盾をはらんだ数年後の証言を“新証拠”として殺人罪で起訴したことについて、上田記者は「当時の判決文等を読みながら、有力な証拠が一つもないことに背筋が凍るような思いがしました」と振り返る。そして「甲山事件は、刑事司法のあり方やマスメディアの事件報道、障害者や子どもの人権まで考えさせられる、今なお根深い日本社会の問題の縮図のような事件です。しかし、21年に及ぶ刑事裁判の末に無罪が確定した大きな冤罪事件でありながら、時間の経過とともに忘れられつつあります。決して風化させてはならないという思いで、取材に挑みました。当時の事件報道のあり方も考えさせられ、これまでのドキュメンタリーや映画『揺さぶられる正義』を通じて問いかけてきたことに連なる取材でした。司法の知識をもって冤罪の取材を重ねてきた、自分にしか届けられないドキュメンタリーだと自負しています」と語る。
ドキュメンタリーでは珍しい再現ドラマやカンテレに眠る25年にわたる事件のアーカイブ映像などを交え、事件から半世紀を経た今、山田さんの数奇な人生をたどり、甲山事件が残した教訓を探る。
【上田大輔 プロフィール】
1978年10月27日兵庫県生まれ。

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