※本稿は、リチャード・レスタック『いくつになっても頭はよくなる 記憶力・集中力・思考力・創造力 全部高まる28の習慣』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■いらだちや不確かさは脳を鍛える
不確かさや曖昧さは、安心したいというわたしたちの自然な欲求と相いれません。しかし、これらは脳が最高の力を発揮するために不可欠です。物理学者で、『Problems for Puzzlebusters(パズルマニアのための難問集)』(未邦訳)という論理パズル本の著者デイヴィッド・ブックは、よいパズルを解いたりつくったりするのに何日も、ときには何週間も考えるそうです。彼はいらだちや不確かさとうまく付き合えるように自分をきたえたのです。
彼のパズルは十分にやりがいがあり、読者は粘り強く解こうとするでしょうか? 答えがわかったとき、ごまかしがなく公正で、努力する価値があったと思うでしょうか? この本のパズルについては、後でいくつか紹介しましょう。
わたしたちはみな、心理学者が「早期打ち切り」と呼ぶ状態になりがちです。つまり、あらゆる事実と論理的帰結をじっくり考える前に、すぐに結論を出したり、説明に納得したりしてしまうのです。実際、ほとんどの人にこの傾向があり、自覚している以上に早期打ち切りをしています。曖昧さに耐えたり、もう少し長く考えたりせずに、論理的に誤った結論に飛びついてしまいます。たとえば、次の論理パズルを解いてみてください。
スティーブはとても内気で、はにかみ屋です。頼まれればいつでも手助けしますが、人にはほとんど関心をもちません。おとなしく、几帳面で、秩序と構造を好み、細かいものに情熱を注ぎます。
質問――さて、この説明から、スティーブは図書館員と農民のどちらである可能性が高いでしょうか?
■内気で几帳面な農民はいないのか
ほとんどの人がためらわずに図書館員を選ぶでしょう。これまで何年も図書館員と農民を見てきましたし、他の情報もありませんから、固定観念で決めてしまうのです。ですが、他の情報がないというのは本当でしょうか?
統計的には、アメリカでは農民の人数のほうが図書館員よりずっと多く、少なくとも100倍はいます。ですから、スティーブについて何の情報がなくても、彼は農民だと推測するほうがかなり正確なのです。彼の性格についての記述がなければ、ほとんどの人がそう推測するでしょう。
ところが、「内気」や「几帳面」といった言葉が加わると、可能性より固定観念を信じるようになるものです。これまで出会った図書館員のほとんどが、(表面的には)スティーブの性格と一致しているように見えました。また、農民と長く過ごした経験のある人はあまりいないでしょうから、農民はみな同じだと思いがちです。ですが、几帳面な農民はいないでしょうか? 内気な農民はいませんか? 細かいものや、秩序や構造が好きな農民は?
もちろん、いるはずです。
■シャンパンボトルとスプーンの関係
では、不確かさに耐えつづけた例を紹介しましょう。
イギリスの雑誌『ニュー・サイエンティスト』の編集者たちに、次のような質問が寄せられました。
「シャンパンのボトルの口からスプーンを入れ、液体に触れないギリギリのところまで垂らしておくと、炭酸が抜けません。どうしてですか?」
編集者たちは最初、スプーンでシャンパンの炭酸が抜けずにすむなんてばかげていると思いました。ですが、了見が狭いと思われたくないので、簡単な実験をすることにしました。すると驚いたことに、オフィスの冷蔵庫にある半分残ったシャンパンのボトルにスプーンを垂らしておくと、12時間後でも炭酸が抜けていなかったのです。24時間後でもいくらか残っていました。
しかし編集者たちは、新しい物理法則を発見したと公表する前に、早期打ち切りの傾向を抑えて、もう一つの実験をしてみました。
今度は、開けたシャンパンのボトルにスプーンを入れて保存したものと、スプーンを入れずに保存したものを用意しました。そして、ボランティアの人たちにスプーンのことを知らせないまま味見をしてもらいました。
■友人とのテレパシーは存在しない
それは、おおかたの人の予想に反して、シャンパンを開けると約96時間後まで完全には炭酸が抜けないからです。ご自分で試してみてください(もちろん安いシャンパンで)。つまり、思いがけなく炭酸が長もちしたのは、スプーンの効果だと思うのもしかたがないのです。
大切なのは、「驚くような」または「並はずれた」結論にすぐに飛びつかず、まずは判断を保留して事実を確認し、せめて他の説明がないか考えることです。編集者たちはこう述べています。
「つながりがあるように見える事象に意味をもたせるのはよくあることだ。それが珍しいもので、比べるデータがなければなおさらである。人々が『わあ、びっくり。ちょうどあなたのことを考えてたら電話が鳴って、それがあなたからだなんて』と言うのを、毎日のように耳にするだろう。誰もが友人とテレパシーでつながっていたいものだ。しかし忘れてはならないのは、当然ながら、相手のことを考えていても電話が鳴らなかった回数である」
■論理パズル「消えた1ドル」
不合理な結論に飛びつこうとする生まれながらの傾向を打破し、非論理的な考えに安んじようとする脳に対抗するためには、脳を訓練する必要があります。
また、先ほど触れたデイヴィッド・ブックは、ワシントンポスト紙にもパズルを寄稿している有名なパズル作家です。彼の本からわたしのお気に入りの論理パズルを紹介しましょう。
これはよく知られた論理クイズで、先入観を捨てるという大事な原則を示すものです。3人のセールスマンが小さな町のホテルに到着しました。もう遅い時刻ですし、部屋は1つしか空いていないので、相部屋で泊まることにしました。宿泊料は30ドルです(明らかに、かなり昔の設定です)。それぞれが現金で10ドル払い、部屋に入りました。数分後、フロント係は自分の間違いに気づきました。正しい宿泊料は25ドルなのです。
■クイズを解くカギは「無関係」
彼はベルボーイに5ドルを渡して部屋に届けさせました。3人は1ドルずつ受け取り、残った2ドルをベルボーイにチップとして渡しました。さて、セールスマンたちはそれぞれ9ドル支払い、ベルボーイは2ドルもっていますので、合計は29ドルになります。消えた1ドルは、いったいどうなったのでしょう?
このクイズを解くカギは、2つの無関係なプロセスが1つに合体されていると気づくことです。30枚の紙幣で試してみましょう。10枚ずつ3つの山に分けます。これはセールスマンたちが支払った額を表します。そこから5ドルを取り、セールスマンたちに1ドルずつ、ベルボーイに2ドル配ります。どこかの時点で、消えた1ドルなどないことに気づくでしょう。
セールスマンたちが支払った額と、ベルボーイがもっている額を足しても意味がありません。お互いに無関係なのです。まだわからなければ、セールスマンたちがベルボーイにチップを渡さずに、5ドルを不均等に分けたことにしてみてください。
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リチャード・レスタック
神経科・精神神経科医
ジョージ・ワシントン大学医学・健康科学部の臨床神経科教授。デラウェア州ウィルミントンで生まれ、ジョージタウン大学医学部で医学学位を取得。脳に関する著作が多数あり、中でも『The Brain』『The Mind』『The Brain Has a Mind of Its Own』はベストセラーとなる。『ニューヨークタイムズ・ブックレビュー』誌、『ワシントンポスト』紙、『スミソニアン』誌、『サイエンス』誌でも著作が紹介された。『ナショナルジオグラフィック』誌のコンサルタントや、ナショナル・パブリック・ラ ジオの番組「Morning Edition」のコメンテーターを務め、精神的なパフォーマンスや脳研究の発展について幅広く解説している。妻と3人の娘とともにワシントンD.C.に在住。
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(神経科・精神神経科医 リチャード・レスタック)

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