九州ローカルの50店舗だった「資さんうどん」が、わずか2年で全国100店舗を突破した。すかいらーくグループのエース「ガスト」より1店舗あたり5倍以上の売上を叩き出す。
なぜ首都圏でもこれほど急成長できたのか。フリーライターの宮武和多哉さんは「マネされない業態と変えない改革に秘密がある」という――。
■出店すればとにかく売れる
数年前まで九州ローカル、50店舗程度だった「資さんうどん」(以下:資さん)が、2026年3月の倉見店(神奈川県寒川町)をもって、ついに100店舗を突破した。
10年前には30店少々、年間売上も70億円程度だったのが、いまや年間20店舗を出店し、売上も200億円に迫る。近年はずっと前年度比120%以上をキープしており、いまや、東京・千葉などの首都圏でもよく看板を見る、紛れもない全国チェーンだ。
この「資さん」、出店すればとにかく売れる。いまの親会社である「すかいらーくホールディングス(以下:すかいらーくHD)」のエース「ガスト」より1店当たり5倍以上(1日200万円程度)の売上を叩き出し、店によっては夜中の3時まで満席つづき。ひっきりなしに賑わう現状を見れば、各地のガスト・ステーキガストが、次々と「資さん」に改装されていくのも、納得できる話だろう。
こういったローカルチェーンの全国進出は「味やメニュー・雰囲気が変わった」と言われやすく、ファンが離れてそのまま失速するリスクを孕む。ましてや「資さん」には、2024年に「すかいらーく傘下入り」という一大転機があったばかりなのに、その勢いは衰えていない。
「資さん」はなぜ、全国チェーンとして順調に移行できているのか。また、2024年に「資さん」を買収したすかいらーくHDはなぜ、相場の数倍に及ぶ240億円という巨額を投じたのか?
働く人々にお話を伺うと、「資さん」の成長の理由が見えた。
それは、お客さん目線で見た「“和風ファミレス”としての使い勝手の良さ」、ビジネス面での「マネされない個性」、すかいらーくHDとしての「“ファミリー・低単価”プレイヤーの欠如」だ。実際に店舗を訪れながら、確認していこう。
■「普段使いの食事処」として受け入れられた理由
「資さん」はなぜ、「資さん」を知らない人々にも、普段使いの食事処として選ばれるのか? その理由は、「安くてハズレのない“和食ファミレス”」であるからだろう。
「資さん」で提供されるのは、長さ14cmの巨大ごぼ天(ごぼうの天ぷら)が5本も載った「ごぼ天肉うどん」など、うどんメニュー……だけではなく、天丼・かつ丼をはじめとした丼物、ぼた餅・サンデーなどのスイーツ、その他100種類以上のメニューが並ぶ。
価格も1杯400円台の「かけうどん」から、セットは700円~1000円程度と、値上げラッシュが激しいいまの時代としてはお財布に優しい。丸亀製麺・はなまるうどんよりもはるかにメニューが充実している上に、4人~6人掛けのボックス席で家族・友達とくつろぐような、ファミレス然とした使い方もできる。
■ファミリーにも、深夜ファミレス族にもピタリ
メニューが豊富なお陰で、数人集まっても「あれが嫌いだから行かない」という事態が起きづらく、家族・仲間で集まったら「どこに行く?」「とりあえず『資さん』!」で、行き先の話し合いが済む。こういった流れで「資さん」が選ばれやすいのは、九州ローカルであった頃と一緒だ。
そして「資さん」の存在は、ガストをはじめとする洋食ファミレスで育ってきたファンにもありがたい。ハンバーグ・ステーキを中心とした脂っこい食事を好んでいた人々は、年齢を重ねて和食の「資さん」を好むようになり、数時間も粘る暇がなくなったためか、ドリンクバーすら不要、という人々も多い。
結婚や子育てによって、ファミレス来店の動機が「個人の“ダべり”」から、「家族で食事をする時間」」に変わった人々にとっては、出汁味がメインの和食を食べながら、ほどほどにくつろげる「資さん」は、有り難い存在なのだ。
こういった、むかし「深夜ファミレス族」と呼ばれていた人々にとって、「資さん」が持っていた「和食・安い・それなりに落ち着ける」といったピースが「ピタッ」とハマった、だからこそ、「資さん」は首都圏に進出してすぐに、常連客を囲い込むことができたのだ。

■真似をするライバルがいない
競合各社が和食メインのファミレスを立ち上げれば、「資さん」は一瞬で駆逐されそうにも見える。ところが、「資さん」のスタイルは、なぜか「マネされない」。これも強みだ。
まず、外食業界のなかで、「格安タイプの和食ファミレス」自体があまり存在しない。ガストなどの洋食ファミレスは、コンベアオーブン・オートフライヤーなどをアルバイト店員が駆使して一括調理することでコストを下げているのに対して、和食だと天然の昆布・カツオなどからの出汁取り、卵とじ・天ぷらなど、一定の熟練技を要する上に、人件費コストや食材管理の手間もかかる。
一般的な和食メイン店舗だと、かかるコストを転嫁するため、高級路線にならざるを得ない。従来の和食ファミレスとしてあった夢庵・さとなどが伸び悩むのは、単純に「価格が高すぎる」「日常使いができず、常連客が寄り付かない」といった理由があるのだ。
■原点は「北九州市民のムチャブリ」
その点「資さん」は、利益率が高く即座に提供が可能なうどんをベースにしており、サッと揚がるごぼ天、作り置きができてサッと出せるおでん・ぼた餅などのおかげで、厨房のオペレーション効率が際立って良い。
以前にお話を伺ったところ、出汁もカツオ・シイタケなどをベースに、1日何度も多量に取るノウハウが完全に出来上がっており、深夜・早朝も営業しているため、「100種類以上のメニューを毎日仕込みながら、遅くとも数分内に提供できるノウハウ」が定着しているそうだ。
また、創業者・大西章資さんが築き上げた「オペレーションの伝統」も、いまの「資さん」に寄与している。
鉄工所が林立する技術の街・福岡県北九州市で創業しただけあって、「すぐ提供してほしい」「早朝・深夜にも店を開けてほしい」といった要望に応え続け、「ついでに丼物を食べたい」「甘い物も欲しい」「家族で来たいからテーブル席も欲しい」といった“無茶振り”に応えた結果、提供スピードを保ちながらメニューも進化していったそうだ。
うどん店は「個食」の象徴でもあり、経営的に成長したとしても「速い・うまい・安い」とは逆方向のファミレス業態に進化することはないのは、丸亀製麺・はなまるうどんを見ても分かるだろう。
他社がマネできない「資さん」のスタイルは、創業者・大西さんがひたすら“無茶振り”に対応したことから生まれ、結果として「和食ファミレス」として差別化の要因ともなったのだ。
また蛇足ではあるが、「うどん店の和食ファミレス化」に舵を切ったのが、「資さん」とおなじ福岡県発祥の「ウエスト」や「うちだ屋」であった、という事実にも注目したい。家族での食事・会食好きな九州・福岡県ならではの、独自の進化ではないのか? と筆者は感じるが、気のせいだろうか?
■すかいらーくの「空きポジション」を埋めた
2024年に「資さん」を買収したすかいらーくHDとしても、「資さん」に240億円を投じて迎え入れるだけの価値があった。ガスト・バーミヤン・しゃぶ葉など20以上のブランドを擁する同社のなかで「資さん」は「経営上の“空きポジション”を見事に埋める存在」だったのだ。
すかいらーくHDは株主向け資料で、「高価格or低価格」「カジュアルorファミリー」といった座標軸によって、各ブランドを評価する社内資料(ポートフォリオ)を作成している。
もっとも顧客が多い「低価格・ファミリーダイニング」は、いわば日常食を担う「ファミレス向けゾーン」であり、他社ならサイゼリヤ・ジョイフルあたりが同ポジションに該当するだろう。しかし、近年の急激な値上げにより、このゾーンを占めていたガスト・バーミヤンは、図表の左上(高価格帯)に去らざるを得なかった。
■「外食は1人1000円以内」の客層を呼び戻す
このままでは、外食で1000円以上を払わない人々=従来の顧客が、すかいらーくHDから離れてしまう。そこで「資さん」を取り込み「低価格・ファミリーダイニング」の穴を埋めてもらおう、という戦略をとったのだ。実際に、2024年の「資さん」傘下入り後に出店した約30店のほとんどが、ガストからの転換であり、もともとの低価格層の顧客をふたたび呼び戻しつつ、順調に繁盛している。
なお、すかいらーくHDが2026年3月に110億円で買収を発表した「しんぱち食堂」も、ポートフォリオの中で空いている存在であった「カジュアル・低価格」に当たる存在だ。両社ともM&Aの相場よりかなり高価格で買収を受けており、今後ともポートフォリオの穴を埋める企業を探してM&Aを進めるだろう。

まとめると、「資さん」は「和風ファミレス」として「マネされない業態」「マネしても同様の利益が獲れず、割に合わない業態」であったからこそ、すかいらーくHDにも必要とされた。買収からたった2年でさしたるライバルもなく、スムーズに全国展開できた理由が、おわかりいただけただろうか?
■“よそ者”前社長の「変えない改革」が奏功
この3項目に加えて、もうひとつ付け加えなくてはいけない。8年間にわたって社長を務め、2026年3月末を以って退任した佐藤崇史・前社長が行った経営改革は「変えない改革」といえる、ものであった。
プロ経営者として珍しい「伝統を活かす」経営の舵取りによって、佐藤前社長はなぜ「資さん」を急成長させることができたのか?
まず、会社の過去をさかのぼってみよう。先に触れた創業者・大西章資さん氏が2013年に退任、2025年に死去して以降、「資さん」の経営は創業家から地元地銀系のファンドに移行。後継者不在による経営危機が、地元誌でも頻繁に報じられた。ここで、過去にスシローなどの買収・再生を手がけた実績があるファンド「ユニゾン・キャピタル」が「資さん」の株式を取得、2018年に経営者として送り込まれてきたのが、佐藤前社長だ。
■ことごとく残した「非効率な手業」
こういった転売目的のファンドでは、手早く利益獲得・売上回復が求められることも多く、新しい経営者による安易な割引・必要以上のコスト削減が、逆に企業を壊すケースもある。
ましてや、当時は「利益率2%程度」と極端に稼げない体質であった「資さん」に、食材・調理方法の変更やリストラといった「劇薬」を打とうと、考えない経営者はいないだろう。
しかし、全店をまわった佐藤前社長はオペレーションの変更を行わず、ダシを店で取る・店内製麺・ぼたもち作りの職人技といった非効率な手業を、ことごとく残した。かつ、SNSで「『資さん』の伝統を守る」「味や店づくりは変えない」と頻繁に発信したうえで、創業者・大西章資さんの哲学やリーダーとしてのあり方を学ぶべく「資さん大学」を立ち上げ、教育システムとして伝統を残すという選択肢をとった。
偏見かもしれないが、こういったプロ経営者は早期に実績を残すべく、無闇にギラギラとした態度をとる方もおられる。
閉塞感があった「資さん」のなかで、徹底的に伝統から学ぶ姿勢をとった佐藤前社長の経営姿勢は、ある意味珍しい。
■全国進出の素地をひっそり整える
しかし同時に、佐藤前社長は、「注文タブレット導入」「マーケティングデータの取得・客層の分析」「可能な社員登用・教育強化」といった対策を次々と打っていた。伝統は変えずとも、「Excel手打ち」に依存していた社内のDX化を進め、全国進出に向けてのマニュアル統一化・マーケティングデータ取得などの下地を、ひっそりと整えていたのだ。
さらに、熱狂的な「資さん」潜在ファンがいることを早期に見抜いた上で、ファンブック発売やSNSでの交流を経て、熱量を世間に可視化させるというファンマーケティングを展開。コロナ禍という逆境を逆手に取り、「これだけ『美味しい』と思う人がいるなら、非常事態宣言が明けてすぐに食べに行きたい!」というリベンジ消費の波を引き起こし、既存店の売上をワンランク上げた。
いま「資さん」は、佐藤前社長が慎重にセレクトした買収先・すかいらーくHDのパートナーシップの下で、「資さん大学」から発展した教育システムによって人材教育を進め、変わらない味が来客を呼び寄せる。
経営者として打った施策はきわめて地味でも、確実に「資さん」の成長に繋がった「(伝統を)変えない改革」は、M&Aによって送り込まれた経営者の道しるべになるだろう。なにも、外部からの経営改革は「削る」「変える」「威張る」だけではないのだ。
■「外食100店の壁」を確実に打ち破るには…
こうして全国進出を果たした「資さん」だが、会社としての難問は山積している。一般的に100店を越えると、物流面・人材面で目詰まりを起こして成長が止まったり、各店の管理が行き届かなくなることで味・店づくりの質低下が起き、閉店ラッシュを引き起こすこともある。「資さん」は「外食100店の壁」を打ち破れるのだろうか?
「資さん」の味を守りつつ、すかいらーくHDの工場から商品を供給するには、まだ課題も多いという。ここは、4月から「資さん」を担う崎田晴義・新社長のもと、これまで以上に伝統を守りつつ、セントラルキッチンで北九州の味を再現できる「内製化」作業が必要となるだろう。

崎田社長も、過度な出店には慎重な姿勢を見せている。創業から半世紀を超える「資さん」に加えて、新たに「しんぱち食堂」を仲間に迎え入れたすかいらーくHDが、ブレーキを踏みながら出店を続けていくのか。創業50周年を迎えた「資さん」の経営姿勢を見守っていきたい。

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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)

フリーライター

大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。プライベートでは8人家族で介護・育児問題などと対峙中。

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(フリーライター 宮武 和多哉)
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