年齢を重ねると起こる腎機能の低下を押さえるにはどうすればいいか。医師の牧田善二さんは「腎臓にとって、大事な膜を破壊し、血管もダメにする憎むべき大敵がいる。
ブドウ糖とタンパク質が結びつくことで生じる、非常にタチの悪い老化促進物質だ」という――。
※本稿は、牧田善二『腎臓 人工透析にさせない最強の医療・食べ方』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■血液の濾過機能に、大ダメージな3要因
血液を濾過するために、とても大事な腎臓の膜。その膜に、穴が開いたり目詰まりを起こしたりしてしまう原因は、いったいどこにあるのでしょうか。
ひとつは「加齢」です。
ネフロンは、残念ながら加齢とともに減っていきます。そして、失われたネフロンは再生しません。
具体的な数字を挙げると、60代以降は20代の半分くらいになるといわれています。若いころに、片方100万個、合計200万個持っていたとしたら、高齢になっただけで、すでにその半分はなくなっているわけです。
ただ、ネフロンはとても重要なだけに、もともとたくさん持っているので、半分になったとしても血液濾過は問題なく行なわれます。だから、平均寿命が今よりずっと短かった時代には、腎臓が問題になることはほとんどありませんでした。
しかし、人生100年時代となると、そう簡単にはいきません。
徐々にネフロンが減っていっても、なんとかギリギリ足りて一生を終えることができればいいのですが、いよいよ足りなくなれば、血液濾過ができない腎不全に陥ります。
ここまできたら、透析か腎臓移植かしかありません。
先の記事でもふれたように、腎臓の機能を測る手段のひとつ「eGFR」は、「血清クレアチニン」の数値に、性別と年齢を加味して算出します。つまり、年齢を重ねれば、どうしても腎機能は落ちていくことが前提になっています。
■腎臓の膜は替えがないからこそ大切
腎機能に限らず、筋力、骨密度、視力、聴力、心機能……と、中年以降、あちこちに衰えは出てきます。しかし、そのほとんどが「うまく折り合いをつけていける」ものです。
若いころのように走れなくても、旅行に行けるくらいの体力を保っていられればいいし、足りない部分は眼鏡や補聴器のお世話になることもできます。
しかし、腎臓に関しては、そんな呑気なことはいっていられません。
どんなに使い勝手がよかった「ざる」も、長年愛用しているとガタがきます。穴も開くし、目詰まりもしてきます。
そのとき、ざるなら新しいものを買えばいいのですが、腎臓の膜は替えがなく、何歳になってもそのまま使い続けるしかありません。だからこそ、普段から少しでも大切に使っていくことが重要なわけです。

ちなみに、腎臓病が重症化して透析になるケースは、女性よりも男性に多く見られます。これは、糖尿病、肥満、喫煙といった腎臓病を悪化させるファクターが、中年以降の男性に多いからだと思われます。
■細菌やウイルスと闘っている状態が「炎症」
加齢に加え、腎臓の膜を傷つける大きな原因が「炎症」です。
炎症と聞いて、あなたはどんな状況を思い起こすでしょうか。
風邪をひいて喉が赤くはれたり、熱を持ったり、食中毒で胃腸炎が生じて痛みが出たりするのは、炎症のわかりやすい例ですね。肺炎、歯周病、皮膚炎……こうした炎症は、基本的に、なんらかの病原体から私たちの体を守るための生体防御反応のひとつです。
肺炎の場合は、肺に侵入してきた細菌やウイルスと闘うために、そこに炎症が起きているわけです。炎症のなかでも急性のものは、症状こそ激烈であっても、その原因を取り除くことで収まれば問題ありません。
一方で、持続する慢性炎症は、急性炎症よりもはるかにやっかいです。痛みもはれも痒みもなかったとしても、長期的に体の中で悪さをし、がん、心筋梗塞、脳卒中、認知症……など、さまざまな疾患の原因となることがわかっています。
もちろん、腎臓病も、その発症や増悪に炎症が関わっています。
とくに、最近、問題視されているのが「非感染性慢性炎症」です。
これは、細菌やウイルスのような感染源がないのに、体の中で低いレベルの炎症が長時間持続するものです。
原因として、加齢、偏った食事、運動不足、喫煙、不眠、ストレスなど、生活習慣の悪化がいわれています。こうした悪い要素を排除することが、腎臓のために限らず重要です。
■非常にタチの悪い老化促進物質
腎臓のみならず、私たちの体中に炎症を引き起こす代表的な物質が、AGEです。
AGEは“Advanced Glycation End Products”の略で、「終末糖化産物」と訳されます。
その正体を簡単に言うと、ブドウ糖とタンパク質が結びつくことで生じた、非常にタチの悪い老化促進物質です。
米飯やパン、麺類などの炭水化物も含め、糖質を摂取すると、それはブドウ糖に分解され、小腸から血液中に吸収されます。
一方で、私たちの体は、筋肉、内臓、血管、皮膚、髪……と、どこもかしこもタンパク質でできています。だから、血液中にブドウ糖がたくさんあると、悪性物質AGEもどんどん産生されます。
■慢性炎症がシワ、認知症、がんを引き起こす
では、この悪性物質AGEは、体の中でどういう悪さをするのでしょうか。
主にコラーゲンなどのタンパク質にくっついて変性させます。変性というのは、まだまだ表現が甘いかもしれません。
ボロボロにするというほうが実態に近いでしょう。
当然のことながら、AGEは腎臓の膜のコラーゲンにもくっつきます。
すると、これを除去するためにマクロファージという細胞が出てくるのですが、その細胞表面にある「AGE受容体」がAGEに結合するときに炎症が起きるのです。
こうしたAGEを原因とする炎症は、体中で起きます。皮膚で起きればシミやシワになるし、脳で起きれば認知症の原因ともなります。がんもまた、多くが慢性炎症によって引き起こされます。
動脈の炎症は動脈硬化を起こし、心筋梗塞や脳卒中の原因となります。もちろん、腎臓の細かい血管もボロボロになります。
腎臓にとってAGEは、大事な膜を破壊し、血管もダメにする憎むべき大敵なのです。

----------

牧田 善二(まきた・ぜんじ)

AGE牧田クリニック院長

1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。
1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。
2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。
著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。

----------

(AGE牧田クリニック院長 牧田 善二)
編集部おすすめ