お酒を飲むと太るのはなぜか。医師の溝口徹さんは「お酒に含まれる糖質量やつまみのカロリーとは関係なく、単にアルコールを摂取すると、太りやすい体質に変わる。
特にやせの大酒飲みはメタボ同様に糖尿病や血管病変のハイリスクなので要注意だ」という――。
※本稿は、溝口徹『お酒の「困った」を解消する最強の飲み方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■空きっ腹で悪酔いする理由
NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は重要な補酵素で、体内で取り合いになっていると述べた。例えばどういうときにNADが大量に必要になるかというと、空腹が長く続いたときである。
空腹が長く続いて体内のブドウ糖がなくなると、脂肪は肝臓で分解されてケトン体という物質になり、血液中にエネルギー源として供給される。このケトン体をつくる際、脂肪酸をβ(ベータ)酸化することがはじまりになる。β酸化は、ビタミンB2とともにNADを消費する反応なのだ。
そこで、である。空きっ腹でお酒を飲むのはよくないといわれるが、それは空っぽの胃にアルコールが入ると、すぐに吸収されて体に負担がかかるから、というだけではないのだ。
空腹の状態でアルコールを飲むと、NADはケトン体の合成のほうに使われてしまうため、アルコールの代謝のほうにまわらず、アルコールの代謝が遅れてしまうのである。
胃に食べ物がないから、ただでさえアルコールがすばやく吸収されてしまうのに、それに加えて、アルコールがなかなか分解されない。そのため酔いが強くなったり、悪酔いをしてしまったりするのだ。

もしも少量のお酒ですぐに酔っ払いたい人がいるなら、空腹で飲めばいいのかもしれないが、決しておすすめできるものではない。
私が「お酒は食事をしながら飲むもの」と言っているのは、こういうわけである。
食べながら飲めば、ケトン体合成のスイッチがオフになるため、NADはケトン体合成には使われず、アルコール分解に使われるようになるのだ。
■アルコールで食欲が増して食べすぎる
ビール腹などといわれるように、飲酒者は肥満傾向の印象があるのではないだろうか? ビールに含まれる糖質が肥満の原因であるとか、アルコールは食欲を増すため通常よりも食べすぎてしまうことが肥満の原因ともいわれている。
これらは、飲酒者の肥満の大きな原因であることは否定しない。ところがお酒に含まれる糖質量やつまみのカロリーとは関係なく、単にアルコールを摂取すると、太りやすい体質に変わるのである。
前に、アルコールがアセトアルデヒドから酢酸へと変化する代謝の過程で、大量のNADが消費されると説明した。NADはアルコール代謝だけでなく、糖や脂肪の代謝にも深くかかわる補酵素なので、飲酒によるNADの大量消費は、糖や脂肪の代謝にも大きな影響がある。
アルコール性脂肪肝という病名がある通り、アルコールは内臓脂肪を増やすことが知られている。これはNADの減少によって脂肪をエネルギー源として利用できなくなり、中性脂肪が増えることが原因の1つである。
この反応はつまみのカロリーとは関係がないため、恐ろしいことに適正カロリーでも中性脂肪が増加し、内臓脂肪が蓄積してしまうのだ。
さらにアルコールで食欲が増して食べすぎてしまうと、より太ってしまうという魔のスパイラルに陥る。

■“メタボではないがお腹ポッコリ”はハイリスク
また、お酒そのものにもカロリーはある。よくお酒はエンプティカロリーだといわれるが、この言葉は勘違いされやすい。エンプティカロリー=カロリーゼロではない。カロリーはあるにもかかわらず、栄養素が含まれていない、という意味なのだ。
アルコール1g当たりのカロリーは約7kcalである。糖質1g当たりのカロリーが約4kcalであることを考えると、アルコールは意外にも高カロリーなのである。
加えて代謝に必要な栄養素を含んでいないエンプティーカロリーであるため、体内にあるビタミンなど多くの栄養素を消費してしまい、結果として代謝が落ちてしまい太りやすくもなる。
大酒飲みといえば、メタボ体型を思い浮かべる人もいるかもしれないが、意外とやせ型の大酒飲みも多い。しかし、やせの大酒飲みは中性脂肪が高い傾向がある。
つまり、“メタボではないがお腹ポッコリ”の場合には、アルコール性脂肪肝であることが多く、メタボ同様に糖尿病や血管病変のハイリスクととらえる必要があるのだ。
食べても食べなくてもお酒を飲めば太る。どうせ飲むなら良質なつまみとともに食べるようにしよう。

■アルコール代謝に関係している意外な栄養素
アルコール代謝の過程で働いている酵素はまだある。それが「チトクロームP450」だ。
ほとんどのアルコールはアルコール脱水素酵素(ADH)やアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって代謝されるが、一部はチトクロームP450によって代謝される。
チトクロームP450は、肝臓に多く存在している酵素だが、以前はお酒を飲むと顔が赤くなっていたのに、赤くならなくなってきたという人は、この酵素が頻繁な飲酒によって活性化している可能性がある。
そして注目してほしいのは、チトクロームP450はヘム(鉄とポルフィリンという物質の複合体)を必要とする酵素、ヘム酵素であるということだ。
そこで重要なのがヘム鉄である。ヘム鉄とは、肉や魚などの動物性食品に多く含まれている鉄分である。鉄が足りないとこの酵素は働きにくくなる。
慢性的に大量に飲酒をしている人の場合、ADHやALDHだけではアルコール代謝がしきれないため、チトクロームP450系の酵素が全アルコールの50%を代謝している。チトクロームP450以外にも、このあとお話しするグルタチオンなどを使わないと、アルコール代謝が追いつかない状態となっているのだ。
■なぜ、お酒と薬を一緒に飲むと危険なのか
ところで、チトクロームP450酵素は、アルコールだけではなく、薬物の代謝もおこなっている。
薬もアルコールと同じく、肝臓で代謝される。
「お酒と薬を一緒に飲んではいけない」とよくいわれる理由はここにある。
薬とアルコールが同時に体内に入ると、薬の代謝にもアルコールの代謝にも使われるチトクロームP450酵素は、両者で取り合いになってしまうのだ。結果、どちらの代謝も悪くなってしまう。
だからアルコールと薬の服用には、十分に注意する必要がある。
アルコール常飲者は、しらふのときでも薬の効きが悪くなる。それは、慢性的にアルコールを摂取しているため、アルコールとともに薬に対しても耐性がつくられてしまうことが原因と考えられている。
またアルコールと同時に薬を服用すると、アルコール代謝が優先的におこなわれてしまうため、薬の分解が遅くなり、効きが強くなり長引いてしまう。
特に糖尿病の薬や睡眠薬などの場合、作用が強く長時間になるため、低血糖になりやすくなったり、睡眠薬が強く効きすぎて昏睡(こんすい)状態になったりする。お酒と薬を一緒に飲むのは大変危険なことなのだ。

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溝口 徹(みぞぐち・とおる)

医師

1964年生まれ。神奈川県出身。福島県立医科大学卒業。
横浜市立大学病院、国立循環器病センターを経て、1996年、痛みや内科系疾患を扱う辻堂クリニックを開設。2003年には日本初の栄養療法専門クリニックである新宿溝口クリニック(現・みぞぐちクリニック)を開設。著書に『2週間で体が変わるグルテンフリー健康法』『発達障害は食事でよくなる』『お酒の「困った」を解消する最強の飲み方』(いずれも青春出版社)、『花粉症は1週間で治る!』(さくら舎)などがある。

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(医師 溝口 徹)
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