厚生労働省の2024年統計によると、日本人の平均寿命は男性約81歳、女性約87歳。関西学院大学人間福祉学部の坂口幸弘教授は「統計学的に見ると、妻より夫の方が先に死ぬ確率が高いが、65歳以上の男性で先に妻を亡くした人は141万人もいる」という――。

※本稿は、坂口幸弘『人は生きてきたように死んでいく』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■65歳以上、妻との死別は141万人
どれほど長年連れ添った配偶者やパートナーであっても、関係を解消しない限り、いずれはどちらかが先に亡くなり、どちらかが後に残される。二人が同時にこの世を去ることは、事件や事故、あるいは災害、一家心中といった場合を除けば、極めてまれである。
令和2年(2020年)の『国勢調査』によれば、49歳以下では配偶者に先立たれる人の割合は、男女共に1%未満だが、60代以降はその割合が急激に増加する。65歳以上で夫と死別した経験のある女性は約694万人、妻と死別した経験のある男性は約141万人にのぼる。75歳以上の人口に限ると、女性の54%、男性の15%が配偶者の死を経験していた。世界でも有数の超高齢社会である日本においても、夫婦がそろって老後を迎えられるとは限らない。
配偶者の死に直面する確率は、平均寿命が女性の方が長いことと、夫の方が年長者の夫婦が多いことから、女性の方が高いが、男性も長生きすれば、妻に先立たれる可能性は十分にある。このように統計上は、男性の方が先に亡くなる確率が高いものの、もちろん逆になる場合もあり、予断を許さない。
■男性の8割は「先に死にたい」
公益財団法人日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の2023年調査には、「配偶者やパートナーと自分のどちらが先に逝きたいか」という、少し答えにくい質問がある。配偶者やパートナーがいる人に限定して尋ねたところ、回答者621人のうち68.5%が「自分が先に死にたい」と答え、31.5%が「自分が後に死にたい」と回答した。
男性はどの年齢層でも「自分が先に死にたい」と答えた人の方が多く、特に50代から70代では約8割にのぼった。
それに対して女性の場合、50代から70代では「自分が後に死にたい」と考える人の方が多かったが、40代以下では「自分が先に死にたい」との回答が半数以上を占めた。
つまり、40代以下の年代では男女ともに「自分が先に死にたい」と考えている一方で、50代以上では男性は先に死にたい、女性は後に死にたいと希望しており、シニア世代になると両者の希望がうまく合致する傾向がある。他方、若い世代では男女を問わず「先に死にたい」と考える人が多く、これからの時代は誰もが先に逝くことを望む「先に死んだもの勝ち」の社会になるかもしれない。
■「妻を失う悲しみに耐えられない」
では、なぜ男性や若い年代で「自分が先に死にたい」と思う人が多いのだろうか。
「自分が先に死にたい」と答えた人にその理由を複数回答で尋ねたところ、「配偶者やパートナーを失う悲しみに耐えられないから」が58.6%と過半数を占め、次に多かった「自分が死ぬときに配偶者やパートナーがそばにいてほしいから」(29.7%)を大きく上回っていた。つまり、配偶者やパートナーの死に伴う悲しみへの不安が、「自分が先に死にたい」と願う背景にあることがうかがわれる。
配偶者やパートナーに先立たれることは、「自分が死ぬこと」よりも、むしろ怖いことなのかもしれない。同財団の2023年調査によれば、自分の死を「とても怖い」と感じている人は、20代と30代では4割を超えていたが、60代以降になるとその割合は大きく減少し、70代では15.1%にとどまった。
一方、大切な人の死を「とても怖い」と答えた人は、20代から50代まで6~7割近くに達し、60代以上でも約4割にのぼった。すべての年代において、自分の死を「とても怖い」と答えた人の割合を上回っている。また、自分の死を「全く怖くない」と答えた人であっても、大切な人の死については半数以上が「とても怖い」あるいは「ある程度怖い」と回答していた。つまり、自分の死に対して恐怖を感じていない人でさえ、大切な人に先立たれることには不安や恐れを抱いていることが示された。

■大学生「先に死にたいのは身勝手」
こうした先立たれることへの不安や恐怖の背景には、他者との関係性の中で安心感や受容を求める、日本人特有の心理である「甘え」が関係していると考えられる。
ある学生は、次のように「先に死にたいなんて思うのは、身勝手なことだと思う」と述べていた。
「パートナーに先に死なれたら、悲しみに暮れる日々を過ごすことになるだろう。だから先に死にたいと考える気持ちには共感できる。でも、それはパートナーにとっても同じはず。なのに、そんな人生が嫌だからといって、パートナーにそれを押しつけるような考え方は、ずいぶん身勝手で、パートナーのことを本当に大切に思っていないように感じる」
配偶者やパートナーへの情緒的な依存が、「自分が先に死にたい」という自己中心的な願いにつながっているのかもしれない。未婚化や非婚化、核家族化が一層進む現代において、多くの人が頼れる家族のいない環境に直面する可能性がある。これからの時代、「個」としてどう生き、どのように死を迎えるのか、そして社会がそれをどう支えるのかが、これまで以上に問われることになるだろう。
■夫が「後に死にたい」理由
配偶者やパートナーよりも先に死にたいと考える人がいる一方で、後に死にたいと願う人も一定数存在する。彼らがそう思う理由は何だろうか。
「自分が後に死にたい」と答えた人に理由を複数回答で尋ねたところ、「配偶者やパートナーの生活が心配だから」が53.6%と過半数を占め、次いで「配偶者やパートナーの最期を看取ってあげたいから」(48.1%)が続いた。この2つが主な理由として挙げられる。

性別で見ると、「配偶者やパートナーを悲しませたくないから」と答えた割合は、男性が41.4%と高く、女性の15.0%を大きく上回っている。この差には、「男性は強くあるべき」「女性を守るべき」といった伝統的な性役割意識が影響している可能性が考えられる。また、「悲しませたくないから」という回答は、自分の死によって配偶者やパートナーが深く悲しむ姿を思い描いた結果であり、男性の方がロマンチスト的な発想をする傾向があるのかもしれない。
■「最期の時間を共に過ごしたい」
ある男子学生は、こう語っていた。
「私はパートナーよりも後に死にたいと考えている。なぜなら、パートナーの最期の時間を共に過ごしたいからである。パートナーに先立たれることは非常に辛く、想像もできないほどの悲しみに包まれると思われる。しかし、人生を共に歩んだ大切な人の最期の瞬間を見届けたいという気持ちの方が、それ以上に強い。また、仮に自分が先に死んでしまった場合、残されたパートナーのことが心配になるであろう。自分自身が心残りなく死後の世界へ旅立つためにも、私はパートナーよりも後に死にたいと願っている」
また、少数だが、「パートナーより後に死にたい理由は、パートナーを見送ることができれば、死後の世界に対する不安や恐怖がいくらか解消されるからである」との意見も見られた。

----------

坂口 幸弘(さかぐち・ゆきひろ)

関西学院大学人間福祉学部教授

大阪府堺市生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了、博士(人間科学)。
日本学術振興会特別研究員などを経て、現在、関西学院大学人間福祉学部人間科学科教授。同大学「悲嘆と死別の研究センター」センター長。専門は臨床死生学、悲嘆学。主な著書は『増補版 悲嘆学入門』(昭和堂)、『もう会えない人を思う夜に』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『喪失学』(光文社新書)など。

----------

(関西学院大学人間福祉学部教授 坂口 幸弘)
編集部おすすめ