仕事のデキる人はどこが違うのか。人材教育コンサルタントの橋本拓也さんは「部下やチームメンバーに対する『耳の痛いことの伝え方』が違う。
大切なのは『改善しない=本人が悪い』と決めつけないことだ」という――。
※本稿は、橋本拓也『部下をもったらいちばん最初に読む伝え方の本』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。
■「耳の痛いこと」をどう伝えるか
良いところを伝えるポジティブ・フィードバックに対して、耳の痛いことを伝えるときに行うのが「ギャップ・フィードバック」です。
ポジティブの反対はネガティブと思うかもしれませんが、メンバーが成長するために理想と現実のギャップを埋める情報提供をする意味でギャップ・フィードバックと呼ばれています。
ギャップ・フィードバックが効果を発揮するのは大前提があります。それはマネジャー自身がメンバーの上質世界(※)に入っているかどうかです。
ギャップ・フィードバックは、「伝える」ではなく「伝わる」ことが重要です。「伝わる」とは、フィードバックされた本人が納得して改善行動を起こすことです。
フィードバック内容が的を射ていたとしても人間関係がなければ伝わりません。上質世界に入っている人から伝えられているかどうかが大きいのです。どれだけ伝え方を勉強しても、嫌いな人の言うことは受け取りたくないのが人間です。
ですから、なおさら私は、日頃からメンバーと良好な人間関係を築くことにこだわっています。
なぜならば、これができていないと、メンバーに本当に必要なことをフィードバックできない=メンバーの成長に貢献できないマネジャーになってしまうからです。
※上質世界:「生存」「愛・所属」「力」「自由」「楽しみ」という5つの基本的欲求を1つ以上満たす人・モノ・状況・価値観などのこと
■日頃から「言行一致しているか」襟を正す
そして、もう1つ大事なのは「伝える内容」をマネジャー自身が実践していることです。例えば普段から人のネガティブなことを陰で言っているマネジャーが「○○さん、他部署の批判をしていると聞いたんだけど、陰口は良くないと思います」と言っても、何の説得力もありません。
マネジャーはセルフ・コントロールとして、日頃から言行一致しているか襟を正しておく必要があるのです。
とは言っても、マネジャーも完璧な人間ではありません。私自身もそうです。上質世界に入っていないメンバーがいたり、言行一致となっていない面もあるでしょう。メンバーからフィードバックをもらうときもあります。それは誠実に受け止める心を持ちながら、メンバーの成長にとって伝えるべきことは、次の5つのステップを用いてギャップ・フィードバックをするようにしています。
■「怒っている」では改善・成長しない
実際のケーススタディを元に考えてみましょう。
【シチュエーション】

メンバーに今週中を期限として資料作成を依頼した。しかし、メンバーは期限を過ぎても資料を提出してこなかった。
事前連絡もなし。マネジャーが確認をしたら「すいません。抜けていました」という返答があった。
【前提】感情のままに、フィードバックしない
ギャップ・フィードバックの具体的なステップに入る前に、押さえておきたい大切な前提があります。
それは、イライラした感情のままフィードバックに入らないことです。このシチュエーションのような「連絡もなく抜けていた」という場面では、マネジャーによっては、イライラし感情的になる人もいるかもしれません。
その感情を直接ぶつけてしまうと、相手には内容より「怒っている」というメッセージだけが伝わってしまいます。これでは、改善・成長は起こりません。
大切なのは、この出来事を「問題」ではなく、「育成のチャンス」として捉え直すことです。「なぜできなかったのか」を問う前に、「ここから部下は何を学べるか」「どんな成長につなげられるか」という目的に立ち返る。そのためにも一度、自分の感情を落ち着かせることが重要です。
■イライラした時「心の中でつぶやく一言」
・深呼吸をする

・一度席を外す

・水を飲む
どんな方法でも構いません。
「今の自分は感情的になっていないか」を確認し、落ち着いた状態に戻すことが先決です。私自身、イライラを感じたときは「来たな、これは育成のチャンスだ」と心の中でつぶやくようにしています。すると、不思議と視点が切り替わり、感情に飲み込まれずに済みます。
以前、ある上司から「マネジャーは、機嫌よくいなさい」という言葉を教えてもらいました。マネジャーが不機嫌で感情的になると、相手は恐れや防衛に入り、学びを受け取れなくなってしまうからです。ちなみに、これは、感情を押し殺せという意味ではありません。
ギャップ・フィードバックは、部下を追い込むためのものではありません。成長を支援するためのものです。だからこそ、感情ではなく、目的に立ち返る。「ありたい自分」「なりたいマネジャー像」を思い出す。その状態に整えてから、次のポイントを意識して伝えてみてください。
■ギャップ・フィードバックの「鉄則」とは
1.個別で伝える環境設定
メンバーに「ちょっと話す時間がある?」と声をかけて個別で話せる環境に移動します。
ポジティブ・フィードバックは大勢の前でしてもよいのですが、他の人が聞いているところでギャップ・フィードバックすると自尊心が傷つき、欲求が満たされません。苦言を耳にする周りの人もいい気持ちにはなりません。ギャップ・フィードバックは一対一で行うのが基本です。
2.状況説明を促す
まず頭ごなしにフィードバックせず、状況説明を促します。本人に事実確認し、説明してもらうのです。
「この前、資料の作成をお願いして、今週中に出すことになっていたよね。事実として今は提出されていないんだけど、あなたに何が起きたのか、説明してくれる?」
本人の認識を把握することが目的です。憶測や解釈だけでフィードバックしないこと。事実に基づいてフィードバックを行うことが鉄則です。
ギャップ・フィードバックでは先に会話のボールを相手に渡します。本人もミスをしていることはわかっていることが多いので、いきなり「期日を守ってないよね」と始めてしまうと叱られることへの自己防衛が始まり、本人の成長・学習の機会となるような情報提供が果たされないからです。
大事なことはポーズで聞くのではなく、「真剣に事実を把握しよう」「メンバーの認識をまず理解しよう」と耳を傾けることです。

また事実はさまざまな面で具体的に把握します。いつ取り組んだのか、周りにどのような影響が生まれたのか、時間はどのくらい費やしたのか。「どうせ期待していないくせに……」「上司としての体面を保つために叱っているんだろう」「私に興味ないくせに、仕事だから怒っているだけだろう」といったように、根本の信頼感が欠如していたら、どんな言葉もメンバーの心には入っていきません。
3.Iメッセージでマネジャー側の認識を伝える
次はマネジャー自身の認識を伝えます。相手が伝えてきた事情の内容次第ですが、それでも依頼したタスクを実行しなかった事実があるわけですから、それに対してマネジャー自身はどう感じているのか、Iメッセージ(“私”を主語とした言い回し)で伝えます。
「事情は理解しましたが、抜けていたというのは私としてはショックです」

「◯◯さんならやってくれると思っていたので、未着手というのは悲しい気持ちです」

「資料が作成されていなかったこと以上に、連絡が何もなく今日を迎えていることはとても残念です」
目的は本人の成長、組織のパフォーマンス向上につなげることです。マネジャーの率直な所感や感情はそう感じたのは事実ですから貴重な情報になります。ただし、決してそれを感情的には伝えません。情報提供として所感を落ち着いて伝えるのです。
メンバーの未熟さをサポートするのがマネジャーの仕事です。ミスや問題が起きたら育成のチャンスと捉え、学習の機会にする意識でIメッセージで伝えます。
■原因には「行動面」と「考え方面」がある
4.原因を確認し問題の本質をすり合わせる
Iメッセージで感じたことを伝えたら、原因を振り返ります。
何が今回の問題の原因だったのか、本人にまず尋ねます。
「今回起きたことの振り返りをしたいのだけど、何が原因だったと思う?」
大切なポイントは、「人」ではなく「事」に焦点を当てることです。「あなたが悪かった」と人に焦点を当てると、批判と受け取られたり、人格すべてが問題のように感じられてしまいます。それより「何が原因か」という質問をすると、具体的な改善につなげやすくなります。
原因には「行動面の原因」と「考え方面の原因」があります。「タスク管理ができず漏れていた」というのは行動面の原因です。「忙しくてそんなに大事じゃないと思っていた」というのは考え方面の原因です。
それぞれに対してIメッセージを交えながら、フィードバックを行います。
【橋本】「何が原因だったと思いますか?」

【メンバー】「タスク管理ができていなくて、漏れてしまったと思います」

【橋本】「そうですか。普段は依頼を受けたら、どう管理していますか? 例えば、メモをしてタスク登録をして、締め切りを設定する、など」

【メンバー】「いつもは、手帳にメモをして、そのあとまとめてタスクに入れています。でも、その日バタバタしていたので後回しにしてしまい、そのまま抜けました」

【橋本】「そうすると『忙しいときに、タスク管理を後手に回さないために何を変えるか』が効果的な改善につながりそうですね。ちなみに、タスク登録を後回しにするとき、どんな思考の癖がありそうですか? 例えば、きちんとやりたい、自分は忘れないから大丈夫、など」

【メンバー】「バタバタするのが苦手で、きちんと時間をとってやりたいと思っているかもしれません」

【橋本】「深い気づきだね。ここまでのプロセスを踏まえて、何を改善したら、次は同じことを起こさずに済むと思うのか、まとめてもらえますか?」
本人の考える「原因」を聞いた上で、マネジャーの解釈をIメッセージで伝えます。
5.改善計画を立案する
最後は、今後も同じことを繰り返さないように、本人に改善案を考えてもらいます。
「もしも依頼されたときの状況に戻れたとしたら、何を変えてみますか?」

「次はどのように改善しますか?」
改善には基本的に「行動」と「考え方」の両方をどう変えるかが必要です。
「その場でカレンダーに期日を書き、タスクを実行する時間をつくります」であれば行動の改善になりますし、「次は絶対に期日を守る意識でやります」であれば考え方の改善になります。
もしもどちらかしか改善案が出ない場合には、
「その改善案はいいね。次からは絶対守るその意識でやってね。ちなみに、具体的なタスク管理についてはどう改善しますか?」
と、出なかったほうの改善案も明確にします。そして、本人が今回の問題やミスは「改善につながる」「良くないことだったけど、良い学習になった」と捉えていることが感じられたら終わります。
■同じミスを繰り返す人の「真の問題点」
ここまで、フィードバックの考え方や伝え方についてお伝えしてきました。それでもなお、同じことが繰り返され、改善が見られないメンバーがいる。そんな場面に直面することもあるでしょう。
ここで大切なのは、「伝え方が悪かったのかもしれない」とフィードバックを繰り返すことではありません。なぜなら、人はミーティングや面談だけでは、なかなか変わらないからです。
私自身、以前こんな言葉をかけられたことがあります。
「ミーティングで人は変わらない。育成は現場で行うものだ」
この言葉は、今でも強く心に残っています。フィードバックをしても改善が見られない場合、多くのケースで起きているのは、「部下のやる気がない」ことではなく、「部下が現場でどうやればいいのか、具体的なイメージを持てていない」という状況です。
このようなとき、マネジャーに求められるのは、さらに言葉を重ねることではなく、現場での支援に切り替える判断です。
伝えるから、「支援する」へ――具体的な選択肢は、大きく分けて3つあります。
1つ目は、マネジャー自身が現場に同行することです。
隣で仕事をして見せる。あるいは、本人がやるのを横で見ながら、必要なところだけ介入する。「全部任せる」のではなく、「全部奪う」のでもない。一緒に走る関わり方です。
■「改善しない=本人が悪い」とは限らない
2つ目は、他のメンバーの力を借りることです。すでにその壁を越えている人、本人が信頼している人、上質世界に入っていそうな人と引き合わせる。「○○さんの横で、一度見せてもらったらいいよ」「△△くんと一緒に、この仕事をやってみよう」
こうした現場同行は、マネジャーの言葉よりも具体的な学びをもたらします。
3つ目は、同行の前後で、短い振り返りを行うことです。同行の前には、「今日は特にここを意識して見てみよう」とポイントを共有する。同行の後には、「どうだった?」「学んだことは何だった?」「すぐに活かせそうなことはある?」と、本人の言葉で整理してもらう。この“前と後”があることで、ただの見学ではなく、成長につながる経験になります。
もちろん、すべてが同行や支援で解決するわけではありません。資質に合っていない仕事を任されている場合や環境そのものが本人に合っていないケースもあります。その場合には、役割の見直し、配置転換といった判断が必要になることもあるでしょう。
大切なのは、「フィードバックが効かない=本人が悪い」と決めつけないことです。改善しない背景には、マネジャーがまだ踏み込むべき支援の余地が残っていることが少なくありません。フィードバックは育成のスタートです。ゴールではありません。
言葉が届かないと感じたときこそ、マネジャーの仕事は、現場に戻ることなのだと思います。

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橋本 拓也(はしもと・たくや)

アチーブメント 取締役営業本部長、トレーナー

千葉大学卒業後、2006年アチーブメントに入社。入社1年目で新規事業の責任者に抜擢され家庭教師派遣事業を立ち上げるも、5年で事業閉鎖。2008年よりメンバーマネジメントに携わるが、異動・退職などが多く、7年間マネジメントの無免許運転期間を過ごす。その後、世界60カ国以上で学ばれる「選択理論心理学」を土台にしたマネジメントに取り組み、マネジメントが激変。メンバーおよび組織の飛躍的な成長を創り出し、2021年に新卒初の執行役員、2022年に取締役に就任。現在は130人以上のメンバーマネジメントに携わる。2023年に開講したマネジメント講座は1年でシリーズ累計1000人以上が受講。また、企業経営者や管理職、ビジネスパーソンらが年間1.8万人以上受講するセミナー『頂点への道』講座シリーズのメイン講師を務める。これまでに研修を担当した受講生は3万人に上る。

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(アチーブメント 取締役営業本部長、トレーナー 橋本 拓也)
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