※本稿は、小出翔『誰もが成長し活躍する会社のしくみ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■長期的な育成とチームワークを評価するしくみ
「スキルベース組織」で重要なのは、スキルベースの評価が、短期的な成果だけでなく、中長期的な視点での育成とチームワークの強化を促進する点です。
スキルベース組織では、新たなスキルの「習得」そのものが評価対象となります。これにより、社員は安心してリスキリングに取り組み、能力を高めていくことができます。
また、チームワークに関するスキルも明確に定義し、評価することができます。たとえば、「ナレッジ共有スキル」「他部署との連携スキル」「後輩指導(メンタリング)スキル」などを評価項目に組み込むことで、個人の成果だけでなく、チーム全体のパフォーマンス向上に貢献する行動を促進できます。
かの有名な経営学者ピーター・ドラッカーは、「組織の目的は、凡人をして非凡なことをなさしめることにある」と述べました。スキルベース組織は、個人の強みを活かしつつ、チームとしての相乗効果を生み出すための基盤となります。
■採用力と定着率の向上へ
公正で納得感のある評価・処遇と、個人の成長を支援する環境は、組織の内外に対して強力なメッセージとなります。
定着率の改善
社員が会社を辞める根底には、「この会社では正当に評価されない」「ここでは成長できない」という思いがあることが多いものです。
スキルベース組織では、自分の努力がスキルという目に見える形で蓄積され、それが公正に評価され、報酬に反映されます。
これにより社員は将来への見通しを持つことができ、エンゲージメントが高まります。優秀な人材ほど、金銭的な報酬だけでなく、成長機会や自己実現を求める傾向が強いため、スキルベース組織のアプローチは、彼らを引き留める(リテンション)うえで非常に効果的です。
採用競争力の強化
採用市場における競争は激化しています。候補者が企業を選ぶ基準も変化しており、とりわけZ世代と呼ばれる若年層は、給与だけでなく、「どのようなスキルが身につくのか」「自分が成長できる環境か」を重視する傾向が顕著だといえます(*)。
*リクルート「就職白書2024」データ集
スキルベース組織は、採用市場においても大きな魅力を持ちます。
「当社では、あなたの持つ○○スキルを高く評価します
「入社後、△△スキルを習得し、将来的には□□のポジションを目指していただきます」
このように、具体的なスキルを基軸として、キャリアの可能性を明確に示すことができるため、Z世代に限らず成長意欲の高い優秀な人材を引きつけることができます。また、曖昧な職務要件ではなく、具体的なスキル要件に基づいて採用を行うことで、ミスマッチを防ぐ効果も期待できます。
■4つのインパクトで「正のスパイラル」が回り始める
スキルベース組織の導入が「企業の成長」「個人の成長」の両面でどのようなインパクトをもたらすかについては第3回記事(「上司の勘で行う“適材適所”より効果的…AIマッチング技術による“配置”が成果をあげるワケ」)、第4回記事(「だから事務職一筋の50代女性が抜擢された…学歴と年齢で判断する会社がこれから勝ち残れないこれだけの理由」)で詳しく解説しました。
それは以下の4点にまとめられます。
① 変化に対応できる柔軟な組織の構築➡企業の変革①
② 人材ポートフォリオの最適化と競争力の強化➡企業の変革②
③ 多世代にわたる成長機会の提供➡個人の成長①
④ 公正な評価・処遇と採用力・定着率の改善➡個人の成長②
これら4つは、それぞれ独立したものではなく、相互に密接に連動しています。企業の変革と個人の成長が両輪となり、組織全体を巻き込む持続的な成長サイクル、すなわち“正のスパイラル”が回り始めます(図表1参照)。
■正のスパイラルの無限の可能性
まず、組織運営の単位を「スキル」にシフトすることで、変化に応じて柔軟に役割を変え、機動的にチームを編成できる、アジャイルな組織運営が実現します。
そして、データに基づいて人的資本が最適に配置(適材適所)され、経営戦略が迅速に実行される基盤が整います。
この新しい組織基盤のうえで、すべての社員のスキルが可視化され、一人ひとりに最適化された成長機会が提供されます。これにより、エンゲージメントとキャリア自律の意識が高まります。
習得したスキルが透明性の高い基準で公正に評価され、処遇に反映されることで、社員の納得感とモチベーションはさらに向上し、優秀な人材が定着します。
個人の成長が組織の機動性をさらに高め、企業の競争力が強化されます。
■マイクロソフトの「成長マインドセット」
この理想形に近づきつつあると考えられるのが、マイクロソフトの事例です。同社はサティア・ナデラCEOの下、「GrowthMindset(成長マインドセット)」を組織文化の中心に据えました。
具体的には、組織の意識を「Know-it-all(すべてを知っている人)」から「Learn-it-all(すべてを学ぶ人)」へ変えることを掲げ、単なるスローガンに留まらず、人事評価の項目に「個人の成果」だけでなく「他者の成功にどれだけ貢献したか」を組み込むことで、学習と共有をしくみとして定着させました。
そして、「モバイルファースト、クラウドファースト」への大胆な戦略転換に伴い、一部職種における必要スキルの定義を刷新し、大規模なリスキリングと役割の再定義(ロールシフト)を断行しました。
たとえば、INTREPIDのケーススタディによると、グローバルの営業職約1万5000人に対しては、従来の「IT管理者に製品スペックを売る」手法から、「ビジネスの意思決定者に課題解決を売る」手法への転換を促す大規模トレーニングを実施。また、社内IT部門においても、サーバー管理中心の業務から「DevOps」や「アジャイル開発」といったクラウド時代のスキル習得を支援し、数年がかりで役割転換を進めました(*)。
*INTREPID “Microsoft Transforms Global Salesforce with Cohort-based Learning”
もちろん、完璧な状態ではありませんが、常に学び、進化し続ける姿勢こそが、この成長サイクルを回す鍵であることを示しています(*)。
*HARVARD BUSINESS REVIEW “How Microsoft Uses a Growth Mindset to Develop Leaders”、London Business School “Satya Nadella at Microsoft: Instilling a Growth Mindset”
■3つの人材マネジメントモデルを比較する
スキルベース組織のインパクトをより深く理解するために、本稿では従来型の「メンバーシップ型」「ジョブ型」と、「スキルベース型」の人材マネジメントが具体的にどう異なるのかを概観します。
とくに「採用・定着」「配置・育成」「評価・処遇」という人材マネジメントの主要なプロセスにおいて、その違いは明確に表れます。
■①採用・定着
まず、「採用と定着(あるいは代謝)」の観点です。メンバーシップ型は、長期的な育成を前提として「人」を採用します。新卒一括採用がその典型であり、長期雇用が前提となるため、人材の代謝は緩やかです。
一方、ジョブ型は、特定の「職務(ポジション)」を遂行できる即戦力を採用します。職務が明確な反面、そのポジションがなくなれば、異動か退職を迫られる可能性がほかの形態よりも高くなり、人材の代謝は活発になります。
これに対しスキルベース型は、「スキル」と「プロジェクトへの適合性」を重視して採用します。たとえば、「特定のプログラミング言語でモジュール開発ができ、ビジネス英会話が可能な人材」といった具体的なスキル要件で採用が行われます。
新しいスキル需要に応じてリスキリングが進みますが、対応できない場合は退職も選択肢となり、一定の流動性を内包しています。
■②配置・育成
次に、「配置と育成」の観点を見てみましょう。
メンバーシップ型では、総合力を高める(ジェネラリストを育成する)ために、部門を横断した幅広いジョブローテーションが行われます。
ジョブ型では、ジョブディスクリプションに基づいて配置されるため、異動は少なく、その職務における専門スキルを集中的に強化します。
スキルベース型では、社員の持つスキルセットを基に、その時々のプロジェクトやタスクに柔軟かつ流動的な配置が行われます。育成においても、会社が一方的に指示するのではなく、社員が自身のキャリア目標に応じて必要なスキルを自主的に強化し、リスキリング(学び直し)を通じて能力を拡張していくことが奨励されます。
■③評価・処遇
そして、「評価と処遇」の観点です。
メンバーシップ型は、勤続年数や長期的な貢献が評価され、年功序列的な処遇となる傾向があります。
ジョブ型は、職務ごとの目標達成度が評価され、職務の価値に応じて給与が設定されます。基準は明確ですが、職務外の貢献は評価されにくい側面があります。
これに対し、スキルベース型では、プロジェクトごとの成果(スキルの発揮)と、新たなスキルの習得(成長)の両方が多角的に評価されます。スキルレベルや貢献度が報酬に反映されるため、自己成長が処遇に直結し、高い透明性と納得感に繫がります。
■メンバーシップ型とジョブ型の利点を両立させる
このように比較してみると、スキルベース型人材マネジメントは、メンバーシップ型の「長期的な育成視点」と、ジョブ型の「役割(スキル)の明確さ」を両立させつつ、変化の時代に不可欠な「柔軟性」と「個人の自律的成長」を実現するための、新しいアプローチであることがおわかりいただけると思います。
さあ、準備は整いました。
拙著『誰もが成長し活躍する会社のしくみ』では、この「スキルベース組織」を皆さんの会社で具体的に実現していくための方法論について、「採用・定着」「配置・育成」「評価・処遇」「適切な運用」という4つの視点から、より実践的に解説していますので、ぜひ併せてご参照ください。
----------
小出 翔(こいで・しょう)
グローネクサス代表取締役
デロイト トーマツコンサルティングでの14年間のコンサルティング業務において、様々な業界の大手企業から官公庁、自治体まで、のべ120社(団体)500万人の人材マネジメントを支援してきた“人事戦略のプロ”。独立・起業後も、大手電力・製薬・素材業や金融業等にて人事・組織改革、新規事業創出、業務効率化の戦略策定から実行・伴走支援まで幅広く手掛ける。経済産業省・IPAへの、デジタルスキル標準策定の支援経験もあり、デジタル時代の人材・リスキリング分野に特に強みを持つ。
----------
(グローネクサス代表取締役 小出 翔)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
