ここ数年、「年金だけでは老後資金が足りない」と不安を抱く人が増え、資産運用や貯蓄の重要性が繰り返し語られている。
一方で「年金は繰り下げ受給が得」といった情報もあふれており、制度の複雑さに戸惑う人は少なくない。
だが、「その数字を額面通りに受け取ってしまうと、税金や社会保険料の負担を見落とし、老後資金の見通しを誤る恐れがある」と警鐘を鳴らすのは、お金に関する発信で40万人超のYouTube登録者を誇り、現役ファイナンシャルプランナーでもある鳥海翔氏だ。
物価高も進行する現在。老後のお金を考えるうえで、私たちが本当に押さえるべきポイントはどこにあるのだろうか。
■トランプショックで退職金が3000万→2000万円に
老後のマネープランを練る際、いちばん危険なのは「予定通りの金額が、予定通りのタイミングで手に入る」と思い込んでしまうことだ。投資に絶対はなく、想定外のショックは必ず起こり得るという前提が抜け落ちているのだ。
とくに、運用実績によって受け取り額が変動する確定拠出年金(DC)などをあてにしている場合、そのリスクは計り知れない。鳥海さんは実際の相談事例を明かす。
「企業型の確定拠出年金で、退職時に3000万円ほど受け取れる予定だった方がいました。しかし、4月に60歳の誕生日を迎える直前、トランプショックなど世界的な市場変動の直撃を受け、退職金が一気に2000万円まで激減してしまったのです」(鳥海氏、以下同)
1000万円ものマイナスは、老後設計において致命傷になりかねない。本来であれば相場が回復するまで受け取り時期を遅らせるべき局面だが、この相談者は最悪のタイミングで資金を受け取ってしまった。なぜか……。
■「現金の余裕のなさ」が招いた「最悪の選択」
「最大の原因は、手元に『現金の余裕』がなかったことです。退職金がまとまって入ってくる前提で日々の生活費やローン返済を計画していたため、待つ選択ができなかった。手元資金がないと人間は冷静な判断力を失い、狼狽したまま目減りした退職金を受け取って想定外の資金不足に陥るのです」
預貯金が不足していると精神的な余裕が完全に失われる。「相場はいずれ回復する」と頭ではわかっていても、当座の生活費がなければ待つことはできない。
十分な蓄えがあれば受け取り時期をずらせたはずが、結果的に60代でふたたびパートや再雇用で労働市場に出ざるを得なくなってしまうのだ。
■繰り下げ受給で「逆に損する人」
昨今のマネー誌やウェブメディアにおいて、頻繁に目にするのが「年金は繰り下げ受給がお得」とする論調だ。受給開始を遅らせて毎月の受給額を割増しし、長生きリスクに備える理屈である。一見合理的だが、この定説に鳥海さんは異を唱える。
「結局のところ、年金を先にもらうか後にもらうかの違いでしかなく、損益の分岐点はだいたい80歳以降です。マクロな視点で見れば、無理をして受給時期を遅らせても劇的な差は生じません。むしろ注意すべきなのは、年金の手取りの割合です」
額面が増えれば、それに連動して税金や社会保険料の負担も重くなる。場合によっては、増えた額面以上に各種負担が重くのしかかる逆転現象すら起こり得るのだ。
さらに厄介なのは、複雑な制度に振り回され、「年金額が少ないから、いっそ早くもらおう」と安易に前倒しで受け取る「繰り上げ受給」を選択してしまうケースだ。ここにも残酷なトラップがあるという。
「税金に関しては、所得が一定ラインを下回ればゼロになります。しかし、健康保険料と介護保険料には『最低保険料』が設定されています。つまり、収入である年金がいくら少なかろうとも、引かれる保険料は一定額から絶対に下がらない仕組みなのです」
年金額がもともと少ない人が繰り下げ受給をしてさらに額面を減らしても、天引きされる保険料の絶対額が変わらなければどうなるか。引かれる割合が相対的に大きくなり、手取り率が著しく悪化してしまうのだ。
■手取りが最大化する年金の受給額
では、年金は一体いくら受け取るのが最も効率がよいのか。税金や社会保険料の負担を踏まえたうえで、手取り率が最大化する「黄金ライン」の存在を鳥海さんは指摘する。
「具体的な数字でいうと、年間150万~155万円、月に換算して約12万~13万円のラインが、最も手取りの効率がよい金額になります。このラインは、住民税非課税世帯の要件と深く結びついています」
年間155万円前後であれば、非課税の恩恵を最大限に受けつつ、各種保険料の負担も最小限に抑えられる。また、医療費の自己負担割合や、高額療養費制度の上限額が優遇されるメリットも大きい。しかしこの絶妙なバランスは、金額が少し上下するだけで簡単に崩れる。
「年金額が150万円を下回っていくと、先述した『最低保険料』の影響で手取り率がどんどん低下します。年間144万円受け取っている人も、年間96万円しか受け取っていない人も、健康保険料の最低額が仮に年6万円だとすれば、負担額は同じです。逆に年金額が170万円、180万円と増えれば、税金や社会保険料の負担が段階的に重くなり、手取りの割合は少しずつ目減りしていきます」
つまり、自然体で年金が月15万円、20万円となる人が、あえて前倒し(繰り上げ)を選択して月12万~13万円のラインに下げるのは、税・保険料を抑える点で合理的な戦略になり得る。
だが、もともと受給額が10万円しかない人が、手元に早く現金が欲しいからと前倒しし、7万円に減らしてしまうのは、自らの首を絞める行為に他ならない。
■「投資の時代」でも一定の現金貯蓄は必要
こうした罠にハマらないために何が必要か。鳥海さんがひと際強調するのが、逆説的だが「手元に十分な現金を残しておくこと」だ。国を挙げて資産運用が推奨される時代、現金の保有は非効率と思う人もいるかもしれないが、実態は異なる。
「現金を持たず、少しでも増やそうと資産の大半を運用に回すと、いざ非常事態が起きた時に身動きが取れなくなります。現金はいわば心の『お守り』です。明確な絶対基準はありませんが、生活費の半年分から2年分、出口戦略に近い世代なら、できれば3年分の現金を持っておくのが理想的だと考えています」
なぜ3年分なのか。それは金融市場のサイクルと深く関係している。
「どれほどひどい暴落や下落相場であっても、だいたい3年あれば一巡して元の水準に戻る可能性が高いからです。
多額の現金を口座に寝かせるのがもったいないと感じるなら、そのうち1年分を値動きの少ない安全資産、例えばNISAを活用して元本割れリスクの低い債券型の投資信託などで運用するのもひとつの手だ。
「大切なのは、いかなる相場環境でも冷静な判断を保てるだけの防衛資金を確保しておくことです。生活基盤が安定して初めて、リスクを取った運用が可能になるのです」と鳥海さんは語る。
■「ねんきん定期便」の数字を鵜呑みにしてはいけない
日本の年金制度や社会保険の仕組みは、非常に複雑だ。「ねんきん定期便」に記載された見込み額も、あくまで額面にすぎない。実際には、そこから税金や保険料が差し引かれ、手元に残る額は受給額や家族構成、住む自治体によって変わってくる。
「定期便の数字だけを見て『これだけもらえるなら大丈夫』と思い込むのは危険です。大事なのは額面ではなく、税金や社会保険料を差し引いたあとに、実際いくら残るのかを見ておくことです。現在の支出ペースと、手取りの年金額にどれだけのギャップがあるのかを具体的に把握するべきです」
老後の資金計画は、単純な足し算引き算では成り立たない。制度の仕組みを知っているかどうかで、最終的に手元に残るお金は大きく変わるからだ。
そのうえで鳥海氏は、「老後のお金を守るうえで大切なのは、相場や制度に振り回されないだけの準備をしておくことです」と語る。
年金の額面だけで安心せず、実際の手取りまで見据えて考えておくこと。
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西脇 章太(にしわき・しょうた)
フリーライター
1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。
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鳥海 翔(とりうみ・しょう)
ファイナンシャルプランナー、投資家
1985年群馬県太田市生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、2008年三井住友海上火災保険株式会社に入社。リテール営業・企業営業を担当し、数々の表彰を受ける。金融商品の制約に疑問を抱き、2016年に株式会社Challengerを設立。NISAやiDeCo、保険、投資信託などの資産形成のための知識を提供する登録者数約40万人のYouTubeチャンネル「鳥海翔の騙されない金融学」を運営。著者に『だまされないお金の増やし方』(KADOKAWA)。
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(フリーライター 西脇 章太、ファイナンシャルプランナー、投資家 鳥海 翔)

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